エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2022年4月13日 13:24 JST

風に乗って世界一周 特集・JALはなぜ欧州発だけ南回りなのか

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 日本航空(JAL/JL、9201)は、欧州発便の飛行ルートを中央アジアなどを飛びロシア領空を迂回(うかい)する「南回り」に4月19日から変更する。現在は往路の日本発と復路の欧州発ともにアラスカなどを飛ぶ「北回り」だが、変更後は往路は北回りを継続し、復路は南回りとなる世界一周ルートになる。

欧州路線の往路は北回り、復路は南回りで運航するJAL=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 南回りのルート上にはトルコなどJALの未就航国があり、領空を飛行する許可を取得する必要があり、準備を進めていた。このため、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で3月からロシア領空を迂回するようになった際は、かつてアンカレッジ経由便を運航していたJALは北回りを、2020年3月開始の夏ダイヤで羽田-イスタンブール線を開設予定で各国の許可を取得していた全日本空輸(ANA/NH)は南回りを選択した(関連記事)。

 JALは欧州発の南回り移行に先立ち、現地時間7日パリ発の成田行きで乗客を乗せない検証フライトを実施。欧州の出発地からトルコ、カザフスタン、中国などを経て日本へ向かうルートの安全性が確認できたという。

 ANAは往復とも南回りだが、なぜJALは往路と復路で異なるルートを選択したのだろうか。

—記事の概要—
16時間が14時間に短縮
シアトル経由は終了

16時間が14時間に短縮

 一番の理由は偏西風を活用することだ。ジェット気流とも呼ばれる偏西風は、地球の中緯度上空を西から東へ向かって吹いている。羽田からロンドンへ向かう場合、往路はアラスカ西側のベーリング海に面する辺りから北米大陸、グリーンランドなどを経て欧州へ向かう。復路はロンドンを出てトルコや中央アジア、中国を通って日本に向かう。北極点を中心に見ると、反時計回りに地球を一周することになる。

通常と北回り、南回りの比較。往復でルートを変えて反時計回りに世界一周する(JAL提供)

 航空機は追い風で飛ぶとフライトで使用する燃料を削減できたり、搭乗する乗客数や搭載する貨物量を増やすことができる。往路と復路で経路が異なる世界一周ルートにすると、風に乗って飛べるようになる。

 JALが運航を継続する欧州路線は羽田-ロンドンとヘルシンキ、パリの3路線。ロンドン線の場合、飛行時間は北回りのロンドン行きが14時間50分で、通常のロシア領空飛行時から2時間20分増える。南回りの羽田行きは14時間10分で、通常時の11時間55分からは2時間15分増えるものの、15時間50分と16時間近かった北回りからは1時間40分早く到着できる。

シアトル経由は終了

 ロンドン線に投入している長距離国際線機材のボーイング777-300ER型機は、羽田-ロンドン線やニューヨーク線といった片道13時間程度の路線に投入する機材だ。しかし、16時間近くなると搭載量に制約が出てくる。

旅客需要の急回復が見込めない中、貨物は貴重な稼ぎ頭だ=20年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 旅客機の搭載量は、乗客数や貨物量、燃料の搭載量などのバランスで決まってくる。フライトに必要な燃料が減れば、その分乗客や貨物を多く積めるようになる。乗客にとってはフライト時間が短くなる利点があり、現在はまだ日欧間の旅客需要が大幅に回復していないため、JALにとっては稼ぎ頭である貨物の搭載量を増やせるメリットが大きい。

 ボーイング787型機で運航するヘルシンキ発羽田行きも、ロシア領空を飛ぶ通常時の9時間30分からは4時間40分増えるものの、15時間40分だった北回りからは1時間30分短くなる。

 パリ線は貨物便が中心となるが、羽田行きは13時間45分で通常ルートから1時間50分増える。南回りの設定で現在の成田発着を羽田に変更し、片道20時間以上かかる米シアトル経由は終了する。経由地が増えると到着までの時間がさらにかかるだけでなく、コストもかさむためだ。

  ◆ ◆ ◆

 各国の入国制限が緩和されつつあるが、国際線の旅客需要が大幅に回復するまでには時間がかかる。IATA(国際航空運送協会)の予測では2024年になるとみられ、ビデオ会議の普及などでコロナ前の水準と同等になるかも未知数だ。

 こうした中、国際貨物需要は依然としてひっ迫している。風を味方にする世界一周ルートは貨物搭載量を増やせるため、業績回復を支えることになりそうだ。

関連リンク
日本航空

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復路は南回り
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