エアライン, 空港, 解説・コラム — 2018年10月9日 11:30 JST

「“素人判断”もうやめて」特集・台風で顕在化した関空経営陣の課題(後編)

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 開港記念日である9月4日に、台風21号が直撃した関西空港。3日後の7日には被害が少なかったB滑走路とLCC用の第2ターミナルを使って暫定復旧し、21日には冠水したA滑走路と停電に見舞われた第1ターミナルも全面再開させ、旅客が使う施設は復旧のめどがついた。対岸と関空を結ぶ連絡橋は、4日にタンカーが南側に衝突したことでバスや緊急車両などに限られてきたが、10月6日午前0時にはマイカー規制が解除され、2019年ゴールデンウィークの完全復旧を目指す。

 前回は、こうした旅客施設が復旧する裏で、作業が後回しになってきた貨物を取り上げた。貨物を扱えるキャパシティーは、台風前と比べて8割の水準に戻ったが、事業者の中には全面再開の見通しが立っていないところもある。

 このため、貨物取扱量が台風前の水準に回復するまでに時間を要する可能性があるだけでなく、1995年に起きた阪神・淡路大震災の影響で大打撃を受けた神戸港のように、元通りになるには20年以上かかるのでは、との見方もある。

関空の復旧状況を説明する関西エアポートの山谷社長。今回の台風対応に航空会社からは辛辣な声が聞かれる=18年10月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関空で開かれた第三者委員会「台風21号越波等検証委員会」の初会合=18年10月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回、旅客施設が異例とも言える短期間で復旧した背景には、弊紙が暫定再開翌日の9月8日にスクープした通り、関空を運営する関西エアポート(KAP)経営陣の危機対応能力を疑問視した官邸が、早い段階で国主導の復旧に事実上切り替えたことが大きい(関連記事)。

 早期復旧を成し遂げたせいか、台風という比較的動きを予見しやすく、日本で起こりやすい自然災害である割に大きな被害が生じたことや、KAP経営陣の対応に問題があったことが、1カ月の節目を過ぎたことで忘れ去られつつある。

 KAPは10月3日に、有識者による第三者委員会「台風21号越波等検証委員会」(委員長:平石哲也・京都大学防災研究所教授)の初会合を開いた。この委員会は台風により電源設備など重要施設が水害に遭ったことから、今後の対応策を検討する委員会だ。つまり、台風21号に対して経営陣が下した判断について、妥当性や改善点を検証する場ではない。

 しかし、KAP経営陣の資質については、国内外の航空会社が2016年4月の民営化当時から疑問視しており、台風対応という危機管理で表面化したものだ。弊紙でも、情報開示に消極的な点などを度々取り上げてきたが、残念ながら現実の被害につながってしまった。

 「連絡橋が使えなくなったからと説明しているが、連絡橋以前の話だ」(航空会社幹部A氏)と、今回も厳しい声が聞かれた。そして、他空港の運営会社幹部からは「KAPから人材流出が起きているが、このままで大丈夫なのか」と、行く末を案じる声も聞かれる。

 特集後編では、KAP経営陣の問題点を中心に取り上げる。

—記事の概要—
台風当日、トップ2人不在
「経験がそんなに多くない」
「優秀な人材から辞めていく」

台風当日、トップ2人不在

 関空は1994年9月4日開港。2016年4月1日に、伊丹空港とともに民営化された。国に所有権を残したまま運営権を売却する「コンセッション方式」で、KAPに運営委託されている。KAPには、オリックス(8591)と仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資し、オリックス出身の山谷佳之社長と、ヴァンシ出身のエマヌエル・ムノント副社長が同格のトップとなっている。

台風21号の被害で停電し運用再開を待つ関空の第1ターミナル=18年9月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

台風21号の被害を受けた関空第1ターミナルに駐機中だったのはANAの767だけだった=18年9月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 契約における代表企業はオリックスで、ヴァンシは「主なコンソーシアム構成員」にとどまる。しかし、ムノント副社長は「Co-CEO」なる聞き慣れない肩書きも使用しており、ヴァンシ側はあくまでも「同格」であることを主張したいようだ。

 船頭が2人いるKAP経営陣の資質を疑問視しているのは、官邸だけではない。2年前の民営化以降、関空とのやり取りで四苦八苦してきた航空会社もだ。交渉の窓口は、民営化前に運営していた国が出資する新関西国際空港会社(NKIAC)時代からの担当者だが、これまで円滑に進んでいたタイアップなども、「上の許可が下りない、と半ばあきらめ顔で担当者が戻ってくる」(航空会社幹部B氏)状態だという。

