羽田空港に設置されたマッサージチェアを舞台に、運輸相を務めた古賀誠・自民党元幹事長(84)の長男が経営するコンサルティング会社アネスト(東京・港区)に対する長年の不適切な利益供与が明らかになったことを受け、羽田空港のターミナルを運営する日本空港ビルデング(9706)の鷹城勲会長(81)と横田信秋社長(73)が引責辞任した。
社内では古賀氏長男への利益供与を問題視する声もあったが「通報すれば(鷹城会長に)飛ばされる」という空気のもとで内部通報制度が機能しなかった。古賀氏の政治的影響力から、両トップが長男との関係を断ち切れなかった実態も、特別調査委員会の報告書で明らかになった。一方、調査委は空ビル側が長男や古賀氏から行政的な便宜供与を受けた事実は確認されなかったとしている。また、長男は調査委の聴取に応じないなど、誠意を見せていない。

都内で開いた会見で謝罪する日本空港ビルデングの田中一仁新社長(左)と特別調査委員会の委員=25年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
—記事の概要—
・古賀氏長男「金が払われていない」
・「長男に金を流すための会社だ」
・「一発で飛ばされる」鷹城氏恐れる社内
・フォレンジック調査「生々しいやり取り」
・長男は調査応じず
古賀氏長男「金が払われていない」
空ビルは5月9日午後、都内で記者会見を開き、今年3月13日に立ち上げられた監査等委員が主導する「特別調査委員会」の報告書を公表。問題の発端は2006年に当時社長だった鷹城氏が、部長だった横田氏に古賀氏の長男を紹介したことに始まる。アネストは空ビルの子会社「ビッグウイング」との間で空港内に設置するマッサージチェア事業の委託契約を結び、2016年までの10年間に約4億3000万円を受け取った。実際の業務は外部の別会社へ丸投げされており、アネストへ業務を委託する必要性はなかった。

都内で会見する日本空港ビルデングの田中一仁新社長=25年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

引責辞任した日本空港ビルデングの鷹城勲前会長(資料写真)=20年1月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
2016年、東京国税局はアネストへの支払いを「寄付」と判断し、ビッグウイング側に対して約1億円の所得隠しを指摘。延滞税・重加算税を含め、約6600万円を納付した。その後も表面上は別会社との契約に切り替えつつ、アネストに利益が流れる構図は継続していた。
その後、マッサージチェア事業の運営会社が変更されると、長男側から「金が払われていない」との強い要求があり、横田氏は「何か手はあるかね。仕事をかませる必要がある。何か仕事を考えてくれ」と新たな資金供与の方法をビッグウイングの幹部に指示。ダミー会社を経由してアネストに資金が流れるスキームが検討されたものの、協力企業に「お金を流すためにダミー会社を使うなどできない」と断られたため、別の企業に委託先を変えた。
「長男に金を流すための会社だ」
調査報告書では、マッサージチェア事業をはじめ、広告業務や経営相談といった複数の取引においてもアネストへの利益供与が行われていたことが確認された。マッサージチェアの運営を担う企業がアネストに手数料を支払う構図が維持されており、ビッグウイングの幹部は「長男に金を流すための会社だ」との認識があったという。

引責辞任した日本空港ビルデングの横田信秋前社長(資料写真)=25年2月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
広告業務に関しては、ビッグウイングがアネストに対し、羽田空港内の広告スペースを相場の半額程度で提供。アネストは外部企業に対し相場の数倍から最大10倍という高額で掲示料を請求していた。こうした取引も鷹城氏と横田氏の主導で行われ、実質的な内容の伴わない契約が継続していた。
また、マッサージチェアの清掃業務を名目に新たな会社を立ち上げ、アネストが再委託を受けるルートも構築。この会社は、ごく一部の清掃しかしていないにもかかわらず、81台すべてを点検・清掃したとの虚偽の作業報告書を提出していた。
2016年の税務調査後も、横田氏が主導して別会社を経由した資金の流れを構築した経緯は、調査委が「租税回避行為にあたる」と指摘している。
横田氏は鷹城氏と同じくプロパー社員で、1974年入社。2014年に副社長、2016年から社長を務めていた。この際に空ビルはCEO(最高経営責任者)制を導入し、鷹城氏が会長兼CEO、横田氏が社長兼COO(最高執行責任者)に就いた。
「一発で飛ばされる」鷹城氏恐れる社内
空ビル側では、アネストとの取引に疑問を持つ社員がいたものの、取締役会への報告や内部通報には至らなかった。調査委の報告書には「通報したら不利益を被る」「鷹城会長の不興を買うと一発で飛ばされる」といった社内の証言が記載されており、2005年から20年に渡り社長、会長として君臨した鷹城氏に対する強い忖度と恐怖心が支配的だった。

引責辞任した日本空港ビルデングの鷹城勲前会長(右)と横田信秋前社長(資料写真)=20年1月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
また、こうした問題が明るみに出た2016年以降も、監査担当には税務調査の内容が共有されず、役員会でも問題として扱われることはなかった。調査委は「監査機能が十分に機能していたとはいえない」と結論づけており、コーポレートガバナンス(企業統治)に深刻な課題があったと指摘している。
会見に出席した田中一仁新社長(60)は「これまでの経営は、役員人事を掌握していた鷹城前会長の下で進められてきた」と認めた上で、今後は経営体制の見直しや、専門性を持った人材の登用を含めた取締役会での議論を通じて再発防止に取り組む考えを示した。
これまで副社長だった田中氏は、鷹城会長と横田社長が辞任した9日に就任。経営体制については「本日の取締役会で決まったのは私の就任まで。今後の体制については、指名委員会や取締役会で継続的に議論していく」と述べた。新たな監査等委員の設置や、監督体制の強化などが今後の課題となる。
フォレンジック調査「生々しいやり取り」
今回の調査で、アネストとの間で交わされたチャットツール上のメッセージなど、フォレンジック調査によって多くの記録が回収された。
「本人たち同士の生々しいやり取りの内容が出ており、(スマートフォンなどを介さない)口頭だけでの連絡は考えにくい」(調査委)として、重大な合意や取引が、フォレンジック調査が及ばない非デジタル的でアナログな手段のみで行われた可能性は低いと結論づけている。
「横田メモ」と呼ばれる社内記録には、「契約書の解釈」や「先方ともめないこと」などの文言が記されており、会長と社長による黙認や意図的な関係維持がうかがえる。調査委は、こうした記録を精査したうえで、組織的関与の可能性を強く指摘した。
長男は調査応じず
調査委によると、アネストおよび古賀氏の長男からの聴取は実現せず、調査への協力も得られなかった。空ビル側から行政的な便宜を求めた事実は確認されなかったものの、「関係を断ち切ることははばかられた」と横田氏は証言している。
「長男に人としての道義的返還を求めないのか」とのAviation Wireの質問に対し、田中社長は「弁護士と相談して検討していきたい」と述べるにとどめた。
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