エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2016年8月25日 23:19 JST

ANAの787、エンジン不具合で一部欠航 離陸直後にブレード破断

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 全日本空輸(ANA/NH)は8月25日、ボーイング787型機に搭載されている英ロールス・ロイス(RR)社製エンジン「トレント1000」の不具合により、26日から9月末までを目途に、787で運航する国内線の一部を欠航すると発表した。

 26日は羽田午前8時発の伊丹行きNH15便など、国内線9便が欠航。予約した3110人に対しては他の便への振り替えや、払い戻しに応じる。27日以降は、1日10便程度欠航する見通し。一方、国際線は欠航せずに運航する。

—記事の概要—
離陸直後にブレード破断
運航する8機「安全に問題ない」
クアラルンプール、ハノイ、木更津で発生
26日は5500万円減収
26日の欠航便

離陸直後にブレード破断

 ANAによると、問題が起きたのはエンジン内にある中圧タービンのニッケル合金製タービンブレード。硫化腐食で生じた亀裂により、1本のブレードで全長の7割にあたる部分が離陸上昇中に破断するトラブルが、今年に入り国際線で2件発生後、国内線でも1件起きた。

国内線で一部欠航が生じるANAの787(資料写真)=16年8月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 エンジンを製造するRRからは当初、国内線では同様のトラブルは起きないと説明を受けていた。しかし、8月20日に国内線でも発生したことから、ブレードの交換対象となる787が、国内線仕様機にも拡大。国内線は予備機を入れても機材繰りがつかず、欠航が発生することになった。

 RRは年末までに対策を施したブレードの設計を終え、2017年1-3月期にもANAなど航空会社への供給を開始する見込み。

 ブレードは一定期間使用後に交換する部品で、対策品が完成するまでの間、ANAではメーカーの規定よりも早期に交換し、再発を防止するという。

運航する8機「安全に問題ない」

 ANAは現在、787を50機保有しており、このうち国際線仕様機が37機(787-8が25機、787-9が12機)、国内線仕様機が13機(787-8が11機、787-9が2機)。同社によると、トラブルが起きたブレードは、保有するすべての787で基本的に同じ構造だという。

787のトレント1000=16年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 26日は787の国内線仕様機13機のうち、ブレード交換が必要となった5機の運航を停止。残り8機のエンジンについても、同様の交換作業を順次進める。

 ANAでは8機を国内線で運航することについて、「飛行時間などの兼ね合いで、安全には問題はない」と説明している。

 ANAがRRから受けた報告によると、同じエンジンを採用したロイヤルブルネイ航空(RBA/BI)の787でも2件発生しており、ANAの3件と合わせて計5件起きている。ロイヤルブルネイは、2013年10月3日に初号機を受領している。

 また、空気中に汚染物質が浮遊している可能性が高い、東南アジアやインドなどの空域を飛行した場合、想定よりも早期に硫化腐食が起きる可能性があると、RRから説明を受けたとしている。

クアラルンプール、ハノイ、木更津で発生

 最初に起きたトラブルは2月22日のクアラルンプール発成田行きNH816便で、2件目は3月3日のハノイ発羽田行NH858便で発生。その後、8月20日に国内線の羽田発宮崎行きNH609便でも起きた。

787ははトレント1000を2基搭載=16年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

中圧タービンブレードの破断部位(ANA提供)

 787は、エンジン「トレント1000」を左右1基ずつ計2基搭載。トレント1000の構造は大きく分けると、エンジン前部のファン(低圧圧縮機)、中圧圧縮機、高圧圧縮機、燃焼器、タービン、エンジンとエンジンカバーの間の「バイパス」から成る。

 ブレードが破断した中圧タービンは、ファンから送られた約1.5気圧の圧縮空気を、約10気圧に昇圧する中圧圧縮機を回すもので、ここで圧縮された空気は、さらに高圧圧縮機で40気圧以上に昇圧される。この圧縮空気に燃焼器で燃料を混合して燃やし、燃焼ガスを発生させてタービンを回して787を飛ばしている。

 3件のトラブルは、いずれもエンジンに負荷が掛かる離陸上昇中に、中圧タービンの110数本あるブレードの1つが破断。トラブルが起きたエンジンをパイロットが手動で停止して引き返し、1基のエンジンで出発空港へ緊急着陸している。

