2軸化とハイブリッドエンジンの可能性 ロールス・ロイス イーストCEOに聞く(後編)

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 ロールス・ロイス(RR)のウォーレン・イーストCEO(最高経営責任者)への単独インタビュー後編。前編では、ボーイング787型機用エンジン「トレント1000」の現状や、エアバスA380型機のリエンジンモデル「A380neo」の可能性などにふれた。

 後編では、新型エンジンなど今後の動向や、日本企業に求めるものを聞いた。

シンガポールにあるロールス・ロイスのセレター工場で組み立てが進むトレント1000=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
前編
ANAは優先事項
A380neo「機が熟しているかも定かではない」

後編
3軸から2軸、電力へ
中小企業は長期的視野で

3軸から2軸、電力へ

―― RRのエンジンは3軸構造がキーテクノロジーだが、2軸を採用する動きが出てきた。

ロールス・ロイスの戦略を語るイーストCEO=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

イーストCEO:すべて効率に関する問題だ。特に推進力の効率を高めなければならない。このためには、ファンをゆっくり回す必要がある。低圧タービンはどうしても大きくなるので、多くのステージで空気の流れを減速しなければならない。そうすると、重いものになってしまう。

 タービンを速く回す一方で、ギアボックスを介して空気の流れをゆっくりにする必要が生じる。ギアボックスの方がタービンよりも重さが軽いからだ。

 変更の方向性ははっきりしている。他社と比べると、RRは若干遅めであったと言ってもいいくらいだ。ギアボックスの技術的要件は簡単ではないが、3軸での改良余地はひっ迫している。

 そして、次のステップは電力活用だ。ハイブリッドにしたものができれば、電気モーターでファンをゆっくり回すことができ、ギアボックスの代わりにソフトウェアで対応できる。

 しかし、電気推進は解決すべき課題があるので、いま申し上げたビジョンはより長期的なものだ。

―― 日本では今、「空飛ぶ車」のような次世代航空機をめぐる動きが活発化してきている。ハイブリッド化以外にRRが描いているものはあるのか。

イーストCEO:二つの領域に分けて考えると、機械的なギアボックスの使用と、電力の活用だ。電力による推進については、二段階に分けて考える必要がある。

 ひとつがハイブリッド化で、もう一つがずっと先の将来に電力のみで推進力を得ること。しかし、航空機を飛ばすだけのバッテリーを完成させるためには技術的な課題があり、ずっと先の話だ。

 電力の活用については、RRでは3つのプロジェクトを進めている。まずは訓練機のように、1人か2人乗り小型機の完全電動化だ。これを小さな一歩として始めている。次のステージが中間的なもので、小型のハイブリッドエンジンを作ること。機体の大きさとしては、ヘリコプターぐらいだ。

 第3ステージが、エアバスと共同で進めているもので、より規模の大きなハイブリッドエンジンだ。RRにとって、パワーシステムは事業規模で4分の1くらいを占める大きなものだ。たとえば海軍向けや鉄道向けでも、電気にかかわる事業は数多くある。これらの事業部門で必要となる知識を得ているところだ。

 電気を推進力とする航空機開発は、航空以外の電力システム部門の知識と経験、航空にかかわる私たちの経験を組み合わせたい。

 そこで、日本の企業と技術的パートナーシップを結んでいる。特に電力システムの部品の知識を持っている企業と、私たちが持っている航空部門の技術的な強みを合わせれば、必ず成果が出ると思う。

中小企業は長期的視野で

── 電気を推進力とする開発では、日本のサプライヤーにはどういう技術を求めていくか。

A350-1000飛行試験2号機のトレントXWB。長期的に大型機もハイブリッドエンジンになる可能性も=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

イーストCEO:電気推進は、システムについては地上では完成されたもので、ハイブリッドの鉄道では問題なくできているものだ。しかし、これを地上4万フィートの高さで実現しようとなれば、まったく話が別になる。

 特に課題になるのが重量だと思う。もう一つは、放電に対処するテクノロジーだ。これらはどの会社も完成に至っているものではないので、たくさんの企業と協力し、開発していかなければならない。

 問題を解決できる企業にとっては、非常に大きなチャンスになる研究分野だと思う。飛行中に使う電力は、メガワット級のものを制御しなければならない。たとえば、ICレコーダーなどの電力はミリワットだ。この100万倍くらいのことを、1機の飛行機でやらなければならない。

 その中で問題になるのが放電だ。放電を減らすとなると、電圧を下げなければならず、電圧を下げながらパワーを出すためには、電流を増やさなければならない。これらを実現するには配線に用いるワイヤーが太くなってしまい、コンダクターが重くなる。つまり、放電周りの課題は、あちらを立てればこちらが立たずと、とても難しいものだ。

 今RRが活用しているテクノロジーは、日本の企業と強い関係があり、外部サプライヤーの割合で20%に相当する。こうした太いパイプがあるので、これからもさらに強力な関係を構築していきたい。

── 独自技術を持った日本の中小企業やベンチャー企業は、航空宇宙分野へどのように参入すべきか。

イーストCEO:RRの取引先は大企業が中心になる。なぜならば、長期にわたり供給が担保できることを、確実にしなければならないからだ。しかし、イノベーションは小さな企業の方が実現しやすいことも重々承知している。

 中小企業には、大企業とパートナーシップを組んで進めて欲しい。イノベーションのタネを量産化するには、相応の投資が必要だからだ。それも長期的に取り組まなければならないので、この点でも大企業との連携は重要だ。

 航空宇宙分野で特殊な点は、安全性を確保するための投資がとても重要であることだ。たとえば、とても革新的なカメラ用部品を作り、そのカメラで私の写真がうまく撮れなかったとしても、さしたる問題ではない。

 しかし、これを航空宇宙用部品でやってしまうと、人間に甚大な影響を与えることになる。だからこそ、時間とお金、大きな努力で安全性を担保しなければならない。中小企業がイノベーションを実現する際は、大企業の資本力を借りて、長期的に取り組む必要があると思う。

 それは新技術を開発するだけではなく、実証し、安全性の証左を取っていく点でも非常に重要なことだ。

(おわり)

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Rolls-Royce
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ボーイング・ジャパン
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