総2階建ての超大型機エアバスA380型機が4月27日で初飛行20周年を迎えた。2021年に251機で生産を終え、現在は12社が220機を運航しているが、エアバスは後継を計画しておらず、現行機ではA350-1000が同社最大の機種となる。

パリ航空ショーで飛行展示を披露するエアバスのA380飛行試験初号機MSN1=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
—記事の概要—
・220機が運航中
・羽田は就航できず
・A380plusは実現せず
・オープンファンの飛行試験
220機が運航中
エアバスは「ジャンボ」の愛称で親しまれているボーイング747型機の対抗馬として、「A3XX」の名称で超大型機プロジェクトを1990年に発表し、2000年12月19日にA380として開発をスタートさせた。飛行試験初号機(MSN1、登録記号F-WWOW)は、本格的な製造が2003年から始まり、2005年1月18日に仏トゥールーズでロールアウト。同年4月27日に初飛行した。

A380のMSN4のコックピット=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
型式証明は2006年12月12日に、EASA(欧州航空安全庁)とFAA(米国連邦航空局)から取得。顧客向けの初号機(MSN3、9V-SKA、解体済み)は2007年10月15日にシンガポール航空(SIA/SQ)が受領した。最終号機(MSN272、A6-EVS)は最大顧客であるエミレーツ航空(UAE/EK)へ2021年12月16日に引き渡され、エアバスが顧客へ納入したA380としては251機目となった。
A380を導入した航空会社は、アルファベット順でエールフランス航空(AFR/AF)が10機、全日本空輸(ANA/NH)が3機、アシアナ航空(AAR/OZ)が6機、ブリティッシュ・エアウェイズ(BAW/BA)が12機、中国南方航空(CSN/CZ)が5機、エミレーツ航空が123機、エティハド航空(ETD/EY)が10機、ハイフライが1機、大韓航空(KAL/KE)が10機、ルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)が14機、マレーシア航空(MAS/MH)が6機、カンタス航空(QFA/QF)が12機、カタール航空(QTR/QR)が10機、シンガポール航空が24機、タイ国際航空(THA/TG)が6機となった。

ハンブルクでANA社員による最終確認を受けるA380 FLYING HONU初号機=19年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ハンブルクで初号機の隣で製造中のANAのA380 2号機=19年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ハンブルクのフィンケンヴェルダー工場で組立が進むANAのA380 3号機の後部胴体=19年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
このうち、エールフランスと中国南方航空、マレーシア航空、タイ国際航空の4社は全機退役済み。今年3月末時点で運航中の機体は220機で、受領した機数から減少しているのは、エミレーツ航空が6機減で現在117機保有。エティハド航空は7機(3機減)、大韓航空は5機(5機減)、ルフトハンザは8機(6機減)、カンタス航空は7機(5機減)、シンガポール航空は13機(11機減)となっており、このほかに匿名顧客が31機保有している。
新型コロナ後に需要が急回復したことや、ボーイングの次世代大型機777Xの開発が遅れていることから、退役を決めていた航空会社の中でもA380を復帰させたところもあった。
羽田は就航できず
日本では、スカイマーク(SKY/BC)がA380の導入を目指したが断念し、エアバスが同社に対する契約を2014年7月29日に解除した。スカイマークは2011年にA380を6機発注し、投資予定額は総額1915億8500万円としており。契約解除の時点で265億円をエアバスに支払い済みだった。同社向け初号機は2014年4月に初飛行し、2号機まで生産が進んでいた。

羽田空港に着陸するA380=10年10月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
その後、ANAを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)が2016年1月29日にA380を3機発注。成田-ホノルル線の専用機材で、青(ANAブルー)の初号機(MSN262、JA381A)が2019年5月24日、深緑(エメラルドグリーン)の2号機(MSN263、JA382A)が同年6月18日、オレンジ(サンセットオレンジ)の3号機(MSN266、JA383A)が2023年10月20日に就航している。
一方、A380の羽田空港への乗り入れは実現しておらず、2010年10月15日にエアバスの飛行試験機が初飛来し、PBB(搭乗橋)などのフィットチェックを実施したのみ。C滑走路(RWY16L/34R)を使うと運航できるが、沖合にあるD滑走路は重量制限の関係で商業運航は難しいほか、使用できる誘導路の制約など課題がある。
A380plusは実現せず
2017年6月のパリ航空ショーでは、改良版「A380plus」の開発調査を発表し、飛行試験機(MSN4、F-WWDD)を用いたコンセプトモデルが展示された。

パリ航空ショーで公開されたA380plusに装備する大型ウイングレットのモックアップ=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大型ウイングレットなどを装備し、燃料消費量を最大4%抑えるほか、客室内の改良と合わせると従来よりも1席あたりのコストを13%削減できるようになるとしていたが、実現には至らなかった。
ウイングレットは高さ4.7メートルで、上向きのアップレットは3.5メートル、下向きのダウンレットは1.2メートル。A380plusの開発が決定していた場合は2019年に初飛行し、2020年の引き渡し開始を計画していた。
オープンファンの飛行試験
飛行試験初号機は、今年3月15日に2022年以来3年ぶりにフライト。システムのアップグレードや試験設備の更新など数カ月の準備を経てテストフライトに復帰した。

パリ航空ショーに展示された次世代エンジンのテストベッドとして活用されるA380の模型=23年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

エアバスとCFMがA380で飛行試験を実施するオープンファン・エンジンのイメージ(エアバス提供)
A380のエンジンは英ロールス・ロイス製Trent 900(トレント900)と、米エンジンアライアンス製GP7200を選択できるが、初号機はTrent 900を採用している。
今後はGE(ゼネラル・エレクトリック)とサフラン・エアクラフト・エンジンズが50%ずつ出資する合弁会社CFMインターナショナルが、エンジン前部のファンが露出した「オープンファン・エンジン」の飛行試験にA380を活用する計画がある
CFMのRISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engine:持続可能なエンジンのための画期的な技術革新)実証プログラムの一環で、2026年から2030年までに仏トゥールーズにあるエアバスの飛行試験施設で実施する。オープンファン・エンジンは、従来のターボファン・エンジンではカウルに囲まれている前方のファンブレードにあたる部分が露出している。
A380は現在主流の双発機と異なりエンジンが4基あることから、このうち1基を新開発エンジンに換装する飛行試験に適している。エアバスとCFMは、2022年2月に水素エンジンの実証実験を行うパートナーシップを締結しており、次世代エンジンの開発にA380が活用されることになりそうだ。
関連リンク
Airbus
3年ぶりフライト
・エアバスのA380初号機、3年ぶりフライト復帰 試験設備を更新(25年3月16日)
A380後継機なし
・エアバス、A350-1000以上の超大型機「計画なし」A321XLRは「競合存在しない」(25年3月13日)
・エアバス、500席機計画なし フォーリCEO「市場変わった」 A380後継なくA350-1000がフラッグシップ(19年5月22日)
・A380、2021年に生産終了へ エミレーツ航空、39機キャンセル(19年2月14日)
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・A380最終号機、エミレーツ航空に納入 14年で完納(21年12月17日)
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・【独占】ANA「空飛ぶウミガメ」はこうして組み立てられた 写真特集・ハンブルクにそろう三機三様のA380製造工程(23年11月2日)
A380plus
・エアバス、A380plus開発調査 大型ウイングレット装着、燃費4%減(17年6月20日)
・エアバス、A380に新客室オプション 階段変更で575席(17年4月5日)
・ル・ブルジェに寄贈されたA380試験機 写真特集・パリ航空ショー2017(3)(17年8月17日)