官公庁, 機体, 解説・コラム — 2025年6月4日 14:20 JST

次期練習機T-X「エキスパートを集中投入」三菱重工、GCAPと開発重複時も対処

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 防衛省の次期練習機「T-X」の開発に向けて、コンセプト機の模型を5月に開かれた防衛・セキュリティ総合展示会「DSEI Japan」で初公開した三菱重工業(7011)。日英伊3カ国が共同開発する次期戦闘機「GCAP」の開発も、2035年の配備を目指して進んでおり、T-Xの同社案が選定された際、開発スケジュールによっては人的リソースを十分に確保できるかを懸念する声もある。MRJの初飛行から丸10年。国産初のジェット旅客機「MRJ」の開発に挑んだ三菱重工は、T-Xにどう向き合おうとしているのか。

三菱重工が初公開した次期練習機T-Xのコンセプト模型=25年5月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
増員とエキスパート集中投入
T-4後継機

増員とエキスパート集中投入

 三菱重工は進行中の「2024事業計画」で、GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント)事業や原子力事業と並び、防衛事業を重点領域の「伸長事業」に位置づけている。24事計では防衛事業の主なものとして、GCAPや無人機などの将来技術、日米共同開発のGPI(滑空段階迎撃用誘導弾)などを挙げている。GCAPの開発は、機体・エンジン・アビオニクスと分野ごとにプロジェクトがスタートしており、今後全体的な取りまとめも本格化していく。

三菱重工が初公開した次期練習機T-Xのコンセプト模型=25年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

2024事業計画を説明する三菱重工の伊藤栄作社長=25年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 T-Xについて、伊藤栄作社長は「お客様のニーズが明らかになり、弊社でできることがあれば最大限努力したい」と述べ、「どんどん人も増やしており、社内のエキスパートを集中的に投入できるので、ニーズにお応えできると思う」と、人的リソースは問題にならないとの見方を示した。

 24事計の経営方針では「平時は極力スリムに、中長期戦略に関わる重要局面では社内エキスパートを集中投入する」(伊藤社長)と、新規開発のピークを事業ごとにずらし、経験豊富な社内エキスパートの集中投入で開発要員を大量に必要とする期間を極力短くする。

T-4後継機

 防衛装備庁(ATLA)は、航空自衛隊が現在運用している国産練習機T-4の後継機と地上教育器材に関する情報提供企業を募集。各社から得た情報などを基に、T-4後継機の開発に向けた技術課題などの分析を進めている。

ブルーインパルスも使うT-4=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

国産練習機T-4=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 T-4の後継機となるT-Xへの要求として、最大巡航速度が音速の0.8倍以上、乗員が1人または2人の固定翼ジェット機としている。現時点で仕様は固まっていないものの、ハネウェルはT-X向けエンジンとして、イタリアの練習機・軽戦闘機レオナルド(開発時はアエルマッキ)M-346などが採用しているターボファンエンジン「F124」を提案しており、ライセンス生産などにも応じる意向を示している。

 三菱重工が今回発表した模型の塗装は、三菱重工で先進的な技術を採用した製品に用いているという、白地に黒と青を配した「コズミックデザイン」と呼ぶカラーリングにし、先進性をアピールしている。海外の機体メーカーと同様、三菱重工の「ハウスカラー」を定めた上での提案で、T-4を採用している航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」との関連性はないという。

 未完に終わった国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の初飛行から今年の11月11日で丸10年。開発中止を2023年2月7日に正式発表した際、MSJの開発で得た知見をGCAPなどに生かすとしており、仮にT-Xで三菱重工案が選定された際にも役立つのだろうか。

県営名古屋空港を離陸するMRJの飛行試験初号機=15年11月11日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
防衛装備庁
三菱重工業
DSEI Japan

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