エンブラエル民間航空機部門のアルジャン・マイヤー社長兼CEOが、同社のファイナンスサミットに合わせて来日し、Aviation Wireの単独インタビューに都内で応じた。全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)による最新鋭機E190-E2の発注は「今後の展開に大きな意味」があると語った。また、トランプ関税は「米国の利用者に跳ね返る」と懸念を示すと共に、対米投資の規模を強調した。

都内で取材に応じるエンブラエル民間航空機部門のアルジャン・マイヤー社長兼CEO=25年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
トヨタの指導を受けた「カイゼン」の取り組み、過去に明らかにしたターボプロップ機構想や開発を中断しているE175-E2の現状、エアバスA320neoやボーイング737 MAXと同規模となる大型ナローボディー市場への参入可能性など、エンブラエルの今をマイヤー氏に聞いた。
—記事の概要—
・ANAのE2選定「今後の展開に大きな意味」
・E175-E2は29年まで開発中断
・トランプ関税「米国の利用者に跳ね返る」
・カイゼンで高品質実現
ANAのE2選定「今後の展開に大きな意味」
ブラジルのエンブラエルは、リージョナルジェット世界最大手で、アジア太平洋では初となるファイナンス・サミットを都内で4月8日に開催。イベントにはおよそ75人が参加し、マイヤー氏は「エンブラエルの企業としての姿勢やE2の市場性、日本市場の可能性などを紹介し、非常に好評だった」と手応えを語った。

ANAのE190-E2(イメージ、エンブラエル提供)
日本を含むアジア市場の需要については「今後20年間で150席以下のリージョナル機は世界で1万500機必要になると見ており、そのうち約3250機がアジア太平洋と中国だ」と述べた。
「アジア市場の重要性は高く、近年はANAのほかスクート(TGW/TR)、ヴァージン・オーストラリア(VOZ/VA)の3社がE2を選定した」と説明。大きな需要が見込める地域として、日本や中国、豪州、ベトナム、インドのほか、マレーシアやインドネシアの離島路線にも可能性があるとした。
ANAHDは今年2月25日に、E190-E2やボーイング787-9型機など最大77機を発注する大型契約を発表。国内初導入となるE190-E2は20機発注し、確定発注が15機、オプションが5機で、国内線の需給調整を目的に、2028年度から2032年度にかけて受領する(関連記事1)。
マイヤー氏は「ANAのような世界的なブランドにE2を選んでいただけたことは非常に光栄で、今後の展開に大きな意味がある」と述べ、「日本のように90席クラスの機材を必要とする路線が多い市場では、E2は有力な選択肢になる」との考えを示した。
E2シリーズは、従来のE170とE175、E190、E195の4機種で構成する「Eジェット」(E1)の後継機で、E175-E2とE190-E2、E195-E2の3機種で構成。新型エンジンや新設計の主翼、主脚の格納した際のドアなどで、燃費を向上させた。1クラス構成の標準座席数は、E175-E2が88-90席、E190-E2が106-114席、E195-E2が132-146席となる。
E175-E2は29年まで開発中断
一方、コロナの影響を受けて開発を一時中断しているE175-E2は「2029年までプログラムを停止している」と述べ、現行機E175(E175-E1)は「2016年の改良で燃費が6.5%向上し、今後もシートやオーバーヘッドビン(手荷物収納棚)、機内Wi-Fiなどの改善を進めていく」と語った。

コロナの影響で開発を中断しているE175-E2(エンブラエル提供)

エンブラエルが検討していたターボプロップ機のイメージイラスト。現在は電動や水素などを動力とする次世代航空機コンセプト「エネルギア」として検討を続けているという(同社提供)
現行機のE175-E1と最新鋭となるE190-E2の性能について「E175-E1は80席クラス、E190-E2は100席クラスの機体で、いずれも短い滑走路での離着陸性能が優れている」と説明。「E175-E1とE190-E2の組み合わせで、ターボプロップ機の代替としても十分対応可能だ」との見解を示した。
2021年に構想を明らかにしたたターボプロップ(プロペラ)機については、「現在は棚上げしている」と明言。「プラットフォームに適したエンジンがなかった」と述べ、現時点では電動や水素など次世代の再生可能エネルギー推進技術を用いた新しい航空機コンセプト「エネルギア・ファミリー(Energia Family)」として、技術検証を進めているという(関連記事2)。
「E2は静かで快適、燃費も良く、乗客にも好まれる機体」と語るマイヤー氏は、「就航路線ごとに経済性を検証する必要はあるが、競争力のある選択肢だ」と、現在はターボプロップ機で運航されている路線にも、E2シリーズを売り込んでいく考えを示した。
トランプ関税「米国の利用者に跳ね返る」
米国で導入されたトランプ関税については、「航空業界は国際的な部品の流れで成り立っている」とした上で、「関税は複雑さとコストを増加させ、最終的に米国の利用者に跳ね返る」と懸念を示した。

エンブラエルA-29(同社提供)
エンブラエルは米国で約2500人の従業員を雇用。「ジャクソンビル(フロリダ州)で(軽攻撃・練習機の)スーパートゥカーノ、メルボルン(同)で(ビジネスジェットの)フェノムの最終組立を行うなど、米国とは深い関係にある」と強調した。
カイゼンで高品質実現
製造工程の品質向上に向けた取り組みは、トヨタから「カイゼン」を導入。「P3とMRNという社内プログラムにより、継続的な改善を行っている」と説明し、「2000年以降ほぼ毎年、新型機を投入してきた」と、安全で高品質な機体を効率的に製造する体制が、エンブラエルの強みだと語った。
大型ナローボディー機市場への参入については「計画はない」と否定。「E2やKC-390、スーパートゥカーノなど、現在の製品群の販売に集中している」と述べ、「航空会社からの期待は、我々への信頼の表れと受け止めている」と述べた。
関連リンク
Embraer
ANAがE190-E2発注
・ANA、過去最多77機発注 E190-E2国内初導入、超長距離A321XLRをピーチに(25年2月25日)
・エンブラエル、ANAから初受注 E190-E2を最大20機(25年2月25日)
解説記事
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