日本航空(JAL/JL、9201)は1月24日、国土交通省に再発防止策を提出した。昨年(24年)12月に、豪メルボルン発成田行きJL774便(ボーイング787-8型機、2クラス186席仕様、登録記号JA840J)の出発が機長2人(当時)の飲酒で3時間以上遅れたことなどを受け、航空局(JCAB)が行政指導にあたる「業務改善勧告」を行ったことに対するもので、飲酒対策を含む安全確保に関する社内意識改革など改善を求められた4点への対策に加え、JALが抽出した自発的な項目も再発防止策に盛り込んだ。
—記事の概要—
・検証委員会2月に発足
・5項目で再発防止へ
・局への報告期限間に合わず
検証委員会2月に発足

飲酒問題で再発防止策を策定したJAL(資料写真)=18年5月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
再発防止策は、業務改善勧告で国交省から指摘を受けた「飲酒対策など社内意識改革」「運航乗務員の飲酒傾向の管理強化」「アルコール検査体制の再構築」「安全管理体制の再構築」の4項目に加え、JALが自発的な項目として「運航本部の組織課題への対応」を抽出。計5項目で進めていく。再発防止策の進み具合や有効性は、検証委員会を立ち上げて確認する。委員会は2月に発足予定で、社外取締役を務めるヤマハ発動機(7272)の柳弘之顧問が就任する見通し。
JALはこれまで、2018年と2019年、2024年にも再発防止策を策定し、再発防止に努めていた。一方で策定後もトラブルが相次いでおり、再発を防止できていない。JALの鳥取三津子社長は今回の再発防止策の提出後に応じた取材で、これまでの現状について「策定したことで安心し、機能していなかった」と説明している(関連記事)。
5項目で再発防止へ
再発防止策を項目ごとにみると、「飲酒対策など社内意識改革」は、パイロットを束ねる運航本部と、全社的な課題の2つに大別。運航本部の要因は、アルコールリスクの軽視▽規定遵守の意識欠如▽イレギュラー運用などが考慮されていない規定の不備、の3点で、対策として、安全意識・規定遵守への専門教育と定期化▽アルコール不具合や規定違反発生時の情報共有の強化▽運航本部内の規定類の総点検・見直し、の3点を明記した。
全社的な課題としても3つの要因があるとし、過去の教訓を踏まえた安全文化や当事者意識、アサーション(提言)を受け入れる文化が定着していないこと、アルコール検査に携わる部門が全体像や目的の理解力不足、オペレーションに関わらない間接社員が、飲酒に関わる安全文化に緩みがある、とし、これらを実践的な教育で解消していくとした。
「運航乗務員の飲酒傾向の管理強化」は、乗員同士の相互確認の責任や実施方法が曖昧で、意識の定着不足があったと分析。過度な飲酒傾向にある運航乗務員に対する管理監督の不足や、ストレス低減や職場環境の改善への継続的な取り組みが重要だとし、これらの管理強化や、全社員が過度な飲酒に走らないよう、ウェルネス推進委員会を通じてアルコールリスクの低減を図る。
「アルコール検査体制の再構築」は、アルコール検査体制と、スケジュール管理などを担うオペレーション本部でのリスク対応の2つに大別。アルコール検査体制は、「自主検査」の名称を変更して定期教育を進めるほか、システム改修も含めたアルコール検査手順の見直しなどを進めていく。
オペレーション本部でのリスク対応については、情報が同本部の内外で多くのスタッフを経由することで希薄化したと分析。的確に運航判断できる仕組みを構築する。また、運航に疑義が生じた場合に、現地状況の確認手順を明確化する。
「安全管理体制の再構築」は、厳重注意などへの対応と報告遅れに関する問題点の2つを挙げ、運航安全推進部を全体総括とした監視強化や、役員や安全管理担当者に対する安全教育などを進める。報告遅れについては、役員や安全管理部門長への危機管理教育や安全教育の強化、報告要領の明確化を対策とする。
