エアライン, 空港, 解説・コラム — 2023年6月15日 13:30 JST

「成田はアジア-北米乗継で一番近い」特集・JAL赤坂社長に聞くコロナ後の成長戦略(1)

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により大きな打撃を受けた世界の航空業界は、好調な北米市場をけん引役として回復に向かいつつある。トルコのイスタンブールで6月に開かれたIATA(国際航空運送協会)の第79回年次総会(AGM)でも、世界の航空会社による今年の純利益予想は98億ドル(約1兆3757億円)、純利益率は1.2%になるとの見通しが示された。

イスタンブールでAviation Wireの取材に応じるJALの赤坂社長=23年6月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方、日本では国内線の旅客需要は徐々にコロナ前の水準に戻りつつあるものの、国際線はインバウンド(訪日)需要とアウトバウンド(日本発)需要で大きな差が出ている。アジアからの訪日需要は旺盛だが、日本人が観光や出張で海外へ向かう需要は弱含みで、各国から羽田や成田へ向かう便の機内は、航空会社を問わず外国人ばかり。訪日に加えて、アジアと北米を結ぶ三国間流動も旺盛だが、円安や物価高、コロナに対する不安で、日本人の海外旅行熱は盛り上がりに欠けているのが現状だ。

 2023年3月期決算は3期ぶりの最終黒字となり、配当も復活した日本航空(JAL/JL、9201)は、コロナ後の成長戦略をどのように考えているのか。赤坂祐二社長に聞いた。

—記事の概要—
アジア-北米接続で一番近い成田
円安と心理的不安が影響
*第2回はこちら

アジア-北米接続で一番近い成田

── アジアと北米間を乗り継ぐ3国間流動が好調だ。

赤坂社長:今回のコロナで成田の重要性や利便性を改めて認識できた。成田を「(国際線と国際線を結ぶ)際際ハブ」として使うという、これまでの我々の考えは間違っていないと思っている。

成田空港でワンストップ物流の貨物コンテナが搭載されるバンコク行きJL707便。C滑走路建設など成田の機能強化は旅客だけでなく貨物も見据える必要性があると赤坂社長は指摘する=23年2月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、実際にやってみると、際際のノウハウが意外となかった。そう簡単じゃない、ということだ。ダイヤの問題とか、空港の作りの問題だとか、いろいろなことがわかってきた。

 (C滑走路建設など)成田の再編の中で、際際乗り継ぎの機能を旅客だけでなく貨物も前提として、空港作りや我々もネットワークもこれから作っていくことになるだろう。

 成田はグローバルでも重要だ。そういうポジションであることが今回のコロナで認識された。東南アジアと北米の乗り継ぎで一番距離的に近いのが成田。そこ(長所)をよりとがらせていくと、良いことがあるだろう。

── 今後はアライアンス内の連携よりも個社同士の連携が増えていくのか。

赤坂社長:アライアンスごとに違うが、ワンワールドは加盟社が少ないので、ワンワールド内のつながりを大事にしながら、非加盟社や個社でつながることに寛容な傾向がある。

 一方、スターアライアンスはあれだけの規模なので、基本的に加盟社同士でネットワークが作れると思う。コロナと関係なく、アライアンスの特徴に応じて柔軟にやっていくことになるだろう。

 やはり基本は自分たちのアライアンスだ。アライアンスの中であれば、システムをはじめ、いろいろなものをシームレスに作りやすい。

円安と心理的不安が影響

── ZIPAIRはアジアに加えて西海岸3都市に就航し、JALが強いハワイにも乗り入れている。JALとのカニバリゼーションは起きているのか。

成田空港を出発するZIPAIRのサンフランシスコ行き初便ZG26便=23年6月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

赤坂社長:JALとのカニバリはまったくない。JALの既存のお客様は、ビジネスはJAL、レジャーはZIPAIRと使い分けている方もいらっしゃるが、基本的にはかぶっていない。

 ではZIPAIRのお客様がどこから来たかというと、海外の航空会社を利用していた方だと分析している。(JALが強い)ハワイはどうなのかというと、今後同じようなことが起こると思う。

── 国際線の旅客需要は、アウトバウンドが弱いという指摘が5月の決算発表でもあった。

赤坂社長:国際線のアウトバウンド需要は、我々がどうこうできるものでもない。なぜなら、円安の問題もあるが、心理的な海外旅行に対する心配が皆さんの中にあり、アウトバウンドに影響しているのは間違いない。

ゴールデンウイークで混雑する羽田空港。夏休みのアウトバウンド回復に期待がかかる=23年4月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しばらくは我慢ということだ。円安の裏返しでインバウンド需要が非常に強く、他社の供給が減っている中で通過需要がものすごく多い。そちらを取って、アウトバウンドが少ない間をしのぐようにしてきた。

 今もまだ過渡期にあると思う。時間がたてば、間違いなくマインドも変わってくるし、しばらくは我慢だ。

 まだ効果は現れていないが、若者向けの旅行商品を作っていこう、という話をしている。若者の海外渡航意欲が非常に薄れているが、これはコロナとは別の問題として起きている。若者にもっと海外に出てもらい、リアルな体験をしてもらうことを考えている。これは観光庁とも話をしている。

 JALグループとして若者向けの商品を用意する中で、ZIPAIRは良いかなと思っている。

つづく

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