新旗艦機A350、JALはなぜ個室ファーストクラスを用意するのか 乗らないとわからないビジネスとの差

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 日本航空(JAL/JL、9201)が19年ぶりに刷新する国際線のフラッグシップ、エアバスA350-1000型機の全貌が明らかになった。現行のボーイング777-300ER型機の後継となる長距離国際線の新機材で、これまでと同じくファースト、ビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミーの4クラス構成を踏襲しつつ、JALでは初めて個室タイプのシートをファーストとビジネスに導入する。

 海外では個室ビジネスの登場を契機に、ファーストクラスのサービスを取りやめる航空会社もあるが、JALはファーストを6席設定。ビジネスクラスが54席、プレミアムエコノミーは24席、エコノミーは155席で、現行の777-300ERと比べてファーストが2席、プレエコが16席減少し、ビジネスは5席、エコノミーは8席増える。

JAL A350-1000ファーストクラス(イメージ、同社提供)

 海外出張で利用する層にビジネスクラスの需要は高く、JALに限らずFSC(フルサービス航空会社)にとって最重要クラスだ。同時にインバウンド(訪日客)の増加など多様なニーズに応え、LCC(低コスト航空会社)との競争を勝ち抜くためには、エコノミークラスの底上げも不可欠で、フラッグシップで開発したシートを今後の機材にも展開していくなどの対策が必要になる。プレエコを減らし、エコノミーを増やしているのは、限られた空間で座席数を増やせるだけでなく、多様な客層の取り込みにもつながるからだ。

JAL A350-1000のシートマップ(同社提供)

JAL 777-300ER W84仕様のシートマップ

 ビジネスクラスが個室タイプに進化したA350-1000で、JALはなぜファーストクラスのサービスを続けていくのだろうか。10月2日の発表時点でA350-1000の実機は公開されていないが、昨年7月にロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーから帰国する際、私は現行777-300ERのファーストクラスを特典航空券でロンドンから羽田まで利用した。この時の体験を振り返りながら、JALが次世代機にも最上級クラスを残した理由を探った。

—記事の概要—
ダブルベッド級の広さ
自分のペースで過ごせる14時間
JAL最高峰のサービス

ダブルベッド級の広さ

 まず、A350-1000に採用されたファーストクラスのシートを見てみよう。1-1-1配列の1列3席で、合わせて2列6席。JALでは初導入となる扉を備えた個室シートで、シートピッチは約211センチ(83インチ)、幅は最大約123センチ(48インチ)、ベッド長が最大約203センチ(80インチ)となる。個室の壁高は約157センチ(62インチ)で、座席上には収納棚を設けず、開放感のある空間を実現した。従来と比べて約1.3倍の広さにしたという。

JALのA350-1000ファーストクラス 最大級43インチ4K個人モニター(イメージ、同社提供)

JALのA350-1000ファーストクラス ヘッドレスト内蔵スピーカー(イメージ、同社提供)

 座って過ごす際は幅広のソファのように使え、ベッドにした際はメインのシートのみをシングルベッドとして使ったり、サイドシートとともにダブルベッドのようなゆとりを持たせるなど、乗客の好みで選べるようにした。

 最大級となる43インチの4K個人モニターやヘッドレスト内蔵スピーカーを備え、シアタールームのような空間を用意。スマートフォンのワイヤレス充電や、操作用タブレットの設置といったデジタル端末に関する装備が拡充されたほか、足置きの下には機内持ち込み可能なスーツケース2つ分の収納スペースを備え、上着をしまう専用ワードローブや、ペットボトルなどが入る専用ミニバーもあり、身の回りのものを一通り整理できる構造になっている。

JALのA350-1000ファーストクラス クローゼット(イメージ、同社提供)

JALのA350-1000ファーストクラス ワイヤレス充電(イメージ、同社提供)

JALのA350-1000ファーストクラス 収納スペース(イメージ、同社提供)

 窓の数で数えるとファーストクラスは4つ分で、ビジネスクラスの2倍。シートピッチで比べると、ファーストは81センチ広い。ビジネスでも十分な広さではあるが、機内という限られた空間では快適さの違いにつながる。これは現行機777-300ERでファーストクラスとビジネスクラスで比較しても、明確な差があった。

 しかし、実際に国際線のファーストクラスに搭乗して感じるビジネスクラスとの違いは、こうしたハードウェアの差異だけではない。特典航空券による利用とはいえ、4回ほどJALのファーストクラスに乗り、毎回感じたのは自分のペースで長時間過ごせる点だ。こればかりは自分で乗ってみないと体感できず、わからないことでもある。

JALのA350-1000ファーストクラス 幅広のソファシート(イメージ、同社提供)

JALのA350-1000ファーストクラス ベッドポジションはダブルベッド級の広さにもなる(イメージ、同社提供)

JALのA350-1000ファーストクラス ミニバー(イメージ、同社提供)

自分のペースで過ごせる14時間

 JALが最初にA350-1000を投入する羽田-ニューヨーク線の場合、ファーストクラスの運賃は11月搭乗の場合で往復300万円強。燃油サーチャージや税金などを含めると、313万円ほどになる。ビジネスクラスは往復140万円程度なので約2倍だ。

