エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2013年2月21日 05:55 JST

全日空の787、電気配線に設計ミス 運輸安全委「発煙との関連性低いが電圧記録には影響も」

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 1月16日に高松空港へ緊急着陸した全日本空輸(ANA、9202)のボーイング787型機(登録番号JA804A)でのバッテリー発煙トラブルについて、国土交通省・運輸安全委員会(JTSB)は2月20日、機体の電気配線に設計ミスがあったことを明らかにした。

 ボーイングでは設計ミス発覚後に図面改訂を行っているが、改訂内容を当該機に反映する改修は行われていなかった。JTSBでは設計ミスと発煙トラブルの関連性は低いとみているが、フライトレコーダー(DFDR)に記録された電圧の計測データには影響を与えた可能性もあるとして、慎重に調査を進める。

メインバッテリー周辺の配線概念図(JTSBの資料から)

設計ミスと発煙の関連性低い

 JTSBの調査官が高松空港でエンジンが停止した状態の機体を調べた際、左右の主翼端と尾部にあるナビゲーションライト計3つがコックピット内の全スイッチがオフになっているのに点灯していた。補助動力装置(APU)の始動に使うAPUバッテリーの電源コネクターを外したところ、すべて消灯したという。ナビゲーションライトの電力は通常、飛行中はエンジンに搭載された発電機から、地上でエンジン停止時はAPUバッテリーから供給される。

 原因を調べた結果、メインバッテリーの配線に設計ミスがあり、本来は独立しているAPUバッテリーとメインバッテリーの配線が、回路(ホットバッテリーバス、HBB)を経由してつながっていたという。ナビゲーションライトが点灯し続けていたのは、メインバッテリーでトラブル発生後、電圧の均衡が崩れたことが原因とみられる。

 JTSBによると、HBBとメインバッテリーの間には電流の逆流を防ぐダイオード(BDM)があるため、メインバッテリーの発煙との関連性は低いとしている。

ナビゲーションライトの位置(赤点線丸部分、JTSBの資料から)

電圧計測データに影響の可能性

 これに対し、DFDRに記録される電圧データはHBBとBDMの間で計測しているため、メインバッテリーに異常が発生後、計測データに影響が生じた可能性があるとの見方を示した。

 DFDRの記録では、コックピットで異臭を感じたころからバッテリー電圧が約10秒間に31ボルトから11ボルトまで低下し、その後上下を繰り返して10ボルトになったという。DFDRにはBDMを経由することで約1ボルト低く計測されるため、異常発生前のバッテリー電圧は満充電状態の32ボルトだったとみられる。

 JTSBの調査官は「APUバッテリーが影響したとすると、メインバッテリーの電圧は計測値と異なり10ボルト以下に下がっていた可能性がある」として、引き続き調査を進めるという。

ANAの787で起きたバッテリー発煙トラブルの調査状況を説明するJTSBの後藤委員長=2月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ミス修正前の設計図に基づいた配線

 当該機は2011年12月製造で、開発時の試験飛行にも使用された。設計ミスが見つかった箇所の設計図の最新版は12年9月発行の改訂5版(Rev.5)で、ボーイングでは遅くとも11年11月発行のRev.4までに設計ミスに気づき、図面を改訂していた。

 しかし、当該機は設計ミスの修正が行われる前の初期図面に基づいた配線が行われており、改修も行われていなかった。

 当該機以外にもANAが保有する17機のうち、現在羽田空港に駐機中の2機が同様の図面による誤配線のまま運航されていた可能性があるとしている。

 航空機では図面改訂が生じた場合、飛行の安全性に影響が及ぶ際は直ちに当該箇所の改修が行われるが、改訂内容が安全性に影響しないとメーカーが判断した場合などでは、改修に時間を要することがある。JTSBによると、当該機がなぜ改修されていないかについては、現時点でボーイングから回答を得ていないという。

セルの構成イメージ図(JTSBの資料から)

エレメントに変色痕

 一方、バッテリー発煙と直接関係性のあるセル・エレメントの調査状況については、すべてのエレメントに変色した痕が見られたとした。変色した理由については「熱暴走なのか電極同士が接触したのか、まだわからない」(JTSBの後藤昇弘委員長)と述べた。

 また、8つのセルのうち、セル4と5を除く6つのセルの安全弁が開いていたことを明らかにした。後藤委員長は「発煙の経緯はある程度わかったが、なぜ起きたのかはまだわかっていない」と語り、今後は再現実験などを行いたいとの意向を示した。

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