エアライン, 機体, 解説・コラム — 2025年6月26日 12:15 JST

電動ハイブリッド機「現実味ある」特集・JALが描く国内線の選択肢「MAEVE Jet」

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 日本航空(JAL/JL、9201)は、地方都市間を結ぶ国内線維持に向け、次世代の電動ハイブリッド航空機の開発支援に乗り出す。国内線市場はコロナ後の需要変化や円安影響を受けて事業環境が悪化しており、JALは航空会社としての知見を生かして現実的な解決策を模索する。航空機の完全電動化は実用化まで時間がかかるため、既存のエンジンに電動モーターを組み合わせたハイブリッド航空機が有力な選択肢になるとみている。

パリ航空ショーでJALが開発に向け基本合意した電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」=25年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALはパリ航空ショーの会期中、独メイブ・エアロスペース(Maeve Aerospace)の電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet(メイブジェット)」の開発に向け、100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)とともに基本合意書(MoU)を現地時間6月17日に締結。現行リージョナルジェットより燃料消費量を40%削減し、速度や航続距離もターボプロップ(プロペラ)機より優れた機体を目指す。

 グループのジェイエア(JAR/XM)が運航するエンブラエル製リージョナルジェット機の更新時期が徐々に近づく中、JALは地方路線をどう維持していくのか。JAL執行役員の小山雄司経営企画本部長に、電動ハイブリッド航空機の開発に航空会社として参画する狙いを聞いた。

—記事の概要—
「もっとも現実味がある」ハイブリッド機
「簡単じゃない」前提で挑戦

「もっとも現実味がある」ハイブリッド機

 「完全電動化は技術的に厳しく、水素はコストが高い。ハイブリッド航空機はもっとも現実味がある」と小山氏は、地方路線を維持する機体の現実解だと説明する。

電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の開発に向け基本合意したJALの小山雄司経営企画本部長(左)とメイブ・エアロスペースのマルティン・ネッセラーCTO=25年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今後も続くと想定される円安による機体価格や部品代、燃料費といったドル建てコストの上昇、脱炭素といった環境対応が迫られる中、「MAEVE Jetにはエンジンメーカーのプラット&ホイットニーも参画する。プロダクトとしての信頼性向上も期待している」と、今後10年程度の期間内で実現可能性が高い機体として、MAEVE Jetに注目した。

 伊丹空港を拠点とするジェイエアが運航するエンブラエルの「Eジェット」は2機種32機で、2009年2月1日に就航したE170(1クラス76席)が18機と、2016年5月10日就航のE190(2クラス95席)が14機。2030年前後には初期導入機の更新が始まるとみられ、次期機材選定が課題になっている。

ジェイエアのE190=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 小山氏は「更新は検討しているが、全部を置き換えるかは難しいところだ。ハイブリッド航空機など新たな選択肢が出てくれば、より幅のあるフリート構成が可能になる」と説明する。

 MAEVE Jetはこれから開発される機体であるため、JALは「ファーストムーバー」的な関与となり、初期発注ゆえのリスクもある。小山氏は「こうしたリージョナル機開発に航空会社が関わること自体が大事。エンジニアリング面も含めて支援していきたい」と意欲を見せた。

パリ航空ショーでJALが開発に向け基本合意した電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」=25年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メイブ・エアロスペースが開発する電動ハイブリッド航空機「MAEVE Jet」の座席レイアウト例(同社サイトから)

 後部胴体にオープンロータータイプのエンジンを左右1基ずつ配置するリアエンジン、T字翼タイプの機体で、会場に展示された模型は、往年のダグラスDC-9をオープンローター化したかのような模型だった。

 スピードはマッハ0.75を計画。座席数は1列5席配列を基本として、3クラス76席、2クラス90席、1クラス100席程度になる見通しで、座席数はジェイエアが運航しているE190に近い。航続距離は3クラス76席で2685キロ(1450海里)、1クラス100席で1759キロ(950海里)で、最大離陸重量時の滑走路長は1500メートルを計画している。

「簡単じゃない」前提で挑戦

 JALエンジニアリングとしては、将来的にMAEVE JetのMRO(整備・修理・分解点検)分野での展開も視野に入れる。「アジアにも需要はある。日本やアジア市場で必要とされる機材として貢献できれば」(小山氏)と、まずは開発段階でのフィードバックや運航側の知見提供を進める。

パリ航空ショーでWiskの第6世代機を説明するセバスチャン・ヴィニョロンCEO=25年6月16日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方で、eVTOL(電動垂直離着陸機)などの新技術にも、JALは関心を持ち続けている。同じくパリ航空ショーでは、ボーイングの完全子会社でeVTOLを開発する米Wisk Aero(ウィスク・エアロ)、石川県加賀市、JALECの3者で、パイロットが搭乗しない「無操縦者航空機」の実用化を視野に入れた実証飛行に関する基本合意書(MoU)を締結した。

パリ航空ショーで「何でもチャレンジしていく姿勢が大事」と話すJALの小山雄司経営企画本部長=25年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 小山氏は「eVTOLは技術的ハードルが高く、日本での運用は相当苦労している」としつつ、MAEVE Jetのようなハイブリッド航空機は「日本にとって不可欠な存在になる」と指摘。「どちらも将来必要な技術。簡単じゃないという前提で、何でもチャレンジしていく姿勢が大事だと思う」と意欲を見せた。

 今回のMoUは「ハイブリッド航空機は複数社が開発を目指しており、メイブだけに固執するものではない。引き続き幅広い選択肢を検討していく」(小山氏)と、さまざまな可能性を視野に実用化を目指していくという。

 コロナ後の国内線需要の大きな変化や、今後も続くと予想される円安傾向による機体価格をはじめとしたドル建てコストの上昇。国内線の中でも、特に地方路線は利益を出すことが難しく、路線を維持できる事業構造への変革は待ったなしの状況だ。

 一方で、「日本は島国で、航空機でないと移動できないところが多く、公益性に加えて事業性も確保した上で持続可能なリージョナルネットワークを維持していくことが重要だ」(小山氏)と、既存のエンジンを活用するハイブリッド航空機は、地方路線維持の現実解としての期待が集まっている。

関連リンク
日本航空
JALエンジニアリング
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