植木社長「大変厳しい競争になる」 特集・JALとハワイアン強者連合誕生(前編)

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 「ハワイは代表路線と言っても過言ではない」。日本航空(JAL/JL、9201)の植木義晴社長は、9月26日に都内で開いたハワイアン航空(HAL/HA)との提携会見で、ハワイ路線をこう表現した。

 JALは羽田空港の国際線発着枠の関係で、羽田-ホノルル線を3月31日を最後に運休。4月1日からは羽田-ニューヨーク線を開設した。首都圏は成田発着に集約されたホノルル線は、機材を新仕様機「スカイスイート」に統一し、商品力を強化。9月15日には、成田とハワイ島のコナを結ぶ路線を、7年ぶりに再開した。

ハワイアン航空との提携会見でマーク・ダンカリー社長兼CEO(左)と握手を交わすJALの植木義晴社長=17年9月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ハワイアン航空との提携会見でサインしたパネルを手にするJALの植木義晴社長(中央右)とハワイアンのマーク・ダンカリー社長兼CEO(中央左)=17年9月26日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire

 こうした中、ハワイアンとの包括提携が発表された。夏ダイヤが始まる2018年3月25日から、双方の日本-ハワイ路線でのコードシェア(共同運航)やラウンジの相互利用、マイレージプログラムの提携などを順次開始。将来的には、ハワイ-アジア市場での事業展開に向け、共同事業(JV)の検討を進める。

 ハワイ以外に目を向けると、JALは7月25日にベトナム初の民間航空会社で、同国初のLCCであるベトジェット航空(VJC/VJ)と、9月7日にインドの財閥タタ・グループの新興航空会社ビスタラ(VSS/UK)と提携。いずれも2018年度からコードシェアなどの提携が順次スタートする。

 4月以降、JALが国際線のネットワーク強化を進めるのは、国の監視期間が3月末で終了したためだ。2010年1月19日に経営破綻したJALは、国土交通省航空局(JCAB)が2012年8月10日に示した文書「日本航空への企業再生への対応について」(いわゆる8.10ペーパー)に基づき、新規の大型投資や新路線開設が、3月31日まで監視対象になっていた。

 反転攻勢に出るJALは今後、どういった成長戦略を進めていくのだろうか。本特集前編ではハワイ路線の現状を、後編ではJALの海外パートナー戦略を取り上げる。

—前編の概要—
「競争大変厳しいものになる」
LCC参入進む関空-ホノルル

—後編の概要—
「お断りせざるを得なかった」
ベトナム・インドで進む新事業領域
「価値観の合うところと組みたい」

「競争大変厳しいものになる」

JALのホノルル就航60周年記念フライトでは、当時の2代目制服を着用した客室乗務員が乗務した=14年12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 1954年2月2日、JALの羽田-サンフランシスコ線が、北太平洋のウェーキとホノルルを経由するルートで就航した。日本とハワイを結ぶ定期便の歴史は、63年前のこの日に始まった。日本人にとって、海外旅行の代名詞であるハワイ。世界からハワイを訪れる人のうち、2割にあたる年間100万人以上が日本人と言われている。

 そのハワイ路線が今、大きな変革期を迎えている。

 競合の全日本空輸(ANA/NH)は、2019年から成田-ホノルル線に、総2階建ての超大型機エアバスA380型機を3機投入。座席数は500席から600席の間になるとみられ、ファーストクラスを設定すると共に、家族連れを意識した内装を取り入れる。

 A380は3機すべてが特別塗装機で、「空飛ぶウミガメ」の意味を持つ「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」と愛称が付けられた。ハワイでは神聖な生き物とされ、見かけると幸福や繁栄が訪れると言われているウミガメ、ホヌにちなんだネーミングだ。

ANAのA380特別塗装機「FLYING HONU」の模型=17年3月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 10月29日からの冬ダイヤでは、JALのハワイ路線は成田-ホノルル線が1日4往復、成田-コナ線と関西-ホノルル線、中部-ホノルル線の3路線が1日1往復ずつで、日本とホノルル間を1日7往復運航している。

 これに対しANAは、羽田-ホノルル線が1日1往復、成田-ホノルル線が1日2往復で、日本-ホノルル間は1日3往復とJALの半分以下。このほかに、ユナイテッド航空(UAL/UA)の成田-ホノルル線1日1往復とのコードシェア便がある。

