機体, 解説・コラム — 2026年1月4日 07:55 JST

ホンダジェット藤野氏「辛抱」が生んだ30年の偉業「もの作りだけが飛行機作りではない」

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 世界的ベストセラー機「ホンダジェット」を生んだ藤野道格(みちまさ)さんが、学生時代に過ごした青森県弘前市で若者たちへ向けたメッセージは、意外にも泥臭い「辛抱」の二文字だった。

弘前市の名誉市民に選ばれたホンダジェット開発者の藤野道格氏=25年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
「じっくり基礎から」
信頼関係構築を

「じっくり基礎から」

 藤野さんは東京生まれ。父親の転勤で小学生から高校生まで弘前で過ごし、東京大学工学部航空学科(現・航空宇宙工学科)を1984年に卒業後、本田技研工業(7267)に入社。1986年から航空機の研究開発に携わり、2006年にホンダエアクラフトカンパニー(HACI)社長兼CEO(最高経営責任者)に就任し、ホンダジェットを開発・量産化した。社長を2022年に退任後はHACIの顧問に就いた。

 弘前市名誉市民として、2025年10月に顕彰された藤野さん。開発開始から納入まで約30年、開発中止の危機を乗り越えて偉業を成し遂げた藤野さんに、次世代を担う若者への言葉を求めると、少し考えた末に口を開いた。

 「『辛抱』ですかね。飛行機は結構辛抱がいるから、それを乗り越えて。(航空機開発は)一筋縄ではいかない」。ライト兄弟のオーヴィル・ライトも受賞した「ダニエル・グッゲンハイム・メダル」をはじめ数々の賞を贈られた藤野さんから発せられたのは、古風とも取れる言葉だった。「今の若い人たちは、すぐに結果を求める。そういう時こそ、じっくり基礎からやるというのは昔と変わらないと思います」と語った。

「今の仕事を全力でやれば、それが何かにつながる」と話す藤野さん=15年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 この「辛抱」の重みは、10年前の言葉とも符合する。2015年のインタビューで藤野さんは「何度もやめたいと思った」と吐露しつつ、「今の仕事を全力でやれば、それが何かにつながる。自分がそうだった」と述べ、「1、2年で諦めず、4、5年はやって欲しい」という。目の前の仕事から逃げずに全力で取り組めば、それは必ず天職やあらゆる分野の知識を求められる「全人格的」な設計能力につながるという信念が、当時から一貫している(関連記事1)。

 藤野さんが説く「基礎」とは、単に時間をかけることではない。実験機を飛ばすだけなら「速い球を投げる」だけで済むが、商品化には「ストライクゾーン(型式証明)」に入れる緻密さが求められる。米当局に提出した書類は240万ページにも及んだ(関連記事2)。この膨大な実務を完遂する力こそが、藤野さんの言う「辛抱」の正体であり、イノベーションの土台となっている。

信頼関係構築を

 「飛行機の設計は頭脳の部分を握っていないと、単に部品メーカーで終わってしまう」。こう指摘していた藤野さんは、技術的な部分だけに目を向けても航空機開発は成功しないという。

主翼上面にエンジンを配すなど独創性が特徴のホンダジェット=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ホンダジェットは主翼上面エンジン配置形態やコンポジット胴体など、さまざまな新技術を採用した。民間機では、機体の安全性を製造国の当局が認める「型式証明」を取得することは必須。FAA(米国連邦航空局)を納得させるためには、技術的な正しさだけではなく、開発者と当局の認定部門トップが信頼関係を十分構築できていることが不可欠だと、藤野さんは指摘していた。

ホンダジェット最新型「エリートII」の機内=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 FAAに限らず、多くの人が携わる航空機開発では、自らのチームやサプライヤーといった開発に関わる人々との関係構築は不可欠だ。「ものを作るだけが飛行機作りではない」と語っていた藤野さんは、開発手法やもの作りの分野以外にも学際的なこと、マーケットのこと、“人間”についても知っておかなければ、チームビルディングや周囲との関係構築もうまく行かず、結果としてプロジェクトは前に進まない。「辛抱」は、こうした“技術的課題”以外の部分でも求められる。

 「困難に直面した時、心に浮かぶのは弘前の雪景色や岩木山だった」。エレガントな外観が特徴的なホンダジェットはスマートな成功ではなく、泥臭い基礎の積み重ねと、周囲の雑音に屈しない信念によるものだった。故郷で培われたその姿勢こそが、若者たちへの最大の贈り物となった。

2015年に羽田で日本初公開されたホンダジェット=15年4月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
HondaJet

弘前市名誉市民
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特集・ホンダジェット生みの親、藤野氏に聞く
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後編 人から人へノウハウ継承が不可欠

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「飛行機設計は頭脳握るべき」ホンダジェット、藤野社長インタビュー(15年5月11日)

ホンダジェット操縦記
“空飛ぶスポーツカー”ホンダジェット操縦リポート 静かな機内と飛ばす楽しさが印象的(17年11月10日)

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ホンダジェット、引き渡し開始(15年12月24日)
ホンダジェット、FAAの型式証明取得 引渡開始へ(15年12月10日)
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