航空法で定める航空局への報告要領では、アルコールの影響により正常運航ができない恐れがある状態での業務▽体内にアルコールが残った「酒気帯び」での飛行勤務▽適切なアルコール検査の未実行▽飲酒禁止期間内の飲酒、の4つ起きた場合に報告する必要がある。JALは今回のアルコール事案について、当初は報告義務に該当しないとしており、航空局への報告が遅れた。JAL安全推進本部の清水威史副本部長は、本来の「飛行勤務」は出社時間以降が該当するが、アルコール検査後だと誤解していたと説明した。
このほか、JALが自発的に抽出した「運航本部の組織課題への対応」も、今回の再発防止策の5つ目として組み込んだ。JALは運航乗務員によるアルコール事案が繰り返されるのは、組織の自浄能力・当事者意識の欠如があったと分析。現業部門のガバナンス不足や限定的な情報伝達、閉鎖的な情報管理体質、リスクマネジメントの甘さを要因に挙げ、これらを強化することで課題対応を目指していく。
局への報告期限間に合わず

メルボルン空港で出発を待つ成田行き初便JL774便=17年9月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
アルコール検出による出発遅延は、12月1日に起きた。同日のメルボルン発成田行きJL774便に乗務予定だった機長と副機長が、乗務前日に滞在先のホテル近くのレストランで過度に飲酒。同便は機長2人のアルコール量が1リットルあたり0.00ミリグラムになったことを確認後、3時間11分遅れで出発した。JL774便は機長と副機長、副操縦士のパイロット3人1組で乗務。このうち、管理職である機長が2人とも飲酒問題に関わっていた。
機長2人は過度の飲酒について口裏を合わせ、同月3日夕方に過度な飲酒を認めるまで、両者は会社側に対し虚偽の説明をしていた。JALは当初、今回の事案は航空局への報告義務に該当しないと認識していたことから、報告したのは6日夜で、航空法で定める「発生日を含め3日以内」の報告期限には間に合わなかった。
その後、航空法に基づき17日と18日に立入検査などを実施し、機長と副機長が意図的に過度な飲酒をし、口裏合わせをして隠ぺいしていたことに加え、JALでアルコール検査が適切に実施されていなかったことがわかった。国交省はJALに対し、12月27日に行政指導の「業務改善勧告」を行い、1月24日までに再発防止策の提出を求めていた。
JALは行政指導を受けた12月27日に、当該機長2人を解雇したことを明らかにした。JALグループ内の航空会社で、パイロットとして再雇用する考えもないという。JALはパイロットのステイ先での飲酒を10月に解禁したばかりだったが、メルボルンでの飲酒問題発生により、12月11日から再び飲酒禁止としている。
鳥取社長は再発防止策の提出後に応じた取材で、社内処分の決定を発表。鳥取社長のほか、安全問題の責任を負う「安全統括管理者」を務める赤坂祐二会長を2カ月間減俸30%とするほか、直接的な責任のある安全推進本部長の立花宗和常務、運航本部長の南正樹執行役員、オペレーション本部長の下口拓也執行役員の3人は、「1段高い処分」(鳥取社長)を検討し、取締役会に諮(はか)る。また赤坂会長を安全統括管理者から解く。赤坂氏の後任は未定で、今後決定する。
鳥取社長の謝罪
・JAL鳥取社長、飲酒問題で謝罪 従来の再発防止策「機能していなかった」(25年1月24日)
当該機長の解雇
・JAL、飲酒問題の機長2人解雇 グループ内の再雇用否定(24年12月27日)
国交省が業務改善勧告
・JAL機長2人飲酒問題、国交省が業務改善勧告 口裏合わせや検査不備を指摘(24年12月27日)
24年12月の飲酒問題
・JAL機長飲酒問題、自主検査を手順通りせず出社 オフィスでアルコール検知(24年12月12日)
・JAL、パイロットのステイ先飲酒禁止「当面の間」(24年12月11日)
・JALパイロット、アルコール検出でメルボルン発3時間遅れ 12/1成田行き(24年12月10日)
24年5月の厳重注意
・JAL、再発防止策を提出 安全意識を再徹底(24年6月12日)
・国交省、JALに厳重注意 平岡局長「教訓生かされていない」(24年5月27日)
18年と19年に事業改善命令
・国交省、JALに再び事業改善命令 パイロット飲酒、赤坂社長「傍観者いてはいけない」(19年10月8日)
・国交省、JALに事業改善命令 ANAとスカイマークなど厳重注意 パイロット飲酒問題(18年12月22日)