MRJ, 機体, 解説・コラム — 2017年4月27日 09:45 JST

MRJ、パリ航空ショーで地上展示へ

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 三菱航空機の水谷久和社長は4月26日、6月に開かれる世界最大規模の航空ショー「パリ航空ショー」にMRJを出展した場合、機体を地上展示する方針を明らかにした。

—記事の概要—
飛行展示なし
7号機以降をモーゼスレイクへ

*パリのル・ブルジェ空港で取材した記事と写真はこちら

飛行展示なし

MRJのパリ航空ショー出展の方針を説明する三菱航空機の水谷社長=17年4月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 MRJの飛行試験機は現在5機あり、初号機(登録番号JA21MJ)から4号機(JA24MJ)までを米国の開発拠点である米国モーゼスレイクのグラントカウンティ国際空港へフェリー(空輸)した。

 水谷社長は、「パリ航空ショーへ機体を持って行く方向で準備しようとなった。どの機体にするかは、ギリギリのタイミングで判断することになる」と述べ、「パリでは地上展示することになる」として、飛行展示(デモフライト)は行わず、地上展示にとどめる考えを示した。

 Aviation Wireの取材では、飛行試験3号機をローンチカスタマーである全日本空輸(ANA/NH)のカラーリングに塗り直し、パリへ持ち込む見通し。現在ANA塗装が施されている飛行試験5号機(JA25MJ)は、設計変更を機体に反映する機能試験(地上試験)を最終組立工場で実施し、当面は飛行試験に投入しない(関連記事)。

 MRJは、メーカー標準座席数が88席の「MRJ90」と、76席の「MRJ70」の2機種で構成。エンジンはいずれも低燃費や低騒音を特長とする、米プラット・アンド・ホイットニー製のギヤード・ターボファン・エンジン(GTFエンジン)「PurePower PW1200G」を採用する。

 三菱航空機の親会社である三菱重工業(7011)は1月23日、MRJの量産初号機の納入時期について、5度目の延期となる2020年半ばにすると発表。納入の半年前にあたる、2020年初頭までに、機体の安全性を国が証明する型式証明(TC)の取得を目指す。

 MRJ最大のライバルである、ブラジルのエンブラエルが開発中の「E2」シリーズは、最初の機体となるE190-E2が、2016年2月25日にロールアウト。予定を前倒しして、3カ月後の同年5月23日に初飛行に成功し、7月11日からロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーに飛行試験初号機(登録番号PR-ZEY)を持ち込んだ。E190-E2も飛行展示は行わず、地上展示のみだった。

 水谷社長は今後のスケジュールについて、「見直したスケジュールを死守する。秋頃にはベースとなるものを固める」として、今秋が開発を進めていく上での山場のひとつになるとの考えを示した。

7号機以降をモーゼスレイクへ

MRJの開発状況を説明する三菱航空機の岸副社長=17年4月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 MRJのチーフエンジニアである三菱航空機の岸信夫副社長は、飛行試験の進捗状況について、「4月21日の時点で飛行回数239回、660時間以上実施した」と説明。モーゼスレイクでは試験機を1日3回飛ばし、1回の飛行試験は2時間程度だという。

 「モーゼスレイクでは雪が20年ぶりに降ったが、天候は回復している」(岸副社長)として、2020年初頭までの型式証明(TC)の取得を目指して飛行試験を続ける。

 飛行試験と平行し、米フロリダ州エグリン空軍基地のマッキンリー極限気候研究所で、極寒から酷暑まで厳しい気象を再現した試験を2月28日から3月17日まで実施。極限状態でも機器が正常に作動するかを確認した。また、滑走路で雪氷試験を実施し、雪や氷が主脚に当たってもブレーキが効くかなどを検証したという。

 また、岸副社長は設計体制についても説明。ボーイングやエアバスなど海外の機体メーカーで機体開発に携わった外国人エキスパート約300人が、部長級などのポストで設計に携わる。設計や型式証明といった技術系だけではなく、機体納入後に重要となるカスタマーサポートや、調達部門にも外国人エキスパートを配した。

 現在、最終組立工場では6号機と7号機、MRJ70の飛行試験初号機となる8号機の作業が進んでいる。6号機と7号機は胴体と主翼の結合まで終わり、水平尾翼や垂直尾翼が取り付けられる前の状態で、MRJ70の飛行試験初号機は胴体の結合のみ終えている。

 6号機は地上での構造試験に転用するため、飛行しない。7号機は設計変更を反映した状態で飛行する計画で、量産機として航空会社へ引き渡すかは現時点で未定となっている。

 設計変更を反映後の飛行試験は、7号機以降の機体をモーゼスレイクへ持ち込んで実施する。岸副社長は「何号機で実施するかは、これから検討する」と語った。

関連リンク
三菱航空機
三菱重工業

MRJの動き
ANA塗装のMRJ、パリ航空ショー初出展 ル・ブルジェ空港で準備進む(17年6月17日)
三菱航空機、MRJの最終組立工場公開 MRJ70初号機も(17年4月27日)
MRJ、パリ航空ショー出展検討 水谷社長「試験最優先」(17年4月20日)
MRJ、フロリダで極寒・酷暑試験(17年4月10日)
【スクープ】MRJ、ANA塗装でパリ航空ショー出展へ 3号機塗り替え(17年4月9日)
三菱航空機、新社長に水谷常務 三菱重工・宮永社長「グループ全体でMRJ推進」(17年2月2日)
「素材技術で差別化」特集・岐路に立つMRJ、問われる総合力(17年1月24日)
MRJ、初号機納入2020年半ばに 5度目の延期(17年1月23日)
岸副社長「経験不足」特集・MRJはなぜ納入遅れになるのか(15年12月25日)

競合エンブラエルの動き
大きな手荷物収納棚でMRJ対抗 写真特集・エンブラエルE190-E2の機内(16年8月5日)
「サポート体制も強み」特集・エンブラエル幹部が語るMRJ最大のライバルE190-E2(16年5月29日)