JALの777-300ER ファーストクラス=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 昨年7月にロンドンから羽田まで乗ったファーストクラスは、もちろん普通運賃で購入したわけではなく、マイルを特典航空券に交換したものだ。ビジネスクラスやエコノミークラスの特典航空券は競争率が高く、希望日の便を予約することが難しい。

 これに対して、ファーストクラスは必要マイルが片道7万-11万マイル程度と、ビジネスと比べて倍増するせいか、希望日から多少ずらせば予約できることもある。昨年のロンドン発便は、帰国日を予定より1日前倒しして搭乗できた。

 私が乗ったフライトは、まだコロナ対策も厳しい時期で、サービスも通常の内容ではなかったが、約14時間のフライトではビジネスクラスとは違ったゆとりを感じた。

JALのロンドン発羽田行きのファーストクラス=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのロンドン発羽田行きのファーストクラス=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのロンドン発羽田行きのファーストクラス=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 シートだけを比較すれば、すでにドア付き個室タイプのビジネスクラスも多く世に出ており、2013年の就航から10年が経過したJALの現行ファーストクラスはいささか時の流れを感じる。ビジネスクラスと比べ、圧倒的に違いがあるのは1席あたりの広さだ。ファーストクラスの区画は1列4席で計2列8席しかなく、空間にゆとりがある。

 例えば、機内食を食べ終わったとして、ファーストクラスは乗客ひとり一人のペースに合わせて客室乗務員が応対してくれる。しかし、ビジネスクラスは混雑度合いによるという印象だ。JALの777-300ERはビジネスクラスが49席で、ファーストと比べると約6倍の座席数がある。特に満席近い混み具合であれば、食べ終わった食器を下げてもらうにしても、席によってはそれなりに待つこともある。

JALの777-300ER ファーストクラス=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALの777-300ER ファーストクラス=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALの777-300ER ファーストクラス=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 各席が独立している今のビジネスクラスは十分快適で、自席で睡眠をとったり、仕事をしていて不満を感じる人はあまりいないだろう。しかし、食器を片付ける時間帯のように「集団の中で過ごしている」と感じる場面が時折ある。

 これに対して、ファーストクラスはJALが「自宅のようにくつろげる」と表現するように、自分のペースで12時間を超える長距離フライトを過ごせることが大きな違いだと改めて感じた。

 つまり、機内という極めて限られた空間で、どれだけ自宅に近い感覚で過ごせるようになっているかが、ファーストクラスとビジネスクラスの間に立ちはだかる「越えられない壁」、圧倒的な違いだと言えるだろう。半日を自分のペースで過ごせる良さは、数字では表現しにくいアドバンテージがあると言える。

JAL最高峰のサービス

 ビジネスクラスにドアが付いた個室タイプを導入する流れは、今から7年ほど前にさかのぼる。2016年8月に米国のデルタ航空(DAL/DL)が発表した「デルタ・ワン スイート」から始まり、その後はカタール航空(QTR/QR)が2017年3月に発表した中央席がダブルベッドにもなる「Qsuite(Qスイート)」など各社から登場。国内では、全日本空輸(ANA/NH)が個室ビジネス「THE Room(ザ・ルーム)」を2019年8月から長距離国際線を飛ぶ777-300ERに投入している。

JALのA350-1000ファーストクラス(イメージ、同社提供)

JALのA350-1000ビジネスクラス(イメージ、同社提供)

 A350-1000の就航により、JALにも個室タイプのビジネスクラスが登場する。海外勢をみると、個室ビジネス導入により、ファーストクラスのサービスを終了した会社もある。一方で、豪州のカンタス航空(QFA/QF)は、シドニー発着でニューヨークやロンドンへ直行便を就航させる超長距離国際線計画「プロジェクト・サンライズ」に投入するA350-1000に、個室タイプのファーストクラスを6席用意した。片道19時間ともなれば、十分価値があるだろう。

 JALは新しいファーストクラスについて「当社の最上位クラスの品質を体験していただきたい」とコメントしており、JAL最高峰のサービスと位置づけている。A350-1000の特設ページでは、主力となる個室ビジネスクラスを前面に打ち出しているが、やはりファーストクラスは会社のイメージリーダーだと言えそうだ。

羽田で公開されたA350-1000飛行試験2号機。まもなく鶴丸塗装の同型機がやってくる=18年2月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 赤坂祐二社長は当紙の取材に対し「昔と違い、飛行機の作り方に自由度がそれほどない。人様と違うものを作っていくのが難しい時代だ」と、機体の安全基準が年々厳しくなり、DC-8のラウンジや747のスカイスリーパーといった、往年のようなハード面での独自色は打ち出しにくくなってきていると話していた。機体メーカーも、コストダウンを徹底する中で、航空会社に対して客室などの仕様をカタログから極力選んでもらうようにしており、あっと驚くような客室は生まれにくい時代になった。

 ビジネスクラスが個室にまで進化した今、人はなぜファーストクラスに乗るのか。私は特典航空券がビジネスクラスよりも取りやすいという理由だったが、普通運賃を払って乗っている人たちは、つかの間の自分だけの時間を求めているのではないだろうか。

関連リンク
JAL国際線 AIRBUS A350-1000
日本航空

10月2日発表
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JAL
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(2)旗艦機A350-1000客室「昔ほど自由に作れない」
(3)航空業界の2050年脱炭素化「全然厳しい」
(4)「あまり航空から離れてもうまくいかない」