ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2024年5月3日 22:24 JST

737MAX品質問題、内部告発者が死亡 スピリット元従業員=米紙報道

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 ボーイングのサプライヤーである米スピリット・エアロシステムズの元品質監査員で、737 MAXの製造上の欠陥に対する指摘をスピリット首脳陣が無視したとする内部告発者の一人、ジョシュア・ディーン氏(45)が突然急速に広がった感染症で現地時間4月30日朝に亡くなったと、地元紙シアトル・タイムズが5月1日に報じた。ボーイングの品質問題を巡っては、今年3月に787の製造工程の問題点を内部告発したノースチャールストン工場の元従業員が遺体で見つかり、警察が捜査を続けている。現時点で2件の関連性などはわかっていない。

品質問題でスピリットの内部告発者が亡くなった737 MAX(写真は737 MAX 10)=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
MRSA感染症が急速悪化
1月にドアプラグ脱落
2度の墜落事故
国内3社が発注

MRSA感染症が急速悪化

 シアトル・タイムズによると、亡くなったディーン氏はスピリットの本拠地であるカンザス州ウィチタ在住で、健康状態は良好だったという。同紙は親族の話として、2週間ほど前に体調を崩し、呼吸困難のため病院を訪れた。肺炎を発症後、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症と診断されたといい、病状が急速に悪化したという。

 ディーン氏は、監査中に737 MAXの後部圧力隔壁に穴が不適切に開けられている問題をスピリットの経営陣に指摘したが、同社が対応することはなかったといい、その後別の製造上の欠陥も発覚。スピリットは2023年8月に、後部圧力隔壁に不適切に開けられた穴が見つかったと発表し、737 MAXの最終組立が行われるボーイングのレントン工場への2度目の納入停止が決定した。

1月にドアプラグ脱落

 737 MAXは今年1月5日に、アラスカ航空(ASA/AS)が運航する737 MAX 9(737-9、登録記号N704AL)のドアプラグが、ポートランド国際空港を離陸直後に脱落する事故が発生。乗客171人と乗員6人の計177人に重症者はなかったが、8人が軽傷を負った。

左後方のドアプラグが脱落したアラスカ航空の737 MAX 9の機内(NTSB提供)

アラスカ航空の737 MAX 9から脱落したドアプラグ(NTSB提供)

 脱落したドアプラグが設置された部位は、航空会社の仕様により非常口ドアとして使用されるところで、アラスカ機の場合は外から見るとドアプラグを確認できるが、客室からは通常の壁と同じように見える。事故後の調査では、アラスカ航空が受領した機体以外に、ユナイテッド航空(UAL/UA)の機体でも関係部位でボルトの緩みが見つかるなど、製造上の問題が露呈している。

 FAA(米国連邦航空局)は、承認された作業手順で整備された737 MAX 9がについては運航再開を認めているが、同時にボーイングとスピリットに対する監視を強化しており、脱落事故の調査にあたっているNTSB(米国家運輸安全委員会)は、8月に公聴会の開催を予定している(関連記事1)。

2度の墜落事故

 737 MAXは、2016年1月29日に標準型の737 MAX 8(737-8)が初飛行。しかし、2018年10月29日にライオン・エア(LNI/JT)のJT610便(737 MAX 8、PK-LQP)、2019年3月10日にエチオピア航空(ETH/ET)のET302便(737 MAX 8、ET-AVJ)と短期間に2機が墜落事故を起こし、合わせて346人が亡くなっている。

シアトルのレントン空港を離陸し初飛行する737 MAX 8初号機=16年1月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2件の墜落事故は、737 MAXで新たに採用した失速防止システム「MCAS: Maneuvering Characteristics Augmentation System(操縦特性向上システム)」の問題が主な要因だったが、近年発覚している問題は製造上の不適切な作業によるもので、ボーイングとスピリットの工程管理や品質管理がFAAから問題視されている。

 ボーイングは今年3月25日に、デビッド・カルフーン社長兼CEO(最高経営責任者)が年末に辞任すると発表した(関連記事2)。

国内3社が発注

 国内の航空会社では、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)、スカイマーク(SKY/BC、9204)、日本航空(JAL/JL、9201)の順に3社が発注済み。

 ANAHDは2022年7月11日に、737 MAX 8を発注。確定発注20機、オプション10機の最大30機で、国内線機材737-800の後継機として2025年度から導入する。

 スカイマークは2022年11月10日に、737 MAX 8を6機リース導入し、購入機として737 MAX 8と超長胴型の737 MAX 10(737-10)を2機種計最大6機を導入すると発表。737 MAX 8は2025年4-6月期から、本邦初導入の「最大の737 MAX」である737 MAX 10は2026年度から受領する。

 JALは2023年3月23日に、737 MAX 8を2026年から導入すると発表。737-800の後継機として21機導入する。

関連リンク
Whistleblower Josh Dean of Boeing supplier Spirit AeroSystems has died(The Seattle Times)
Spirit AeroSystems
Federal Aviation Administration
National Transportation Safety Board
Boeing
ボーイング・ジャパン

FAA監査で737MAX製造工程不合格多数。787内部告発者が死亡
ボーイング、737MAX製造工程で89件中33件不合格 787内部告発者は死亡(24年3月12日)

737 MAXドアプラグ事故
アラスカ航空、737MAX9運航再開へ FAAが検査手順承認、ボーイングの監視強化(24年1月25日)
FAA、737MAXドアプラグ脱落でボーイング監視強化「完全に納得するまで空に戻らない」(24年1月13日)
737MAXドアプラグ脱落、FAAが緊急耐空性改善命令 ユナイテッド機もボルト緩み(24年1月9日)
FAA、同一仕様737MAXの運航停止 アラスカ機事故でEAD発行へ(24年1月7日)
アラスカ航空の737MAX、離陸直後に非常ドア脱落 AS1282便、ポートランド引返(24年1月6日)

737 MAX墜落事故
737 MAX、MCASのソフトウェア改修完了(19年5月18日)
737 MAX、墜落2件ともMCAS不具合 月産42機に減産へ(19年4月7日)
エチオピア政府、737 MAX墜落で暫定報告書公表 ボーイングにMCAS調査要求(19年4月5日)
エチオピア航空の737 MAX墜落か ナイロビ行きET302便(19年3月10日)
ライオンエアの737MAX墜落、迎角センサーに異常か FAAがAD発行(18年11月8日)
ライオンエアの737 MAX墜落 インドネシアLCC大手(18年10月29日)