エアライン, 官公庁, 機体, 空港, 解説・コラム — 2023年10月30日 11:00 JST

路線増える札幌丘珠空港、HAC武村社長「保安検査2レーン化課題」2030年に滑走路1800m化へ

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 北海道エアシステム(HAC、NTH/JL)の武村栄治社長は10月29日、拠点とする札幌の丘珠空港について、保安検査場のレーン増設などをターミナルを管理する札幌市に対して2024年度に課題として挙げてしていく意向を示した。29日からHACの札幌(丘珠)-根室中標津線と秋田線の2路線が就航するなど、旅客需要が拡大しているためで、市が2030年に計画している滑走路の1800メートル化を前に、可能な部分から対応策を講じていくと述べた。

2030年に滑走路1800メートル化を目指す丘珠空港。徐々に混雑し始めており札幌市やHACなどは対策を検討している=23年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
保安検査2レーン化課題
市内好立地も二次交通課題
2030年に滑走路延伸へ

保安検査2レーン化課題

 武村社長は、丘珠の混雑状況について「陸上自衛隊が運用している空港なので、発着時間は平準化されており、今はそこまで問題になっていないが、どこかで限界が来る」と、現在は1レーンのみの保安検査場の処理能力が近い将来限界に達する可能性があるとの見方を示した。

丘珠空港で出発を待つHACの根室中標津線初便JL2733便=23年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

丘珠空港で開かれた根室中標津線と秋田線の就航記念式典であいさつするHACの武村社長=23年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「札幌市と連携して、保安検査場の2レーン化や乗客の出発・到着動線の見直しなどを来年度は検討していきたい。(混雑は)来夏が課題になるだろう」と述べ、滑走路長の関係で夏ダイヤのみの運航となっているフジドリームエアラインズ(FDA/JH)が乗り入れる夏場は、今年以上に混雑する可能性が高まっているためだ。

 また、ターミナルを管理する札幌市は、丘珠を道内各地へ移動する拠点と位置づけ、防災基地としての役割も強化していく方針だ。武村社長は「将来的には丘珠に来たら道内どこへでも行けるようになるのではないか。お客さまの移動も楽になるのではないか」と語った。

就航路線が増える丘珠空港=23年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

市内好立地も二次交通課題

 HACは日本航空(JAL/JL、9201)のグループ会社で、旧日本エアシステム(JAS、現JAL)と北海道による第3セクターとして1997年9月30日設立。最初の路線の札幌(新千歳)-函館線が1998年3月28日に運航を開始し、現在拠点としている丘珠空港には2003年8月1日に就航した。

冬の栄町駅付近。タクシーもつかまりにくく丘珠空港まで歩けば20分はかかる=21年11月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 29日に就航した根室中標津空港は、JALグループの国内線では12年ぶりの新規就航地で、秋田は同じくJALグループのジェイエア(JAR/XM)が運航していた新千歳発着便を移管した。「どちらも“札幌ダイレクト”と、札幌市内に直接入れる丘珠空港の利便性を訴えている」(武村社長)と、丘珠の立地の良さをアピールする。

 一方で、丘珠空港は空港から市内中心部などへの「二次交通」が課題だ、地下鉄の最寄り駅である札幌市営地下鉄東豊線の栄町(さかえまち)駅からは、バスが来れば10分弱で着くものの、徒歩では20分以上かかり、自家用車やタクシー以外では移動が厳しい。特に冬場は歩道に雪が積もり、雪に不慣れな観光客がキャリーバッグなどを持って移動するのは大変だ。大雪の日はタクシーもつかまりにくく、歩いてみると5分もすれば心が折れる人もいるだろう。

 これまでは自家用車で利用する客層を想定していたが、今後は公共交通機関を使う観光客などを視野に入れないと、利便性の高さを最大限に発揮できない。

 武村社長は「栄町駅と丘珠空港を循環するシャトルバスを運行するなどの方法もあるのではないか」と私見を述べ、札幌市などと空港からの二次交通の利便性を改善する道を探っているという。

 また、空港の駐車場も混雑が激しくなっていることから予約エリアが設けられたものの、拡張したわけではないため、駐車場拡充もターミナル拡張などと共に検討課題になっている。

2030年に滑走路延伸へ

 丘珠空港の歴史は、1942(昭和17)年9月に当時の大日本帝国陸軍が229万平方メートル(695坪)の用地を買収して飛行場を設置したことで始まった。1958年12月3日の防衛庁(現防衛省)告示で札幌飛行場となり、1961年11月27日の運輸省(現国土交通省)告示で公共用施設に指定され、同年12月10日から自衛隊と民間の共用飛行場として供用を開始した。このため、駐車場などを含む土地を国が、ターミナルを札幌市が管理している。

丘珠空港を離陸するHACの根室中標津線初便JL2733便=23年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

丘珠空港に並んだHACが運航する4機のATR42(手前から4号機、3号機、2号機、初号機の順)=23年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 滑走路長は、2004年3月18日に1400メートルから現在の1500メートルに延び、今年7月31日に札幌市が明らかにした計画では、2030年に1800メートルへの延伸を目指す。HACはターボプロップ(プロペラ)機のATR製ATR42-600型機(1クラス48席)、FDAがリージョナルジェット機のエンブラエル170(E170)型機(1クラス76席)またはE175(同84席)で運航しており、1800メートルに延伸されると現在は夏季限定となるFDA便も、冬季に運航できるようになる。

 丘珠を発着する定期便は、2010年7月に全日本空輸(ANA/NH)が撤退後はHACのみだったが、今年3月26日からはFDAが2016年6月4日に静岡-札幌(丘珠)線を開設。現在はHACが函館、奥尻、利尻、釧路、女満別、根室中標津、三沢、秋田の8路線を通年運航し、FDAが夏季のみ静岡、県営名古屋(小牧)、松本の3路線を運航している。また、新潟空港を拠点とするトキエア(TOK/BV)がATR72-600(1クラス72席)を使い就航を計画しているが、就航日は決定していない。

 これまで札幌市中心部に近いながらも活用が今一歩だった丘珠空港が、潜在能力を発揮する時が近づいているようだ。

中標津就航をPRするHACとANAによる札幌市内の広告=23年10月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

丘珠空港に設置されたトキエアのカウンター=23年7月8日 PHOTO: Shota DOKI/Aviation Wire

トキエアのカウンター設置前の丘珠空港1階=21年11月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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【お詫びと訂正】
記事初出時の副見出しの一部と本文の一部に誤りがあり訂正いたしました。武村社長は2レーン化を要望はしておりませんでしたので「検討」に訂正しました。お詫びいたします。(23年10月30日 14:23 JST)