MRJ, エアライン, 機体, 解説・コラム — 2020年5月23日 19:52 JST

三菱重工、スペースジェット大幅見直し 人員削減や量産停止、海外拠点再考も

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 三菱重工業(7011)は、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発を進める子会社の三菱航空機の人員を削減する方針を固めた。5月22日にNHKが報じたもの。Aviation Wireの取材によると、人員半減や量産機の製造中断に加え、米国の開発拠点閉鎖も含めて検討しており、将来的な開発中止も視野に含めた大幅な見直しを進めている。

 県営名古屋空港内に本社を置く三菱航空機の社員数は、開発やマーケティングなど約1500人。半数の社員を三菱重工の他部署へ移すことを前提に、組織再編を進めるとみられる。米ワシントン州にある米国の飛行試験拠点「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」も見直しの例外ではなく、閉鎖の可能性も含めて検討していくもようだ。

MFCの格納庫からプッシュバックされる三菱スペースジェット。大幅見直しでこの後どうなるのだろうか=19年12月10日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

—記事の概要—
10号機の完成度
量産も課題

10号機の完成度

 2008年にMRJとして開発がスタートしたスペースジェットは、2019年6月に名称を改めた。MRJ時代は、メーカー標準座席数が88席の標準型「MRJ90」と、76席の短胴型「MRJ70」の2機種の開発を計画していた。改称後はMRJ90を「SpaceJet M90」に改め、リージョナルジェット機の最大市場である北米のニーズに最適化した70席クラス機「SpaceJet M100」を、現在開発中のM90を基に開発し、2023年に投入する計画だった。

県営名古屋空港を離陸し初飛行する三菱スペースジェットの飛行試験10号機JA26MJ=20年3月18日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

 三菱重工は11日に、スペースジェットの開発費を今年度は前年度の半分にあたる600億円程度に圧縮する方針を示した。北米向けのM100は、開発着手に向けた検討作業を凍結。一方で、M90の納期は6度目の延期により2021年度以降を予定しているが、見通しは依然不透明なままだ。当初の納期である2013年から、10年遅れになる可能性すら出てきている。

 三菱重工の2020年3月期通期の連結決算は、本業のもうけを示す事業損益が295億3800万円の赤字(19年3月期は2005億7000万円の黒字)となり、20年ぶりに赤字転落。スペースジェットによる損失を、早期に最小化する必要性に迫られている。

 三菱航空機は、機体の安全性を証明する「型式証明(TC)」を国から取得時に使う飛行試験10号機(登録記号JA26MJ)を、3月14日に初飛行させた。開発段階で発生した配線や電子機器などの設計変更が900カ所以上にのぼり、2016年以降に実施した機器の配置や配線、配管、空調ダクト、ワイヤーハーネス、システムなどの変更を反映した機体だ。

 しかし、関係者によると10号機でも不具合を十分につぶしきったとは言い切れず、このまま試験を継続した場合、2021年には納入が間に合わない可能性が出てきているという。

 モーゼスレイクのMFCでは、10号機の完成遅れの影響を受け、すでに試験を実施している4機の飛行試験機を改修して、遅れを挽回しようとしてきた。ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で3月下旬から飛行試験が中断となり、5月5日から再開したばかり。10号機は日本で試験を続けているものの、MFCへ持ち込める時期は決まっていない。


量産も課題

 また、仮に開発が完了しても、コンスタントに量産していくことも課題だ。三菱航空機の水谷久和会長は以前、「製造する三菱重工では、これまで月産3機以上のペースで完成機を造ったことがない」と述べ、月産10機といった民間機のペースでの製造には時間がかかるとの見方を示していた。航空機も一般的な商取引と同様、顧客に引き渡さない限り、機体の代金をすべて受け取ることができない上に、動く金額が大きい。納入が遅れれば遅れるほど、体力を消費していくことになる。

ファンボロー航空ショーで飛行展示を披露したMRJ(当時)。ANAカラーの機体が商業運航に入るのは幻になるのだろうか=18年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今年3月末時点の総受注は287機あるが、このうち売上が現時点で見込める確定受注は163機で、残るオプションと購入権の124機を受注できるかは、スペースジェットの仕上がり次第だ。

 スペースジェットの初号機を受領予定である全日本空輸(ANA/NH)などを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は、2008年にローンチカスタマーとして確定発注15機とオプション10機の最大25機を発注。しかし、度重なる納入遅延により代替機を手配済みだ。すでに計画通りに納入が始まらないことを念頭に経営計画を立てているものの、開発中止となれば影響がゼロでは済まないだろう。

 一方、ANAより17機多い32機をすべて確定発注した日本航空(JAL/JL、9201)JALは、2021年の受領開始を予定。2014年に発注した段階では、カナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルが製造するリージョナルジェット機を運航していた。これをエンブラエルに一本化した後、7年程度かけてスペースジェットを導入予定だった。JALもスペースジェットが納入遅延や未納となった場合への対処が現実的になってきた。

 また、航空機は顧客に引き渡してしまうと、20年程度の寿命を迎えるまでケアする必要がある。そうであれば、引き渡し開始前にプロジェクトを終了してしまう方が、赤字を長期にわたり垂れ流し続けるリスクを抱えるよりもよいと考えるのは現実的な選択肢だ。

 三菱重工の大幅見直しは、新型コロナウイルスの影響というよりは、開発が不透明な状況から脱しきれないことが要因だとする声が社内から聞かれる。すでに一部の航空関係者からは未確認生物のツチノコになぞらえ「ツチノコジェット」と揶揄されたり、「2021年“以降”だから、三菱重工は100年後でも納期遅れではない、と言い張るのではないか」とまで言われているスペースジェット。国産初のジェット旅客機は幻となるのだろうか。

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