エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2023年2月4日 21:47 JST

ラスト747納入、記念品は最終号機の切り粉封入メダル 特集・空の女王の半世紀

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 「ジャンボ」「空の女王」といった愛称で親しまれたボーイング747。1574機目となる最終号機は貨物機の747-8F「Empower」(登録記号N863GT、LN:1574、MSN:67150)で、アトラスエアー(GTI/5Y)などを傘下に持つアトラス・エア・ワールドワイドへ現地時間1月31日に引き渡された。1967年から50年以上製造され、31日の式典に列席した従業員らには、最終号機の製造時に出た金属の切り粉(削りくず)を封入したメダルが記念品として配られた。今風に言うと「アップサイクルな記念品」といったところだろうか。

747最終納入式典の参加者に手渡された記念のメダルには最終号機の製造時に出た金属の切り粉が封入されていた=23年2月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 飛行機に詳しくない人でも、「ジャンボ」と言われればあの独特な姿を思い浮かべる人は多いのではないか。そんな「空の女王」の半世紀を振り返ってみた。

—記事の概要—
最多は747-400
貨物型先行の747-8

最多は747-400

 747の前身は米空軍の大型戦略輸送機プロジェクト「CX-HLS」で、ロッキード(現ロッキード・マーチン)案が選定されてC-5「ギャラクシー」となった。一方、ボーイングはこれを発展させて1966年4月13日に747を発表。キャンセルを含む総受注は旅客型と貨物型を合わせて1768機となり、55年間で1574機が製造された。

現在はシアトルの航空博物館「ミュージアム・オブ・フライト」に展示されている最初の747 N7470=19年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

アトラスエアーへ引き渡された最後のジャンボ機747-8Fに描かれた747生みの親ジョー・サッター氏のイラスト=23年1月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボーイングは1967年に747の製造を開始し、1968年9月30日に最初の機体となる飛行試験機(747-100、N7470、LN:1、MSN:20235)がロールアウト。1969年2月9日に初飛行した。

 初の商業運航を行ったのは当時のパンアメリカン航空(パンナム)で、ニューヨーク(JFK)-ロンドン(ヒースロー)線へ1970年1月22日に就航させ、ジャンボの時代がスタートした。当初は21日夜に初便が出発する予定だったが、エンジントラブルにより機材を「Clipper America」(N747PA)から「Clipper Victor」(N736PA)に変更して就航させた。

 1574機の内訳は、747-100が251機(試験機N7470 1機、SP 45機、SR 27機、SUD 2機含む)、747-200が393機(F 73機、M 78機、VC-25A 2機、E-4B 4機含む)、747-300が81機(M 21機、SR 4機含む)747-400が694機、747-8が155機となった。

世界最多となる113機の747を運航したJAL。写真は747-400D JA8083。日本の国内線専用機で2クラス546席を誇った=10年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

伊丹空港を離陸するANAの747-400D JA8961=14年1月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 もっとも多い747-400は、旅客型747-400が442機、日本の国内線専用型747-400Dが19機、貨物型747-400Fが126機、貨客型747-400Mが61機、航続距離延長旅客型747-400ERが6機、航続距離延長貨物型747-400ERFが40機。旅客型のうち2機には、日本の政府専用機「B-747-400」も含まれている。

 747をもっとも多く運航したのは、総数113機の日本航空(JAL/JL、9201)。1月31日にエバレット工場で開かれた式典には、赤坂祐二社長が招かれた。

 最新の747-8は、JALも全日本空輸(ANA/NH)も発注せず、貨物型を日本貨物航空(NCA/KZ)が発注したのみ。NCAは日本で唯一の貨物専門航空会社で、747-8Fを8機運航している。

 最多の747となった747-400を初受領したのはノースウエスト航空。アッパーデッキからメインデッキを眺められるようにしたデルタの747-400初号機N661USは合併前のノースウエストが受領したN401PW=17年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

貨物型先行の747-8

 747-8は、旅客型「インターコンチネンタル」が48機、貨物型747-8Fが最終号機を含めて107機。旅客型のうち2機は、2015年に破綻したロシアのトランスアエロ航空が発注したものの、引き渡されずボーイングが保管していた機体を米空軍が2017年8月4日に購入し、改修作業を経て米国の次期大統領専用機となる。

放水アーチをくぐりエバレットを出発する最後のジャンボとなったアトラスエアーの747-8F=23年2月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 747-8のエンジンは、米GE製GEnx-2Bを4基搭載。新設計の主翼などと合わせて、747-400と比べて燃費を改善し、騒音は30%軽減、CO2(二酸化炭素)排出量は15%削減出来るという。受注と初飛行は747-8Fが先行し、2010年2月8日に初飛行。旅客型は2011年3月20日に初飛行した。

