モバイルバッテリー機内規制強化、航空各社の充電環境は? USB Type-C普及で危うい変換アダプター

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 モバイルバッテリーが原因とみられる機内火災が各国で相次ぎ、航空各社が対策を強化している。昨年2025年1月には韓国・釜山の金海空港で、エアプサン(ABL/BX)の香港行きBX391便(エアバスA321型機、登録記号HL7763)の機内で出発前に火災が発生し、乗客170人と乗員6人が脱出スライドで避難した。10月には、中国国際航空(エアチャイナ、CCA/CA)の杭州発ソウル(仁川)行きCA139便(A321、B-8583)が飛行中、乗客が手荷物収納棚に収納したモバイルバッテリーが自然発火し、負傷者は出なかったものの、上海浦東国際空港へダイバート(目的地変更)した。

羽田空港の訓練施設で手荷物収納棚のモバイルバッテリーが発火したことを想定しスモークフードを着用して消火にあたるJALの客室乗務員=25年12月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうした事案を背景に、国土交通省航空局(JCAB)は2月27日、機内でのモバイルバッテリーの扱いを大きく見直す告示と通達の改正案を公表し、パブリックコメントの募集を始めた。機内に持ち込めるモバイルバッテリーを2個までに制限し、バッテリー自体の充電や、バッテリーからスマートフォンなどへの給電を禁止するのが柱で、4月中旬ごろの開始を見込む。スマートフォンなどを機内で充電するとなれば、今後は機内の電源コンセントや充電用USB端子、空港の充電設備を使うことになる。

 ところが、ここで新たな問題が浮かび上がる。機内の充電用USB端子は旧世代「Type-A」が主流であるのに対し、スマートフォン側は2023年9月発売のiPhone 15以降は「Type-C」が主流になりつつある。両端がType-Cのケーブルしか持たない乗客が増える一方で、多くの機体にはType-A端子しかない。このギャップを埋めるために使われかねないのが、USB規格では禁止されている、Type-CのケーブルをType-Aの端子に接続できるようにする変換アダプターの存在だ。

 今回の告示と通達改正により、モバイルバッテリーに起因するトラブルは減少が期待されるものの、本来は存在しない変換アダプターが原因の発熱や機体のUSB端子破損など、別の火種を生みかねない状況にある。

—記事の概要—
機内2個まで充電不可
ANA・JAL機内充電事情
Type-C→A変換は規格外
正しいケーブル利用を

機内2個まで充電不可

 国交省が今回示した改正案では、乗客が機内に持ち込めるモバイルバッテリーを1人2個までとし、容量は160Wh以下に制限。リチウム金属電池でリチウム含有量2グラム以下など、一定条件を満たすものはこの個数にカウントしない。

独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)によるモバイルバッテリー事故の再現実験(同機構のサイトから)

 機内では、モバイルバッテリー自体を充電しないことに加え、モバイルバッテリーから他の電子機器へ給電する行為も禁止する方針だ。海外では「パワーバンク」と呼ばれるモバイルバッテリーについて、国交省はICAO(国際民間航空機関)の基準に基づき、2025年7月8日から手荷物収納棚へのモバイルバッテリーの収納を禁止するなどの対策を講じてきた。

 ICAOでは全世界的な機内火災の増加や、欠陥や脆弱性のある低品質なモバイルバッテリーの流通を受け、国際基準の緊急改訂案を取りまとめた。3月下旬の理事会で審議され、承認されれば即時発効する見通し。日本もこれに準拠して告示と通達を改正する方針で、4月中旬にも改正となる見込みだ。

 これまでのパブリックコメント制度の運用では、原案から大きく変更される例は多くない。しかしながら、一家言ある人は政府の総合窓口サイト「e-Gov」などを通じて、3月30日まで意見を寄せることができる(関連記事)。

ANA・JAL機内充電事情

 モバイルバッテリーの使用が制限されれば、頼みの綱は近年増加傾向にある機内の電源コンセント(PC電源)や充電用USB端子の活用だ。国内大手2社の状況を調べると、国際線と国内線で事情が異なる。

 全日本空輸(ANA/NH)は、国際線は全97機の全クラスに電源コンセントとType-Aの充電用USB端子を装備している。

全席に充電用USB端子付き個人用モニターを装備するANAの787-9国内線新仕様機の普通席=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

個人用モニターに充電用USB Type-A端子が設けられたANAの787-9国内線新仕様機の普通席=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方、国内線は135機のうち、電源コンセントかType-A端子を装備しているのは94機で、およそ7割にとどまる。上級席「プレミアムクラス」のみ装備する機材が12%にあたる17機、ターボプロップ(プロペラ)機のデ・ハビランド・カナダDash 8-400(旧ボンバルディアQ400)型機24機は電源類が一切ない。このため、ANAは搭乗前に空港などで充電しておくよう呼びかけている。

 日本航空(JAL/JL、9201)は、国際線は全75機に充電設備を装備。2024年1月に就航した最新鋭機エアバスA350-1000型機は全機全クラスに電源コンセントとType-C・Type-Aの充電用USB端子を装備し、ファーストクラスとビジネスクラスにはワイヤレス充電器も備える。ボーイング777-300ER型機や787、767など68機は全クラスに電源コンセントとType-A端子を備え、7機の737-800はビジネスクラス全席に電源コンセントを備える。

