成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)の藤井直樹新社長(64)は6月20日、株主総会後に就任会見を開き、鉄道のアクセス改善や現在3つあるターミナルを1つに集約する「ワンターミナル構想」など、空港の機能強化について「第2の開港といえる時期に、着実に実施していきたい」と抱負を述べた。2019年6月から社長を務めた田村明比古氏(69)は相談役に退いた。

就任会見に臨むNAAの藤井直樹新社長(右)と田村明比古前社長=25年6月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
—記事の概要—
・訪日・物流需要対応と鉄道強化
・田村氏「出島の役割果たした」
訪日・物流需要対応と鉄道強化
国土交通省の元事務次官で、航空局首都圏空港課長などを歴任した藤井新社長は、重点項目として、空港と地域の共生共栄、安全の確保、航空需要の増加や多様化への対応の3点を挙げ、「日本を訪れる外国人観光客は今年4000万人を超える勢い。半導体や医薬品、eコマースなどの旺盛な需要に支えられ、金額ベースで見ると日本最大の貿易港だ」と述べた。

就任会見に臨むNAAの藤井直樹新社長=25年6月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
「首都圏の基幹空港として、インバウンドや物流需要にしっかりと応え、国際線ネットワークはもちろんのこと、LCC(低コスト航空会社)を中心とした国内線ネットワークもさらなる拡大を図り、ハブ空港としての利便性向上を目指したい」と語った。
NAAは、2029年3月に供用開始を予定している第3滑走路(C滑走路)の整備や、夜間飛行制限の緩和といった「更なる機能強化」に加え、3つの旅客ターミナルを統合する「新しい成田空港」構想を千葉県と推進。旅客・貨物機能の強化に加え、エアポートシティ構想など地域との連携も見据えている。一方で、1978年5月20日の開港から50年近く経過し、施設の老朽化や、コロナ後の人手不足といった課題への対応も迫られている。
「施設の老朽化への対応、人手不足を乗り越えるための新たな技術や人材確保策の導入、鉄道をはじめとする空港アクセスの利便性向上など、さまざま検討を進める必要があると思う。課題は山積しているが、関係者としっかり議論を重ね、第2の開港といえる時期になすべきことを見定め、着実に実施していきたい」と語り、「このほかにも課題は多々あると思うが、全力で取り組みたい」と述べた。
LCCを中心とする国内線の路線誘致について、藤井新社長は「航空各社の国内線は収益が厳しい状況だが、LCCの価格訴求力と鉄道アクセスの改善をセットにして、国内線ネットワークを拡充したい」と、空港近くに約9キロある単線区間の複線化など、鉄道アクセスの強化とともに、就航を働きかけていく考えを示した。
田村氏「出島の役割果たした」
退任した田村前社長は、2019年の就任から現在までの6年間を振り返り、「社長に就任した当初は旅客数もどんどん伸びており、収支の面で非常に好調な状態が続いていたが、就任から3カ月もたたないうちに暴風雨を伴う台風15号が空港周辺を襲い、地上交通が長時間にわたり途絶し、お客様が多数滞留される事態になった。翌月の台風19号も含め、国の最重要施設を運営する者としての重み、危機管理のあり方をしっかり学ぶことになった。この時の経験を生かす機会がすぐに訪れ、新型コロナウイルス感染症の流行だった」と振り返った。

相談役に退いたNAAの田村明比古前社長=25年6月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
「航空サービスをどうしても必要とする人々の発着拠点として、国民生活や産業活動に必要な重要物資の貿易港として、ある意味で鎖国状態の我が国の出島のような役割を果たし続けた。ターミナル内の設備改修や動線変更を短期間で実施し、航空会社やテナントへ思い切った支援策を講じた」(田村氏)と、新型コロナによる急激な需要蒸発への奔走を振り返った。
新滑走路着工や鉄道アクセス改善に向けた検討開始、ワンターミナル構想など、「成田空港の将来につながる施策の実施や、進むべき方向に対する具体的な道筋をつけることができたと思う。(新社長の)藤井さんは私がもっとも信頼する後輩であり、人格、識見、能力に優れ、成田空港が抱える課題に多面的に対応していただける豊富な経験や実績を残しており、非常に重要な時期を迎えるNAAのかじ取りをバトンタッチできることは大変心強い」とエールを送った。
NAAは、2029年3月に新滑走路の供用開始後、新ターミナルや周辺整備を2030年代前半から中ごろに計画している「ステップ1」、2030年代中ごろ以降の「ステップ2」、最終段階となる2040年代の「ステップ3」と3段階に分けて進めていく。
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