エアライン, 官公庁, 空港, 解説・コラム — 2019年3月10日 18:59 JST

関空、台風の教訓生かす新対策本部4月設立 地震津波訓練はバス避難も

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 2018年9月4日に台風21号の影響で甚大な被害を受けた関西空港で、南海トラフ巨大地震の発生を想定した地震津波防災訓練が、半年が過ぎた3月5日に行われた。台風被害が生じた教訓を生かし、空港内に取り残された人を空港島の対岸へ運ぶことを想定した訓練や、4月に設立予定の組織横断型となる「関西国際空港総合対策本部(KIX Joint Crisis Management Group)」に各機関から集まる訓練や、役割の確認も行われた。

関空の第1ターミナルで行われた防災訓練に参加する関係者=19年3月5日 PHOTO: Masahiro SATO/Aviation Wire

—記事の概要—
生かせ!台風の教訓
バスで空港外へ避難
情報一元化と意思疎通改善

生かせ!台風の教訓

 今回の訓練は、関空で最大震度6強の地震が発生し、1時間21分後に高さ2.6メートルの津波が到達すると想定。適切な初動対応の確認や空港で働く人の防災意識向上、関係機関との連携を確認することで、空港の安全運用につなげていく。KAPによると、2018年9月4日に起きた台風21号による水害などを教訓に、プランを作成したという。

関空の第1ターミナルで行われた防災訓練で負傷者の応急処置訓練を行う参加者=19年3月5日 PHOTO: Masahiro SATO/Aviation Wire

 これまでに実施された同様の訓練では、関空の島外へ脱出することが想定されておらず、待機場所に集合して救援物資を配るところで終了していた。今回は空港に取り残された人をスムーズに島外へ脱出させるため、運ぶ人の優先順位ごとの振り分けや、バスまでの誘導などの検証に重点を置いた。

 また、災害時の情報を1カ所に集約するため、空港内に対策本部を設置。バスで島外へ運ぶ際に、鉄道の運行が止まっている駅で降ろして行き場を失う人が出ないようにするなど、情報を広く共有することで、素早くスムーズな対応ができるようにしたという。

 今回の訓練は、「館外避難」「滞留者対応」「島外脱出」の3項目を実施。地震発生を告げる館内アナウンスが流れると、訓練の参加者は第1・第2各ターミナルなど空港の至る所で、頭部を保護する姿勢を約1分間保つ「シェイクアウト訓練」を行った後に、避難場所へ向かった。

 訓練は毎年実施しているもので、空港を運営する関西エアポート(KAP)や航空会社、テナントなど空港内で働く約350人が参加した。

バスで空港外へ避難

 建物の安全が確認されると再び建物内に入り、避難者は訓練のメイン会場となる第1ターミナルへ向かい、滞留者対応訓練に参加。地上係員役の参加者は、空港の至る所から避難してきた人へ「滞在者カード」への記入を促し、書かれた内容にあわせて決められた優先順位ごとに避難者を振り分ける手順などを確認した。また、負傷者、乳幼児連れ、障害者など、手伝いが必要な人への対応も行った。

関空の第1ターミナルで行われた防災訓練で空島外へ脱出するバスへ乗り込む参加者=19年3月5日 PHOTO: Masahiro SATO/Aviation Wire

 島外へバスで脱出することを想定した訓練では、避難者をバスの乗車場所まで誘導し、実際にバスに乗り込んで発車させるところまで行われた。

 バスへ案内するのは、負傷者や障害者、妊産婦、難病患者とその家族が最優先で、続いて乳幼児連れや高齢者とその家族、未成年者、一般旅客、従業員の順と決められ、案内役の参加者が全員をバスに乗せるまで行われた。

情報一元化と意思疎通改善

 KAPは、4月1日から新KOC(KIX Operation Center)と非常時に関係30機関が参集する「関西国際空港総合対策本部(KIX Joint Crisis Management Group)」を関空内に設ける。従来のKOCが管轄する範囲が滑走路など制限区域内の運用や管理、警備や保安、防災だったのに対し、新KOCは旅客ターミナルの運用や空港へのアクセス、さまざまな設備の監視なども加え、空港全体の情報を一元管理できるようにする。

関空の総合対策本部参集訓練であいさつする関西エアポートの山谷佳之社長=19年3月5日 PHOTO: Masahiro SATO/Aviation Wire

 こうした日常の運用体制の強化や、航空会社など関係者との意思疎通を改善することで新たな連携体制を構築し、災害時の緊急対応と早期復旧につなげていく。

 KAPの山谷佳之社長は、「台風による被災から非常に多くのことを学んだ」とし、「それらを教訓として今後の災害対策に生かすため、さまざまな取り組みを検証している」と語った。

 台風対応でのKAP経営陣の失策を受け、国土交通省は全国主要16空港に対し、業種の垣根を越えた対策本部の設置を指示している。

 関空は2016年4月1日に民営化。KAPにはオリックス(8591)と仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資し、オリックス出身の山谷社長と、ヴァンシ出身のエマヌエル・ムノント副社長が同格扱いのトップに就いている。

 しかし、9月の台風の際には、出資比率が同じであることが“あだ”になり、航空会社などからKAP経営陣の災害対応に批判が相次いだ。コンソーシアムの代表企業はオリックスだが、ヴァンシも主導権を握ろうと動いたことが、非常時の混乱に拍車をかける一因となった。

 航空会社をはじめとする関空の関係者には、こうした運営会社の動きが“内輪もめ”に映った上に、空港運営ノウハウを持つことを売りに参入したはずのヴァンシが、日本で起きる自然災害では進路などを比較的予想しやすい台風に対し、有効な対応策を打ち出せなかったことなどから、官邸や関空関係者のいら立ちやあきらめ、失望につながっていった。

 こうした問題を受け、2018年12月には非常時の意思決定を山谷社長に一元化する方針を発表。指示系統を明確にしている。

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