エアバス, エアライン, 官公庁, 機体, 解説・コラム — 2025年12月25日 11:50 JST

羽田衝突事故、疲労管理や視認性など12項目分析 運輸安全委が第2回経過報告

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 国の運輸安全委員会(JTSB)は12月25日、羽田空港で2024年1月2日に起きた海上保安庁のMA722(ボンバルディアDHC-8-Q300型機、登録記号JA722A)と、日本航空(JAL/JL、9201)の札幌発羽田行きJL516便(A350-900、JA13XJ)の衝突事故について、第2回経過報告を公表した。今回の報告では、第1回経過報告以降の調査で、新たに海保機、JAL機、航空管制の3分野にわたり、計12項目の分析を進めていることを明らかにした。

海保機との衝突で焼け落ちたJALのA350-900 JA13XJ=24年1月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
海保機:ステライル・コックピット・ルール未導入
JAL機:HUD視認性や拡声器の有効性
管制運用

海保機:ステライル・コックピット・ルール未導入

 海保機に関しては、5点を追加で分析。機長の疲労や労務管理の状況、事故前30日間に同型機への乗務がなかった事実に加え、副操縦士が管制指示を正しく復唱する一方で、滑走路進入後に実施すべきチェックリストを行っていた点も調査対象とした。

 また、同庁羽田基地では、離着陸時などに業務に関係ない会話を控える「ステライル・コックピット・ルール」の未導入や、滑走路進入前に最終進入経路上の他機の有無を機内で相互確認していなかった可能性についても検証を進める。

JAL機HUD視認性や拡声器の有効性

 JAL機については、3点が分析対象に加わった。夜間の海保機の視認性や、パイロット2人が使用していたヘッドアップディスプレー(HUD)が外部監視に与えた影響を調査している。また、パイロットの認識や判断に影響を及ぼしたその他の要因についても、シミュレーターや実機を使った検証実験の結果を基に分析を深める。

 被害軽減の観点からは、機体の損傷や火災拡大の状況、非常脱出時の機内環境などを継続して調査している。特に、機内放送システム(PA)が使用不能となった状況下での拡声器の有効性を確認するため、実機による検証実験を実施したほか、火災で発生した煙や臭気の成分分析も行った。

管制運用

 航空管制については、4項目を新たに挙げた。滑走路占有監視支援機能の導入・運用状況についてや、過去に発生した異常接近警報(CNF)関連の事故との共通点を含めて調査する。このほか、同機能に関する航空局(JCAB)の安全管理システムが有効に機能していたか、事故が起きたC滑走路を監視対象外としていた飛行監視席の運用実態、担当外の管制官による「気付き」の活用についても分析を進めている。

 事故は2024年1月2日午後5時47分ごろ、羽田空港C滑走路上で発生。滑走路上に停止していた海保機と、同滑走路に着陸したJAL機が衝突した。海保機には乗員6人が搭乗しており、機長が重傷、ほかの5人が死亡した。JL516便は乗客367人(幼児8人含む)と乗員12人(パイロット3人、客室乗務員9人)の計379人が搭乗していたが、全員が3カ所の出口から緊急脱出し、脱出時に1人が重傷、4人が軽傷を負った。

 JTSBは今後、これらの分析結果を踏まえ、事故原因の究明とともに、具体的な再発防止策や被害軽減策の取りまとめを進める。

図2 飛行場灯火の画像比較 (羽田空港滑走路34Rと中部国際空港滑走路36、JTSBの第2回経過報告から)

図2 飛行場灯火の画像比較
(羽田空港滑走路34Rと中部国際空港滑走路36、JTSBの第2回経過報告から)

図1 夜間の滑走路上に配置した海保機同型機の視認性に関する検証実験のイメージ(JTSBの第2回経過報告から)

図3 JAL機に搭載されていたものと同型式の拡声器 (JTSBの第2回経過報告から)

図3 JAL機に搭載されていたものと同型式の拡声器
(JTSBの第2回経過報告から)

図4 乗組員の脱出指示の伝達状況(一部乗客からの聞き取り、第1回経過報告から再掲、JTSBの第2回経過報告から)

図5 検証実験時の配置(JTSBの第2回経過報告から)

図6 検証実験時の機内作業風景(JTSBの第2回経過報告から)

図7 検証実験時に用いた集音マイク(JTSBの第2回経過報告から)

図8 羽田空港管制塔からの撮影画像(JTSBの第2回経過報告から)

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運輸安全委員会

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