全日本空輸(ANA/NH)とシンガポール航空(SIA/SQ)は4月17日、共同事業(JV)の調印式を都内で開いた。日本-シンガポールの両国間を結ぶ路線と、豪州、インド、インドネシア、マレーシアの4カ国を加えた計6カ国が対象で、関係各国での認可取得後に順次開始する。日本-シンガポール間は9月以降の搭乗分を対象に、5月から共同運賃の発売を予定している。

調印したJVの契約書を手にするANAの井上慎一社長(中央左)とシンガポール航空のゴー・チュンポンCEO(同右)、両社の客室乗務員=25年4月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
JVの対象となるのは、国際線が日本-シンガポール間を結ぶ両社の直行便のほか、ANAが運航する4カ国(豪州・インド・インドネシア・マレーシア)への直行便。ANAの4カ国便と接続する以遠便も対象にする。国内線は羽田や成田など、シンガポール路線と接続するものが対象となる。現在、日本-シンガポール間はANAが1日3往復、シンガポール航空が同10往復の計13往復となっている。

シンガポール航空とのJVについて説明するANAの井上慎一社長=25年4月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
今回のJVにより、乗り継ぎ地での接続性向上や一部運賃体系の共通化、マイル積算対象の拡充など、旅程選択の幅が広がる。例えば、羽田-シンガポール間を往復ともANAを利用するとエコノミークラスで約12万円だが、往路はANA、復路はシンガポール航空とした場合は約30万円と2倍以上になってしまう。JV開始後は航空会社が異なっても約12万円と、2社が同じ会社のような運賃を用意できる。
ANAの井上慎一社長は「日本とシンガポール間の13便を活用し、地方都市への送客も視野に入れる。魅力ある各地域を訪れるインバウンドの増加につなげ、両国の経済関係の発展に貢献したい」と述べた。

ANAとのJVについて説明するシンガポール航空のゴー・チュンポンCEO=25年4月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
シンガポール航空のゴー・チュンポンCEO(最高経営責任者)は、「単独では運航が難しい都市にも、パートナーと連携すればアクセスが可能になる。ANAとの連携で日本国内30都市以上、シンガポール発着で25都市以上のネットワークをカバーでき、両国の利用者にとってシームレスな移動を提供できる」と強調し、シンガポールのチャンギ国際空港をハブとしたASEAN諸国からのインバンド送客にもつなげていく。
日本-シンガポール間以外の開始時期は、関係各国からの独占禁止法適用除外(ATI)の認可取得後に始める見通し。JV対象はANAとシンガポール航空の本体同士のみで、ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下のエアージャパン(AJX/NQ)が運航する新ブランド「AirJapan」やピーチ・アビエーション(APJ/MM)、シンガポール航空系LCCのスクート(TGW/TR)は対象に含まれない。一方、エアージャパンやANAウイングス(AKX/EH)がANA便名で運航する便は対象になる。
今回のATI認可は、両国間の路線で利用者に不利益を生じさせないよう、第三者によるモニタリング体制を構築するのが条件。ANAによると、外部企業によるデータの精査や、大学教授や弁護士などの有識者によるモニタリングを予定しているという。

写真撮影に応じるANAとシンガポール航空の客室乗務員=25年4月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
両社は新型コロナの拡大前の2020年1月31日に、戦略的包括提携契約を締結。当初は2021年10月末に始まる同年冬ダイヤからJVを開始する予定だった。日本の国土交通省からは2024年4月19日に、シンガポールの競争・消費者委員会(CCCS)からは今年3月21日にそれぞれ認可を得た。
ANAは、アジア-北中南米間でユナイテッド航空(UAL/UA)と、日本-欧州間でルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)グループとJVを展開。シンガポール航空は、ルフトハンザ、ニュージーランド航空(ANZ/NZ)、スカンジナビア航空(SAS/SK)、ガルーダ・インドネシア航空(GIA/GA)とJVを展開している。
【JVとは】
JV(ジョイントベンチャー)は、相互に便名を付与する「コードシェア(共同運航)」よりも踏み込んだ提携で、運賃や運航スケジュールを両社間で調整できるようになり、サービスの歩調を全体的に合わせられるようになる。認可されると、乗り継ぎを考慮した運航スケジュールや運賃に加え、マイレージプログラムやラウンジ、マーケティング、貨物など幅広い分野で協業できるようになる。
・ANA、シンガポール航空と共同事業開始へ 国交省が条件付きATI認可(24年4月19日)
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