官公庁, 機体, 解説・コラム — 2025年3月9日 12:05 JST

NASAとブーム、XB-1の音速突破”証拠”撮影 JAL出資の超音速機

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」を開発中の米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic、本社デンバー)は、NASA(米国航空宇宙局)の協力を得て超音速飛行時のシュリーレン撮影を実施し、音速を超えた際に生じる衝撃波(ショックウェーブ)の可視化に成功した。

NASAが撮影に成功したXB-1が音速を超えた瞬間の衝撃波(NASA提供)

 シュリーレン撮影は、現地時間2月10日の2回目の超音速飛行で実施。NASAが地上から望遠鏡と特殊なフィルターを用いて撮影し、ブームの技術実証機「XB-1」(登録記号N990XB)が音速を突破する際に発生する衝撃波を観測した。また、NASAが地上で収集したデータの解析により、XB-1は「ドン、ドーン」と打ち上げ花火や落雷のような音を伴う衝撃波「ソニックブーム」を地上で聞こえる形で発生させなかったことが確認できたという。

—記事の概要—
音速突破の瞬間捉える
超音速飛行の制限回避

音速突破の瞬間捉える

 XB-1は、1月28日に米カリフォルニア州のモハベ(モハーヴェ)空港・宇宙港を拠点に初の超音速飛行に挑んだ。高度3万5290フィートに達し、マッハ1.122を記録。米国の民間機として初めて超音速飛行を達成した。

超音速飛行に成功したブームのXB-1(同社提供)

 2月に実施した2回目の超音速飛行では、NASAが事前に定めたウェイポイントを基に、XB-1のパイロットであるトリスタン“ゼペット”ブランデンブルク氏が操縦。NASAはXB-1が太陽を背景に飛行する瞬間をとらえ、機体周辺の空気密度の変化を観測した。

 NASAとブームは、XB-1が「マッハ・カットオフ(Mach Cutoff)」と呼ばれる状態で飛行する可能性が高いとペンシルベニア州立大学の音響モデルに基づき予測していた。この状態では、適切な高度で超音速飛行を行うことで、発生したソニックブームが大気中で屈折し、地上には届かない。ブームの解析では、XB-1の飛行中にマッハ・カットオフが発生していたことが証明され、地上で聞こえるソニックブームは発生しなかった。

 ブームのブレイク・ショールCEO(最高経営責任者)は、「この画像は衝撃波の可視化に成功したものであり、米国製の民間超音速機が音速を突破する瞬間を記録したものだ」とコメント。また、「XB-1が地上で聞こえるソニックブームを発生させなかったことも証明された。これにより、米国内の東海岸から西海岸までの飛行時間を最大50%短縮する道が開かれる」と述べた。

ペンシルベニア州立大によるマッハ・カットオフ飛行の音響モデル(ブーム提供)

超音速飛行の制限回避

 ブームはXB-1の試験データを基に、オーバーチュアの「ブームレス・クルーズ(Boomless Cruise)」技術の開発に活用していく。ブームレス・クルーズは、米国内の超音速飛行規制を回避しつつ、オーバーチュアがマッハ1.3で飛行しながら、地上で聞こえるソニックブームを発生させずに運航することを目指す。これにより、米国内の超音速飛行制限を回避し、ニューヨーク-ロサンゼルス間の飛行時間を最大90分短縮できる。

グリーンズボロで最終組立が行われるブームの超音速機オーバーチュアのイメージ(同社提供)

Overtureの客室イメージイラスト(ブーム提供)

 今回の試験飛行で、XB-1の試験プログラムは終了。機体はデンバーに戻り、ブームは本格的な旅客機の開発に移行する。

 ブームには日本航空(JAL/JL、9201)も出資。オーバーチュアは、アメリカン航空(AAL/AA)やユナイテッド航空(UAL/UA)などから予約を含めると計130機の受注を獲得しており、ノースカロライナ州グリーンズボロにある「オーバーチュア・スーパーファクトリー」で量産され、年間生産能力は66機を予定している。

関連リンク
NASA
Boom Supersonic

飛行試験
米ブームXB-1、初の超音速飛行成功 JALが出資(25年1月29日)
JAL出資の米ブームXB-1、初の超音速飛行1/28挑戦 ライブ配信も(25年1月27日)
JAL出資の米ブーム、超音速実証機XB-1が5回目の飛行試験成功(24年10月8日)
超音速実証機XB-1、4回目の飛行試験でマッハ0.6到達 JAL出資の米ブーム(24年9月22日)
超音速実証機XB-1、3回目の飛行試験成功 JAL出資米ブームが開発(24年9月17日)
JAL出資ベンチャー米ブーム、超音速実証機XB-1初飛行 ”飛行機の墓場”モハベから新たな歴史(24年3月23日)

解説・JALも出資オーバーチュアの今
前編 アフターバーナーなし4発で超音速
後編 大統領専用機の座も狙う超音速機

ユナイテッド航空とアメリカン航空が発注
超音速機ブーム、アメリカン航空が最大20機発注へ 洋上でマッハ1.7(22年8月16日)
ユナイテッド航空、超音速旅客機を15機発注 東京-西海岸6時間、29年にBoom社Overture就航(21年6月3日)

Overtureの解説記事
アフターバーナーなしでマッハ1.7 解説・Boomの超音速機オーバーチュア(21年6月4日)

グリーンズボロで生産
ブーム、グリーンズボロに超音速機オーバーチュア製造施設 24年生産開始(22年1月27日)

本邦初!CEO独占インタビュー。Boomのオフィス写真も。
超音速機ベンチャーBoom、実証機XB-1を19年末ロールアウトへ 西海岸まで5.5時間(19年5月20日)