 日本初のA380による商業運航という話題性だけではなく、1便あたり従来の2倍近い乗客を運べるようになり、提供座席数はJALに近いレベルに拡大する。そして、ファーストクラス導入により、富裕層の取り込みやマイルによる特典航空券の付加価値向上も進める。

スカイスイート777のファーストクラス=14年7月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 対するJALは、2016年の年末年始から、成田-ホノルル線に繁忙期限定でファーストクラスがある777-300ER(4クラス244席:ファースト8席、ビジネス49席、プレミアムエコノミー40席、エコノミー147席)を投入。富裕層などに好評だったことから、今夏も最繁忙期となる8月4日から15日まで再投入した。今度の年末年始で3度目の実施となり、定番化していく。

 JALの植木社長は「競争は大変厳しいものになる」と、ANAのA380導入がハワイアンとの提携に至った要因のひとつであることを示した。

 当然、発着枠の関係で運休した羽田-ホノルル線の影響も大きい。ハワイアンの日本路線は現在、ホノルル-羽田線と成田線、関西線、札幌線、コナ-羽田線の5路線で、ハワイアンと組めば、羽田からホノルルやコナへ向かう需要を取り込める。

 FSC(フルサービス航空会社)同士の競争という観点で見れば、この2つが主要因と言えるだろう。

LCC参入進む関空-ホノルル

横断幕を手にしたエアアジアの社員に見送られ関空を出発するエアアジアXのホノルル行き初便=17年6月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ハワイ路線の競争激化は、首都圏だけではない。関西空港に目を向けると、東南アジアのLCCが日本からの以遠権を行使し、ホノルルへ続々と乗り込んできている。観光需要がほとんどと言ってもよいハワイ路線は客単価が低く、LCC参入のインパクトは大きい。

 マレーシアのLCC、エアアジアX(XAX/D7)は6月28日に、関西-ホノルル線を就航させた。既存のクアラルンプール-関西線を延伸したエアアジアグループ初の米国路線で、日本からハワイへ向かう初のLCCによる直行便になった。

 運航は月曜と水曜、金曜、土曜の週4往復。機材は従来と同じA330-300(2クラス377席:プレミアム・フラットベッド12席、エコノミー365席)を使用している。

 12月からは、シンガポール航空(SIA/SQ)傘下のLCCスクート(TGW/TR)が同社初の米国路線となる関西-ホノルル線を、同じく週4往復で開設する。シンガポールから関空経由でホノルルへ向かう路線で、ボーイング787型機を投入する。

ハワイアン航空の新ビジネスクラスシート=16年10月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

新ビジネスクラスを紹介するハワイアン航空の客室乗務員。プレミアムエコノミーとの間には星座模様のパネルを設けた=16年10月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうした動きと呼応するように、FSCであるJALとハワイアンも、ビジネスクラスにフルフラットシートを採用した新仕様機を、関空便に投入することで迎え撃っている。

 JALは1月9日から、国際線用ボーイング777-200ER型機の新仕様機「スカイスイート777」(3クラス236席:ビジネス42席、プレミアムエコノミー40席、エコノミー154席)を関西-ホノルル線に投入した。

 ハワイアンも、3月15日からホノルル-関西線に、A330-200の新仕様機(3クラス278席:ビジネス18席、プレミアムエコノミー68席、エコノミー192席)を就航させた。この機材は、2018年2月からホノルル-札幌線にも投入。これにより、日本の全5路線がA330の新仕様機になる。

双方のモデルプレーンを手にするJALとハワイアン航空の客室乗務員=17年9月26日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire

 今回のJALとハワイアンの提携は、コードシェアやラウンジ利用、マイルといったものだけではなく、JALグループの旅行会社であるJALパックとの連携も大きな意味を持つ。

 ハワイアン便を使った旅行商品をJALパックが販売することで、JAL便とは違った価格帯や性格の商品を販売できるようになり、航空券とホテル代などを合わせれば、LCCよりも総額を抑えた商品展開も可能だ。

 ハワイ州内路線に強みを持つハワイアンと組むことで、リピーターも満足する旅行商品を打ち出しながら、価格に敏感な層に対し、これまで以上に攻め込んでいくことになりそうだ。

後編につづく)

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日本航空
ハワイアン航空

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