 旅客型のメーカー標準座席数は3クラス410席、貨物型の最大積載量は137.7トン。貨物型はこれまでと同様、機首部分が上に開くことで、長尺・大型の貨物も搭載できる。747-400BCF(ボーイング・コンバーテッド・フレーター)など旅客機を貨物機に改修した機体にはない特徴だ。

 最初の引き渡しは、貨物型(747-8F、LX-VCB)がカーゴルックス航空(CLX/CV)へ2011年10月12日、インターコンチネンタル(747-8、D-ABYA)はルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)へ2012年4月25日に行われた。

シアトル近郊のエバレット工場でボーイングからアトラスエアーへ引き渡された最後のジャンボ機747-8F貨物機=23年1月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シアトル近郊のエバレット工場でボーイングからアトラスエアーへ引き渡された最後のジャンボ機747-8F貨物機=23年1月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ペインフィールド空港をローパスする最後のジャンボとなったアトラスエアーの747-8F=23年2月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 最後の発注社となったアトラス・エア・ワールドワイドは、2021年1月12日に747-8Fを4機発注したと発表。ボーイングは747-8の生産を2022年で完了すると2020年7月30日に発表済みで、エバレットの最終組立工場で製造される最後の4機となった。アトラスは787の主要部位を日本などから米国の最終組立工場へ運ぶ専用貨物機747-400LCF「ドリームリフター(Dreamlifter)」も運航している。

アトラスエアーが計画している最後のジャンボ機747-8Fのデリバリーフライトのルート=23年1月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 最終号機のN863GTは、国際物流会社Apex Logistics(エイペックス・ロジスティクス)との長期契約でアトラスが運航する。このため、機体左側はApex、右側はアトラスの塗装が施された。また、2016年8月30日に96歳で生涯を終えた747の生みの親、ジョー・サッター氏のイラストが機体前方右側に描かれ、敬意を示した。

 N863GTが2月1日にエバレット工場を出発する際は、消防車による放水アーチの歓迎を受け、多くの従業員らが見送った。デリバリーフライトの便名は5Y747便と名づけられ、午前7時50分すぎに出発。午前8時19分すぎに離陸し、ペインフィールド空港上空をローパス後、モーゼスレイク付近から747と王冠の航跡を午前8時55分ごろから2時間半ほどかけて描き、目的地のオハイオ州シンシナティへ向かった。

  ◆ ◆ ◆

 民間機としての747の引き渡しはピリオドを打ったが、軍用機は改修を進めている2機の次期大統領専用機VC-25Bが残っているが、前述の通り未納入の新造機がベースであり、新たに機体が製造されることはない。

トランプ大統領(当時)を乗せ羽田空港を離陸する大統領専用機VC-25A=19年5月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

747最終納入式典の参加者に手渡された記念のメダルの裏面=23年2月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 米国の航空メディア「Aviation Week」によると、新たな「エアフォース・ワン」となるVC-25Bは、2026年4-6月期(第2四半期)の就役になる見通し。また、米空軍の空中指揮機E-4B「ナイトウォッチ」の後継機として、6機から8機の747-8を2029年以降に取得する可能性があるものの、中古機となる公算が大きいとの見方を示している。

 ボーイングは、エバレット工場に737 MAXの4番目となる生産ラインを2024年半ばに設ける計画で、この点からも747-8をごくわずかな機数だけ再生産するのは現実的ではない。

 1月31日の式典参加者に配られた、ラスト747の切り粉が封入されたメダルは、空の女王からの世代交代も暗に示しているようだった。

関連リンク
Boeing
ボーイング・ジャパン
Atlas Air Worldwide

放水アーチくぐり最後のデリバリーフライト
最後のジャンボ、シアトル離陸し”747″描く 放水アーチで門出祝う(23年2月2日)

最後のデリバリー
【現地取材】最後のジャンボ納入 56年の歴史に幕 最終号機は747-8F貨物機(23年2月1日)

747
747-8、旅客型初飛行から10年 2022年に生産完了(21年3月21日)
アトラスエアー、747-8F貨物機4機購入 最終生産分(21年1月12日)
747、2022年生産完了 737MAXは10-12月期納入再開(20年7月30日)
米空軍、次期大統領専用機に元トランスアエロの747-8購入 新古機でコスト削減(17年8月6日)

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