エアライン, 機体 — 2025年6月18日 12:20 JST

JAL、電動ハイブリッド機「MAEVE Jet」開発で独メイブと基本合意 地域路線維持へ現実解模索

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 日本航空(JAL/JL、9201)と100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)、独メイブ・エアロスペース(Maeve Aerospace)の3社は現地時間6月17日、地方都市間を結ぶ地域航空向けの電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の開発に向け、基本合意書(MoU)をパリ航空ショーで締結した。航空機の完全な電動化には時間がかかることから、従来のガスタービンエンジンとバッテリー駆動の電気モーターを組み合わせて、燃費向上やCO2(二酸化炭素)排出量削減の実現を目指す。

電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の開発に向け基本合意したJALの小山雄司経営企画本部長(左)とメイブ・エアロスペースのマルティン・ネッセラーCTO=25年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 MAEVE Jetは、既存のリージョナルジェット機と比べ、燃料消費量を40%削減し、CO2排出量を抑えることを目標に設定。JALグループは、機体設計や運用、カスタマーサポート体制の構築といった分野で、航空会社としての知見を生かし、航空機の耐空性や信頼性を向上させる新たな航空機設計システムの構築に参画していく。

 後部胴体にオープンロータータイプのエンジンを左右1基ずつ配置するリアエンジン、T字翼タイプの機体で、スピードはマッハ0.75を計画。座席数は1列5席配列を基本として、3クラス76席、2クラス90席、1クラス100席程度になる見通し。航続距離は3クラス76席で2685キロ(1450海里)、1クラス100席で1759キロ(950海里)で、最大離陸重量時の滑走路長は1500メートルを計画している。

 日本の国内線事業は、コロナ後の生活環境の変化や円安影響を受け、事業環境が急激に悪化している。こうした中、生活路線である離島路線や、大きな需要が見込めないものの、路線として重要性が高い地方都市間路線の維持が課題となっており、現行のリージョナルジェット機よりもコストを抑えつつ、ターボプロップ(プロペラ)機よりは速度が速い機体として、JALグループは電動ハイブリッド航空機の可能性を模索していく。

 主な協業内容は、MAEVE Jetに関する最新の開発状況を共有し、日本での運航に必要な要件や仕様についての協議、運航時の空港インフラや運用方法の検討、運航中のモニタリング体制や整備性、整備・運航の支援体制の検討、将来のMRO(整備・修理・分解点検)事業体制の検討、運航の知見を活用する新しい航空機設計システムの構築支援の5分野となる。

 JAL執行役員の小山雄司経営企画本部長は「日本は島国で、航空機でないと移動できないところが多く、公益性に加えて事業性も確保した上で持続可能なリージョナルネットワークを維持していくことが重要だ」と述べ、「電動航空機や水素燃料は実用化までに時間がかかる。MAEVE Jetにはエンジンメーカーのプラット&ホイットニーも参画する」と、現行機の知見を生かし、現実的な開発期間での実用化が期待できることから、メイブとのMoU締結を決めたという。

 メイブは2021年にオランダで設立。現在はドイツのミュンヘン、デルフト、カナダのモントリオールにオフィスを構えており、メイブのマルティン・ネッセラーCTO(最高技術責任者)は「脱炭素燃料や新たなインフラへの追加投資を必要とせず、早期に影響を生み出せるソリューションを開発する共通のビジョンをJALと持っている」と語り、現実的な技術で省燃費・低運航コストを実現できる機材の実用化を目指す。

*小山経営企画本部長へのインタビューはこちら

メイブ・エアロスペースが開発する電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の模型=25年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メイブ・エアロスペースが開発する電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の座席レイアウト例(同社サイトから)

メイブ・エアロスペースが開発する電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の航続距離例(同社サイトから)

既存のリージョナルジェット機と比較したメイブ・エアロスペースが開発する電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の環境性能(同社サイトから)

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日本航空
JALエンジニアリング
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