国土交通省は5月9日、スプリング・ジャパン(旧春秋航空日本、SJO/IJ)に対し厳重注意を行った。3月18日の北九州発羽田行き貨物便IJ444便(エアバスA321ceo P2F型貨物機、登録記号JA82YA)の機長(51)が、乗務前の飲酒検査で規定を逸脱した手順での検査が発覚したことによるもので、5月30日までに再発防止策を文書で提出するよう同社に求めた。
—記事の概要—
・アルコール検査直ちに受けず
・機長否定も飲酒“認定”
アルコール検査直ちに受けず

3月に飲酒トラブルが発覚したスプリング・ジャパンの機長が乗務した当該機(手前)=24年8月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
IJ444便のパイロット2人のうち、規定を逸脱したのは機長のみ。スプリング・ジャパンの規定では乗務12時間以内の飲酒を禁じており、12時間前に体内に残るアルコール量を純アルコール換算で40グラム相当の「4ドリンク」以下にすることを定め、出社後すぐのアルコール検査を求めている。
当該機長はのちの調査で、出社約5時間前時点で体内にアルコールが残っていたことが判明。北九州空港への出勤時間は、出発1時間15分前の18日午前0時25分だった。アルコール検査を直ちに受けず、同じ便に乗務する副操縦士を含む周囲には「栄養ドリンクの影響でアルコールが検出されている」と説明し、アルコールが検知されなくなるまで自主検査を繰り返した。また、副操縦士らは繰り返す自主検査に疑念を持たず、栄養ドリンクの影響とする自己申告を信じてしまったという。
その後当該便は、機長のアルコール量が検知されなくなったことを確認後に出発。北九州を定刻より2分早い午前1時38分に出発し、羽田には15分早い午前3時に到着した。
機長否定も飲酒“認定”
スプリング・ジャパンが国交省へ報告したのは、当該便を運航した3月18日。その後に社内での調査で、12時間以内の飲酒禁止や「4ドリンク」の規定に抵触していたことが分かり、4月22日に追加で報告した。
国交省は翌23日に、スプリング・ジャパンへの立入検査を実施。自主検査用として会社が貸与しているアルコール検知器に、出社約5時間前の17日午後7時41分にアルコールの検知が記録されていたことが判明した。その後も十数回にわたりアルコールが検知され、アルコール数値が時間の経過とともに減衰傾向を示した。当該機長は規定に抵触する飲酒を否定し続けたものの、これらの客観的データから、会社は規定に抵触する飲酒を行ったと判断した。
国交省は今回の事案について、不合理な説明で違反行為を隠ぺいする悪質な行為とした上で、「出社後の自主検査を繰り返した行為は、会社のアルコール検査体制が適切に機能していない。安全管理システムも十分に機能していないものと認められる」とし、飲酒対策を含む安全確保に関する意識の再徹底と、アルコール検査体制の再構築を含めた安全管理システムの是正を求めた。
スプリング・ジャパンによると、当該機長は解雇処分を受け、5月9日時点で退職済みだという。
国内の航空会社では、昨年2024年12月に日本航空(JAL/JL)でもパイロットの飲酒問題が発生。メルボルン発成田行きJL774便(ボーイング787-8型機、JA840J)の出発前に、機長と副機長が乗務前日に過度な飲酒を行い、同便の出発が3時間以上遅れた。JALは2人を懲戒解雇し、国交省はJALに業務改善勧告したほか、元機長2人に対しても180日間(機長)・210日間(副機長)の航空業務停止処分を科した。
また、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)でも今年1月に飲酒トラブルが発生。現地時間7日のシンガポール発定刻午前2時15分発の関西行きMM774便(A321LR、JA902P)の機長が虚偽の飲酒時間を説明し、飛行勤務開始12時間以内の飲酒の隠ぺいを図ったもので、国交省はピーチに対し厳重注意し、当該便の機長を航空法に基づき、30日間の航空業務停止とする行政処分を行った。
関連リンク
国土交通省
スプリング・ジャパン
ピーチの飲酒トラブル
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