エアバスの防衛宇宙部門エアバス・ディフェンス・アンド・スペースのマイケル・ショホローンCEO(最高経営責任者)は、多目的空中給油・輸送機A330 MRTTの自動空中給油 (A3R)機能について、7月にも認証を取得できる見通しだと語った。現時点では昼間の作業に限られており、夜間にも拡充され昼夜を問わず自動空中給油が認められる。A330 MRTTは、過去に「KC-45」として一度は米国で選定されたものの、ボーイングの異議申し立てで機種選定がやり直しとなってKC-46Aが選定され、航空自衛隊も導入したが、空中給油システムなどでトラブルが続いており、ショホローンCEOは空自にも熱視線を送っている。

シンガポール空軍のF-15SGに自動空中給油する同軍のA330 MRTT(エアバス提供)
—記事の概要—
・A330neo母体のMRTT+
・空自に自動給油システム訴求
A330neo母体のMRTT+
来日したショホローンCEOは、都内で報道関係者向け説明会を開き、A3Rの現状を説明。「F-15やF-16といった給油先の機体を認識すると、ボタン一つで給油できる」と述べ、「給油オペレーターやパイロットのストレスがかなり軽減され、非常に堅牢なシステムになっていると思う」と自信を示した。

4月に就役したスペイン航空宇宙軍のA330MRTT(エアバス提供)

都内でA330 MRTTについて説明するエアバス・ディフェンス・アンド・スペースのショホローンCEO=25年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
「特に長期間に及ぶ作戦で、任務を終えたと思ったら再び給油しなければならないといった場合、神経を使わなくてはならない作業を自動でやってくれるというのは、非常に大きな安心材料になるだろう」と語った。
A330 MRTTは中型機A330-200を基に開発した機体で、エンジンはロールス・ロイス製トレント700を採用。給油方式は、米空軍機などが採用するフライングブーム方式のほか、米海軍・海兵隊機などのプローブ・アンド・ドローグ方式の2形式に対応している。
一方で、ベースとなる旅客機は次世代機A330neoへ移行。A330-200と同サイズのA330-800と、A330-300の後継となるA330-900の2機種で構成され、エアバスは昨年2024年7月に開かれたファンボロー航空ショーで、A330-800をベースとするA330 MRTT+を発表した。エンジンは旅客機と同じくロールス・ロイス製トレント7000を採用し、今後数年で顧客への引き渡しを計画している。

A330neoを母体とするA330 MRTT+の概要(エアバス提供)
ショホローンCEOは、「エンジンや主翼を変えるだけでも燃費が8%改善される。これにより長距離の任務や積載量の拡大が可能となり、機内も新しい指揮統制(C2)機能を提供できる。革命的とは言わないが、進化になると言える。(A3Rの)視認システムも非常に優れており、市場からはとても良い反応が返ってきている」と強調した。
エアバスは空中給油の自動化を売りにしており、「A4R」と呼ぶ完全自律型のシステム開発を視野に入れている。
空自に自動給油システム訴求
航空自衛隊は、ボーイングの空中給油・輸送機KC-46Aを2021年に初受領しているが、「RVS(Remote Vision System:遠隔視認システム)」をはじめ、給油機能の不具合が出ている。また、KC-46Aの前身となるKC-767も2010年度から運用しており、現時点で空中給油機はボーイングの牙城だ。

空自向けKC-46A初号機(ボーイング提供)
エアバスは、過去に米国もA330 MRTTをKC-45として一度は選定したことなどを材料に、A330 MRTT+を売り込んでいく。
これに対しボーイングは、A330 MRTTの駐機時の占有面積がKC-46Aよりも48%大きい点や、着陸に必要な滑走路長がKC-46Aの2000メートルに対し、A330 MRTTは2500メートル以上必要になる点など、空自や米空軍が太平洋地域で作戦を展開する際、KC-46Aのほうが柔軟な運用が可能な点を強調している。
A330 MRTT
・スペイン軍、A330MRTT初号機が就役 エアバスが改修・供給(25年4月12日)
・豪州空軍のA330 MRTT、RC-135とA-10に空中給油 米空軍と共同試験(24年1月20日)
・A330 MRTT、F-15に自動空中給油 夜間も成功(23年10月15日)
KC-46A対A330 MRTT
・A330MRTTより小回りきくKC-46 特集・日米が空中給油機に求める条件(24年10月26日)
RVS2.0
・KC-46A、RVS2.0は26年から 空自5-6号機は計画通り納入へ(24年10月18日)
KC-46Aの課題
・空中給油の肝・遠隔視認システム改善は2026年か 特集・KC-46Aが抱える”持病”のいま(24年9月17日)