エアライン, 機体, 解説・コラム — 2025年5月9日 12:53 JST

E190-E2はなぜ日本に適しているのか エンブラエル、ANA導入に手応え

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 「日本のように90席クラスの機材を必要とする路線が多い市場では、E2は有力な選択肢になる」。こう語るのはリージョナルジェット世界最大手、エンブラエルの民間航空機部門のアルジャン・マイヤー社長兼CEO(最高経営責任者)だ。全日本空輸(ANA/NH)などを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)によるE190-E2の導入決定は、ブラジルの航空機大手にとって、アジア太平洋市場での存在感を示す契機となった。

ANAが国内初導入するE190-E2=25年2月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAとのビジネスは、エンブラエルにとってどういう意味を持ち、日本市場でE2はどのような役割を果たすのか。そして、ターボプロップ(プロペラ)機と比べ、リージョナルジェットにはどのようなメリットがあるのか。エンブラエルでアジア太平洋地域担当副社長を務めるラウル・ヴィラロン氏に聞いた。

—記事の概要—
地方路線維持に貢献
従来機の経験生かした整備性
なぜターボプロップよりE2なのか
*マイヤー氏へのインタビューはこちら

地方路線維持に貢献

 「ANAから日本国内の接続性向上のパートナーとして選ばれたことは、大変光栄だ」。ヴィラロン氏は、今回の契約についてこのように語る。

ANAのE190-E2(イメージ、エンブラエル提供)

 E190-E2の導入により、日本の航空会社は地方都市間の結びつきを保ちつつ、経済性の高い運航が可能になるとし、「需要の低下により、接続が難しくなっている都市への路線維持に役立つ」と説明する。

エンブラエルのラウル・ヴィラロン アジア太平洋地域担当副社長(同社提供)

 また、E2の高効率性により、「地方自治体がこれまで通りのサービスを維持したり、新たな接続性を確保するといった可能性が高まる」と述べ、日本全体の路線網維持にも貢献できるという。

 ANAのE190-E2の座席数は未定。国内では日本航空(JAL/JL、9201)傘下のジェイエア(JAR/XM)が運航するE190の座席数が2クラス95席(クラスJ 15席、普通席80席)となっており、今後モノクラスと複数クラスを比較し、採算性が見込めるレイアウトを採用する。

 現時点で投入路線は決まっていないが、航続距離が5278キロと従来のE190より伸びることから、これまで空白だった100席クラスの機材として導入するとともに、従来とは異なる路線の可能性も検討していく。

従来機の経験生かした整備性

 E2シリーズは、従来のE170とE175、E190、E195の4機種で構成する「Eジェット」(E1)の後継機で、E175-E2とE190-E2、E195-E2の3機種で構成。新型エンジンや新設計の主翼、主脚の格納した際のドアなどで、燃費を向上させた。1クラス構成の標準座席数は、E175-E2が88-90席、E190-E2が106-114席、E195-E2が132-146席となる。

ファンボロー航空ショーで飛行展示を終えて着陸するE190-E2=22年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ファンボロー航空ショーで飛行展示を披露するE190-E2=22年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 E190-E2は、燃料費と整備費という運航コストの主な要因に対して強みを持つ機体だという。燃料消費は同クラスの競合機に比べて10%少なく、軽量な設計や高アスペクト比の主翼、クローズドループのフライ・バイ・ワイヤ、ランディングギアドアの採用などが省燃費に貢献している。

 整備面では、「E1ファミリーの累計2000万飛行時間の知見を活かし、E2にはより長い点検間隔(1万時間)や、腐食を防ぐ素材の採用、トレーリングアーム式主脚の導入など、多くの改良を加えている」とヴィラロン氏は力説する。静音性の高さや軽量性による着陸料・航行料の低減も、トータルでの運航コスト削減に寄与するという。

E190-E2飛行試験機の29インチ席=18年7月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

E190-E2飛行試験機の32インチ席=18年7月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

なぜターボプロップよりE2なのか

 地方都市間を結ぶ路線の選択肢としては、運航コストをリージョナルジェットよりも抑えられるターボプロップ(プロペラ)機という選択肢もある。

ファンボローでMRJの飛行試験機(左)と並ぶE190-E2の飛行試験機=18年7月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ヴィラロン氏は、日本ではターボプロップ機よりジェット機が適しているとの見解を示す。「日本は新幹線との競争もあり、数分の差が大きな意味を持つ。また、冬期の寒冷地でターボプロップをPBB(搭乗橋)なしで運航するのは、乗客体験を大きく損なう」と述べた。

 E2のようなリージョナルジェットであれば、そうした問題を回避できるとし、「低搭乗率でナローボディ機を運航している航空会社にとって、E2へのダウンサイジングは収益性改善のチャンスになる」と強調。E2であれば、ボーイング737型機やエアバスA320型機のような160-180席クラスの機材では搭乗率を上乗せしにくい路線も維持できるという。

 三菱重工業(7011)が開発を中止した90席クラスの国産リージョナルジェット「三菱スペースジェット(旧MRJ)」のポジションは、この分野の世界最大手であるエンブラエルがものにした。将来の人口減少が課題である日本にとって、最新リージョナルジェットの導入は、航空会社にとって経済性と路線維持を両立できる存在になるだろう。



E190-E2試験機の試乗動画


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Embraer

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E190-E2機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
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