 なぜ、このような状態になってしまったのか。要因のひとつは、CEOをはじめ「CxO」と呼ばれる意思決定を下す層に、NKIAC時代の幹部がいなくなってしまったことだ。オリックスはこれまで空港運営の経験がなく、ヴァンシもポルトガルやカンボジアなどで空港を運営するものの、関空が同社最大規模の空港となる。つまり、関空レベルの空港運営は未経験だった。

 「運営できないなら、実務がわかる人を部門の責任者にしておけばいいのに、意見が対立すると、ほかの部署に飛ばしてしまう」(関係者)状況だという。部門責任者が過去の経緯や航空会社のニーズを十分に理解できず、話がこじれてしまうようだ。

台風21号の被害により閉鎖されたJR西日本(手前)と南海の関西空港駅=18年9月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、台風21号が直撃した9月4日。航空関係者からは、台風接近とともに関空の被害を心配する声が職種を問わず聞かれた。

 しかしこの日、山谷社長は東京、ムノント副社長は海外へ出張中だった。多くの関係者が関空の台風被害を予見する中、“同格のトップ”は二人とも関空を留守にしていた。そして、会見を開くよう報道陣から求められた山谷社長は、「事態を把握していない」と応じた。

 動きを比較的読みやすい台風災害で関空を留守にし、当初は事態を把握していなかった山谷社長。予測が難しい南海トラフ地震が起きてしまったら、関空はどうなってしまうのだろうか。

「経験がそんなに多くない」

関空の運営について質問を受けるJALの赤坂社長=18年9月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「正直に言うと、登場人物が多くてですね(苦笑)。調整がかなり大変だったんじゃないかなと思います」。9月26日、日本航空(JAL/JL、9201)の赤坂祐二社長は本社で開いた会見で、西日本新聞の記者から民間運営である関空と、そうでない空港の違いを尋ねられ、こう応じた。

 調整に苦労した現場をねぎらいながら、赤坂社長は「もう一つ感じたのは、エアラインのオペレーションに対して、経験がそんなに多くないかな、ということ。空港に対しては知見をお持ちだが、飛行機がどうやって飛んでいるのか、これから我々とコミュニケーションしていく必要があるのではないでしょうか」と感想を述べた。

 つまり、KAPは商業施設などに対する運営の知見は、善し悪しは別として持っていたものの、飛行機を飛ばすという本質的な空港運営については、経験不足だったと言い替えることができる。

関空・伊丹の運営権売却で契約書を交わす(左から)新関空会社の安藤社長(当時)と関西エアポートのの山谷社長、ムノント副社長。事業計画には災害対策も含まれていたはずだが…=15年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、経験不足だからできませんでした、予想を超える台風だったので被害が発生しました──、という言い訳は通用しない。なぜならば、オリックスとヴァンシは運営権を取得する際に提出した事業計画で、大規模災害が発生した際、広域防災拠点として役割を果たすことや、施設の更新投資を“着実に実施する”ことをうたっているからだ。国との運営権契約には、災害対策も含まれている。

 では実際に、施設の更新投資を着実に実施していたのだろうか。民営化前から働くKAPの社員は、「水害対策は民営化後もプランを作ってきたが、ご承知の通り上の方がね……」と、残念そうな表情を浮かべて言葉を濁す。

 山谷社長は「空港東側の護岸を高くする計画はあり、(NKIACから)引き継いでいる。2020年くらいにやろうとなっていた。滑走路に関するIATA(国際航空運送協会)のルールが2019年あたりに変わるので、2019年から着手できる」と説明する。

 しかし、IATAのルールがどうなろうと、できることから始めることも可能だったのではないだろうか。前出の社員が指摘するのは、こうした安全に関することが民営化以降、おざなりになる傾向が全体的に見られる点だった。

ターミナル閉鎖と滑走路閉鎖は別問題

 今回の台風対応で露呈した問題のひとつは、ヴァンシ側とのコミュニケーションだ。ムノント副社長をはじめ、ヴァンシ側は基本的に英語でのやり取りになる。しかし、国からの指示は当然ながら日本語。関係者は、「英語の資料がすぐに用意されないことに、いら立っていたようだった」と話す。

 ムノント副社長に、国との情報共有に問題がなかったかっと尋ねると、「ヴァンシとしてではなく、KAPとして対応した。日本人スタッフが日本語で、国とコミュニケーションした」と応じ、国との連携について山谷社長は「スムーズに行った」と強調する。

関空第1ターミナル全面再開時に取材に応じる関西エアポートの山谷社長(右)とムノント副社長=18年9月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、前述の通り意思決定を下す「CxO」には、民営化前の事情を知る人物がいない。つまり、民営化後の関空しか知らない幹部が最終判断を下している現状を、航空会社は厳しい目で見ている。

