MRJ, 企業, 官公庁, 機体, 解説・コラム — 2014年8月20日 08:38 JST

文科省、次世代旅客機を国産化 国主導で2030年実用化、課題は老朽設備

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 文部科学省は8月19日、国産の次世代旅客機を2030年ごろに実用化するため、2015年度から研究開発に着手すると発表した。世界の航空機産業は、今後20年で現在の約2倍となる50兆円規模に成長が見込まれており、研究開発段階を担う同省に加えて、実機開発に関係する経済産業省や国土交通省などとも連携し、国主導で国産エンジンを搭載する国産旅客機の実用化を目指す。

航空機産業の発展に向けたロードマップ(文科省の資料から)

 現在日本の航空機産業の世界シェアは約4%で、約1兆円規模。これを世界シェア23%の自動車産業に匹敵する20%産業へ飛躍させる。2015年度からは、民間航空機の国産化と超音速機の2つの研究開発プログラムをスタートさせる。航空機産業は開発に多額の費用を要し、開発期間も10年以上かかることから民間企業のみでは新規参入が難しいため、文科省では国主導で産業育成を進めるべきとしている。

 文科省や同省所管の独立行政法人JAXA(宇宙航空研究開発機構)では、ボーイングやエアバスなどとの国際共同開発で日本企業の地位向上と、世界で本格的な取り組みが始まっていない超音速機市場の獲得を目指す。

下請け脱却目指す民間航空機の国産化

次世代国産機用技術の飛行実証に用いるJAXAの実験機「飛翔」=12年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 民間航空機の国産化では、エンジン技術と機体・装備品技術の両面について、安全性と環境適合性、経済性の3点で他国をしのぎ、国際競争力をつけることが重要と位置づけた。

 三菱航空機のリージョナルジェット機「MRJ」に次ぐ次世代機の実用化は2030年ごろとし、2040年を目途に機体やエンジンの全システムを設計開発できる「インテグレート能力」の獲得と、次々世代機の実用化を目指す。インテグレート能力を得ることで、現状のボーイングやエアバスの下請けから脱却を目指す。

 次世代機の開発を踏まえ、2020年までに安全性の分野では航空機事故の25%低減を目指し、乱気流検知能力の高度化や軽量化、環境適合性ではフラップやスラット、ギア(脚)の低騒音化で騒音を10分の1に低減、経済性ではエンジンのファンや低圧タービンに複合材を用いた軽量・高効率化、機体の空力抵抗の低減化で燃料消費量の半減を、それぞれ実現する技術開発を進める。これらを「スマートエアプレーン」として、JAXAの実験機(FTB、Flying Test Bed)「飛翔」での飛行実証を想定している。

 2025年までには「ナショナルエアプレーン」として、安全性ではコックピット関連技術の高度化で揺れの低減化、環境適合性ではジェットエンジンの低騒音化、経済性ではエンジンの圧縮機や高圧タービン、燃焼器などの小型高出力化、複合材主翼の高度化の実現を目標に置いた。飛行実証の想定モデルはMRJとした。

民間航空機国産化研究開発プログラムのターゲット(文科省の資料から)

アジア日帰り見据えた超音速機開発

 超音速機の技術研究はJAXAがすでに進めており、2030年ごろまでにエンジン技術の地上実証と、機体装備品技術の飛行実証を目指す。実用化は2040年ごろ。

 飛行実証はJAXAが新たに開発する超音速試験機「SSST」を想定。JAXAでは、航空機が超音速飛行時に生じる衝撃波「ソニックブーム」を低減する研究を進めており、36人から50人乗りの全席ビジネスクラスで、巡航速度マッハ1.6の次世代超音速機を想定しており、アジアの日帰り圏化を目標に据えた。

超音速機研究開発プログラムのターゲット(文科省の資料から)

老朽化深刻な大型設備

老朽化が進む遷音速風洞=13年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうした開発を進める上で課題となっているのが、JAXAが持つ大型試験設備の老朽化だ。巡航する航空機の空力特性の把握に用いられる「遷音速風洞」は運用開始から54年が経過。離着陸時の空力特性を調べる「低速風洞」も49年が過ぎており、実験に大きな支障が生じている。

 日本の航空機産業のうち、育成が比較的うまくいっているエンジンについても課題がある。基礎研究の成果を実際の開発に反映させるための設備が国内にないことだ。実証用エンジンや計測設備、制御設備を備えた試験環境の整備が必要となる。

 文科省では、民間航空機の国産化と大型試験設備の整備については、航空機産業のシェア拡大に不可欠であり、国主導が求められる領域だとして、優先的に着手したいとしている。

関連リンク
文部科学省
JAXA航空本部

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