JALのA350-1000エコノミークラスの個人用モニター下に設けられた充電用Type-C(右から2つ目)とType-A端子(右)=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのA350-1000のエコノミークラスの電源コンセント=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 国内線71機のうち、70機は機内で充電可能。2019年に就航したA350-900と787-8は全クラスに電源コンセントとType-A端子を備え、767-300ERのうち15機と35機ある737-800は、全クラスにType-CとType-Aの端子を装備する。一方、充電設備が一切ないのは767-300ERの初号機(JA601J)の1機のみ。

 このほか、2006年3月の就航当時からA320に電源コンセントを設け、現在は充電用USB端子も備えているのがスターフライヤー(SFJ/7G、9206)だ。最新のA320neoは、電源コンセントとType-C・Type-Aの充電用USB端子を備える。

 737-800を運航するスカイマーク(SKY/BC、9204)も、一部機材を除き充電設備を装備。2018年に受領した機体からは、電源コンセントに加えてType-A端子も備えている。

各席にType-AとType-Cの充電用USB端子(左側)と電源コンセント(右側)を備えるスターフライヤーのA320neo=PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

USBケーブルを挿したピーチのA321LRの充電用USB Type-A端子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 LCC(低コスト航空会社)も、充電可能な機材がある。ピーチ・アビエーション(APJ/MM)は、日本初導入となった2021年12月就航のエアバスA321LRに、Type-A端子を装備。A321LRを2022年7月に就航させたジェットスター・ジャパン(JJP/GK)も、Type-A端子を備えている。

 このように、Type-C端子を備える機材は、現時点でごくわずかだ。そして、機内のType-A端子は一般的に5V・2.1A(約10.5W)の供給能力を想定して設計されており、電源コンセントを備えている機材であれば、手持ちの充電器を使った方が地上に近い充電速度が期待できるだろう。

Type-C→A変換は規格外

 日本の航空会社に限定すると、機内で充電する場合はType-A端子を使うケースが多くなりそうだ。一方で、アップルは2023年9月発売のiPhone 15シリーズから、充電端子をLightningからType-Cへ切り替え、Android端末はすでに多くがType-Cに統一されつつある。

JALの737-800の普通席に設置されたUSB Type-A(上)とType-C充電端子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

スターフライヤーのA320neoの充電用USB Type-C端子(上)とType-A端子=23年7月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 Type-Cを採用したスマートフォンなどが増えてきたことで、旅行する際に持ち歩く充電用USBケーブルは両端がType-Cのものだけ、という人もいるだろう。モバイルバッテリーが機内で使えなくなれば、機内のUSB端子への依存度はさらに高まる。

 その時に多くの人の頭に浮かぶのは、Type-CのUSBケーブルをType-Aの充電用端子に接続できるようにする「Type-Cメス→Type-Aオス」の変換アダプターではないだろうか。しかし、この組み合わせはUSB規格の標準化団体「USB-IF」が安全上の問題から製造も使用も禁止している“規格外品”であることは、あまり知られていない。実際、大手量販店の通販サイトなどでも取り扱いがあるほどだ。

正しいケーブル利用を

 4月からの告示と通達の改正は、モバイルバッテリーの個数制限や機内での充電禁止など、リチウム電池を巡るリスクを減らすことが狙いだ。海外では2025年1月のエアプサン機の火災以降、飛行中のモバイルバッテリー使用を全面的に禁じる航空会社が増えている。安全対策としては妥当な方向性だが、一方で乗客の充電ニーズをどう満たすかという、新たな課題も突き付けている。

Type-A(下)とType-C端子を備えたUSBケーブル=26年2月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 乗客側に求められるのは、まず「正しいケーブル」を用意することだ。端末側がType-Cであれば、充電用端子がType-AかType-Cかに合わせ、規格に合ったケーブルを使う必要がある。安価な変換アダプターで場当たり的に対応しようとすれば、アダプターや充電用端子に過負荷などが起こりかねず、機内でモバイルバッテリーとは別の“発火源”を持ち込むことになりかねない。

 「これぐらいなら問題ない」「売っているから大丈夫」──。地上ならそれでも大きな問題にならないかもしれない。しかし、ひとたび問題が起きれば、限られた選択肢で対応しなければならないのが機内でのトラブルだ。モバイルバッテリーも、すべての製品が問題なのではなく、粗悪品が原因だが、実際に飛行機が火災で燃えている。どのような問題が起こりうるかの想像力欠如と安易な判断が、多くの乗客と乗務員の命を危険にさらすと言っても過言ではない。

 航空会社側は、機内設備の更新と並行して、注意喚起や訓練を通じてリスク低減を図っている。今回の改正で、モバイルバッテリーが原因となるトラブルへの対策は強化されるが、USB端子の主流規格が過渡期の今は、規格外の変換アダプターが使われる可能性という、新たな火種への対応も迫られることになりそうだ。


【動画】「火元はモバイルバッテリー」JAL CAが火災対応を実演


関連リンク
パブリックコメント(e-Gov)
国土交通省

4月から見直しへ
モバイルバッテリー機内2個まで 国交省が4月改正、パブコメ募集(26年2月27日)

JAL CAの訓練
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動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
「火元はモバイルバッテリー」JAL CAが火災対応を実演

国内各社の対応
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モバイルバッテリー
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