 9月30日には、台風24号接近により、19時間もの長時間にわたり、ターミナルだけではなく滑走路も閉鎖されたことから、航空会社は台風が関西地方を通過後も、羽田や成田にいる飛行機を関空に避難させる選択肢を検討できなくなった。関空は日本でも数少ない、24時間運用空港だ。

 確かに、台風21号では利用者など8000人が空港島に取り残された。今回はこれを防ぐためにターミナルを含めて全面閉鎖されたが、乗客が乗っていない飛行機すら着陸できないのでは、台風の進路上にある空港から、夜中に関空へ飛行機を退避させることができない。

 このため、夜中に飛行機を移動できる選択肢から関空が外れると、より遠くの空港へ逃がさなければならなくなった。関係者によると、「北海道や沖縄、さらには海外での待機を強いられた飛行機もあった。関空は24時間空港が持つ災害時の役割を果たしていない」という。

 この判断については、航空会社により評価が分かれている。ある航空会社は、「台風が関西を通過後も、関空を利用できる気象条件にならなかったことから、やむを得なかった」としていた。一方、別の航空会社は、「ターミナルは閉鎖するにせよ、飛行機は降りられるよう、少しでも早く滑走路閉鎖は解除すべきだった」と苦言を呈した。

 9月30日は全日本空輸(ANA/NH)とJALの大手2社と、LCCのピーチ・アビエーション(APJ/MM)とジェットスター・ジャパン(JJP/GK)の4社だけで、国内線と国際線合わせて935便が欠航。9万6300人以上に影響が出た。週明け10月1日も、西日本から東日本、北日本を発着する便を中心に、4社だけで165便の欠航が30日夜の段階で決まった。

 ターミナルは早期に閉鎖しても、滑走路は台風が接近するギリギリまで使えたり、台風が通過して安全が確認され次第利用できれば、より1日の欠航便を減らすことはできたのではないだろうか。「ほかの選択肢があるにもかかわらず、幼稚な判断だった」との声も聞かれた。

「優秀な人材から辞めていく」

 航空会社は公共交通機関であり、空港は飛行機が離発着する公共財だ。今回、複数の航空関係者から異口同音に聞かれたのは、KAP経営陣が“素人集団”だという評価だった。山谷社長は、「すべての台風に対して、同じようにするかは決定してない」と、長時間の全面閉鎖だけが選択肢ではないと強調する。

運用を再開した関空第1ターミナル北側のチェックインカウンター。訪日客は戻りつつあるが国や航空会社の信頼から信頼を得られるのだろうか=18年9月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関空の復旧状況を説明する関西エアポートの山谷社長=18年10月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「19時間も全面閉鎖し、滑走路の早期再開を決断しなかったムノント副社長と、CTO(最高技術責任者)のブノア・リュロ専務は退陣して欲しい。これまで各航空会社との間で起きたトラブルも、彼らが問題だった。山谷社長も彼らをコントロールできていない」(前出関係者)と、厳しい声も聞かれた。

 今回の全面閉鎖に対して、航空会社から不安や厳しい声が聞かれるのは、民営化から2年以上経過しているにもかかわらず、航空会社との信頼関係を経営陣が構築できていないからではないだろうか。

 そして、経営陣に異論を唱える社員を別の部署に左遷するといった事例が、これまでの取材で明らかになった。左遷だけではなく、「優秀な人材から辞めていっている」(空港関係者)という。

 山谷社長は退職者が出ていることに対し、「考え方が合わない社員もいるので、数人が去った」と、私の質問に応じた。しかし、正社員だけでも20人程度の退職者が出ているようだ。そして、そもそも人数だけの問題ではない。

 20人と聞くと、大事(おおごと)ではないように見える。しかし、優秀な人材から辞めていっている現状を、ほかの空港運営会社幹部は「関空を熟知した人間がいなくなると、何かトラブルが起きた際に、これまでよりも解決に時間がかかったり、解決できない可能性がある。最悪なのは仮に運営会社が変わった時に、対処できる人が誰もいなくなる恐れもあることだ」と危惧する。

 台風21号による被害から1カ月が過ぎ、旅客施設だけを見れば息を吹き返したように見える関空。しかし、経営陣の考え方が現状のままでは、大規模災害に対処する以前に、運営面で破綻するおそれがある。

 最終意思の決定を、オリックスやヴァンシの関係者だけが下す状況は、終わりにした方が良いのではないだろうか。そして国や施設管理者である現在のNKIACは、KAPの経営陣を今以上に厳しく監視する必要がある。

(おわり)

関連リンク
関西国際空港

特集・台風で顕在化した関空経営陣の課題
前編 「もう貨物は戻ってこないかも」

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当紙編集長が寄稿
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[雑誌]「関空の台風被害は人災」週刊エコノミスト 18年9月25日号(18年9月18日)

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