 20日に起きたNH609便の場合、羽田を午後1時37分に離陸して3分後、千葉県木更津市付近の高度約2000メートル上空で進行方向右側の第2エンジンで振動が発生。トラブルが起きたエンジンを停止し、第1エンジンのみで午後1時51分、羽田へ緊急着陸した。乗客238人と乗員9人にけがはなかった。

 2月に起きた1件目のトラブル以降、ANAでは3月から対策を開始。国際線で飛ばす機材で使用するエンジンのうち、17基はブレード交換を終えたという。

 ANAの787では、8月15日に成田発上海(浦東)行きNH959便(787-8、登録番号JA840A)が、成田空港のA滑走路(RWY34L)を離陸時にエンジントラブルが発生し、離陸を中止するトラブルがあった(関連記事)。ANAによると、このトラブルとの関係性はないという。

 また、3年前の2013年1月16日には、山口宇部空港を出発した羽田行きNH692便(787-8、JA804A)がバッテリーから煙が出たことで、高松空港へ緊急着陸。国土交通省の運輸安全委員会(JTSB)などが調査にあたったが、同委員会は2014年9月25日、原因特定には至らなかったとする調査報告書を公表している(関連記事)。

26日は5500万円減収

 ANAは2004年4月26日、ローンチカスタマーとして787を50機購入すると決定。今年7月末時点で標準型の787-8を36機、長胴型の787-9を44機、超長胴型となる787-10を3機の計83機を発注済み。787の発注機数としては世界最多となっている。エンジンは全機でトレント1000を採用した。

羽田に駐機中のANAの787=16年8月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に到着する50機目の787となったANAの787-9=16年8月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 現地時間8月17日に、50機目の787となる787-9の中距離国際線仕様機(登録番号JA882A)を、シアトルで受領したばかり(関連記事)。

 ANAでは、27日以降の欠航便は26日に、9月分は29日に発表。26日は国内線9便の欠航により、運賃収入だけで5500万円の減収になると説明している。

 このほかに自社便や他社便、他の交通機関への振り替えに掛かる費用も発生することから、欠航が長期化した場合、持ち株会社であるANAホールディングス(9202)の業績への影響が懸念される。

 日本国内では日本航空(JAL/JL、9201)も、30機の787を国際線で運航しているが、エンジンは米GE製GEnx-1B。ANAが採用したRR製とは構造が異なり、同じトラブルは起きていない。

 GEnxでは、積乱雲周辺で空気中にある氷の結晶(氷晶)がエンジンへ入った際、推力が一時的に減少する影響を受けやすい構造だったが、昨年2月には解決している。

26日の欠航便
羽田-伊丹線
NH15 羽田(08:00)→伊丹(09:10)
NH20 伊丹(10:00)→羽田(11:15)
NH39 羽田(19:00)-伊丹(20:15)

羽田-福岡線
NH255 羽田(13:25)→福岡(15:15)
NH260 福岡(16:10)→羽田(17:55)
NH265 羽田(17:00)→福岡(18:50)
NH270 福岡(19:40)→羽田(21:25)

羽田-広島線
NH683 羽田(16:55)→広島(18:15)
NH686 広島(19:00)→羽田(20:25)

関連リンク
全日本空輸
ANAホールディングス
Boeing
ボーイング・ジャパン
Rolls-Royce

787関連
ANAの787「本当に大丈夫?」相次ぐトラブル、利用者から不安の声(16年8月26日)
ANAの787、成田でエンジントラブル 滑走路1時間超閉鎖(16年8月15日)
世界初、50機目の787 写真特集・ANAの787-9、エコノミー座り心地改善(16年8月19日)
ANA、50機目の787羽田到着 記念ロゴ入り国際線仕様機(16年8月18日)
中距離国際線機で完納 写真特集・ANAの787-8、36機揃う(16年5月18日)
ANA、787-8全機揃う 4年7カ月かけ、36機目が羽田着(16年5月15日)
JALの787、2月にもGEエンジンの氷晶対策メド(15年1月21日)
高松のANA787バッテリートラブル、原因特定至らず 運輸安全委(14年9月25日)

ANAホールディングス決算
ANAの16年4-6月期、純利益20.7%減 欧州テロ影響、訪日が補う(16年8月4日)
ANAの16年3月期、過去最高益 JALとの格差「毎年1千億円」(16年4月29日)