ホンダジェット開発の藤野氏、弘前市名誉市民に

　ホンダジェットの開発責任者を務めた航空機設計者の藤野道格（みちまさ）氏（65）が、青森県弘前市の名誉市民に選ばれ、市内で顕彰記念式典と講演会が10月13日に開かれた。

弘前市の櫻田宏市長（左）から名誉市民の称号記を贈られるホンダジェット開発者の藤野道格氏＝25年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

熊本空港上空でデモフライトを披露するホンダジェット＝PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　藤野氏は東京生まれ。父親の転勤で小学生から高校生まで弘前で過ごし、東京大学工学部航空学科（現・航空宇宙工学科）を1984年に卒業後、本田技研工業（7267）に入社。1986年から航空機の研究開発に携わり、2006年にホンダエアクラフトカンパニー（HACI）社長兼CEO（最高経営責任者）に就任し、ホンダジェットを開発・量産化した。2022年に社長を退き、HACIの顧問に就任した。

　式典後の講演で、藤野氏は「子供のころに見上げた岩木山の雄大な姿、春になると満開になる弘前公園の桜は私の原点」と振り返った。

　弘前市の櫻田宏市長は「世界で活躍されていることは、私たち弘前市民にとって大きなりな誇り」と、主翼上面にエンジンを配置するなど独創的な設計でホンダジェットを完成させた藤野氏の功績をたたえた。式典会場には、藤野氏とホンダジェットをイメージした「ねぶた」がサプライズで登場。今後は市庁舎に展示される。

弘前市の名誉市民に選ばれたホンダジェット開発者の藤野道格氏＝25年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

三沢航空科学館に展示されているホンダジェットの技術実証機「HondaJet POC」＝22年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　ホンダジェットは当初、実験機として開発が始まり、技術実証機「HondaJet POC」（登録記号N420HA）が2003年12月に初飛行。技術的な手応えは得たものの、ホンダの上層部は事業化となると否定的だった。

　しかし、2005年にHondaJet POCを米オシュコシュで毎年開かれる実験機の航空ショーに出展したところ、「モーゼの十戒みたいに左右に人が割れた」（藤野氏）ほど多くの人が機体のまわりに集まり、藤野氏が「実験機だ」と何度説明しても購入を希望する人が後を絶たない状態になった。2006年に当時の福井威夫社長が事業化を認め、開発が本格化した。

弘前市の名誉市民に選ばれたホンダジェット開発者の藤野道格氏＝25年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　藤野氏は「困難に直面した時、私の心に浮かぶのはいつも弘前の風景。雪に包まれた街並や澄んだ空を思い出すたびに、不思議と力が湧いてきた」と述懐。「これからも弘前から世界へ挑戦する若い人たちの背中を少しでも押してあげられるような、そういう存在でありたい」と語った。

　独創的な設計で事業化を達成したホンダジェットの功績に対し、藤野氏には世界最大規模の航空宇宙分野の学術団体である米国航空宇宙学会（AIAA）から、ライト兄弟のオーヴィル・ライトや、ボーイングの創業者ウィリアム・ボーイングをはじめ、航空宇宙分野で功績を残した人々が受賞してきた「ダニエル・グッゲンハイム・メダル」が2024年に贈られるなど、世界的に高く評価されている。日本でも、今年9月に一般財団法人日本航空協会から「航空功績賞」が贈られている。

弘前市名誉市民に選ばれた藤野道格氏を祝い製作されたホンダジェットのねぶた＝25年10月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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