エアライン, 解説・コラム — 2025年5月4日 07:00 JST

JAL斎藤副社長「非航空・LCC両方伸ばす」特集・脱航空一本足打法の今

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 「航空一本足打法は、コロナに対して無力だった。いかにして普段からいろいろな事業を考え、どこかがやられたら何かでカバーする、というビジネスモデルを早く作ることに尽きると思う」。日本航空(JAL/JL、9201)の赤坂祐二会長が、社長時代の2023年6月に当紙のインタビューに応じた際、非航空系事業の強化が喫緊の課題との考えを示していた。

 一方で「あまり航空から離れてもうまくいかない」と、マイレージ会員や自社のクレジットカード「JALカード」会員に、飛行機に乗らない時でも利用してもらえるサービスをまず強化すべき領域としていた。

25年3月期通期決算会見で質疑に応じるJALの斎藤祐二副社長=25年5月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALが5月2日に発表した2025年3月期通期連結決算(IFRS)は、純利益が前期(24年3月期)比12.0%増の1070億3800万円となり、売上収益は再上場後最高の1兆8440億9500万円(11.6%増)、事業活動による利益を示すEBIT(財務・法人所得税前利益)は18.7%増の1724億5200万円と増収増益だった。進行中の2026年3月期の通期業績予想では、純利益は2025年3月期比7.4%増の1150億円を見込む。

 こうした中、事業セグメント別の売上収益を見ると、JALを中核とするFSC(フルサービス航空会社)事業に対し、ZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)をはじめとするLCC(低コスト航空会社)事業や、「マイル/金融・コマース事業」と「その他(旅行・受託等)」で構成する非航空系事業が育ってきている。グループCFO(最高財務責任者)を務める斎藤祐二副社長に、LCCや非航空系事業をどのように成長させていく考えかを聞いた。

—記事の概要—
国内旅客収入に迫る非航空系事業
LCCでインバウンド獲得強化
「FSCも伸ばしていく」

国内旅客収入に迫る非航空系事業

 まず、2025年3月期の売上収益と2026年3月期の業績予想を見てみよう。2025年3月期は売上収益1兆8440億円のうち、FSC事業が1兆4518億円、LCC事業は1041億円、非航空系事業は4525億円で、連結調整後の構成比率を見るとFSCは売上収益の78.6%を占め、LCCは4.8%、非航空系は15.6%となった。FSCのうち、国際旅客収入は6965億円で、国内旅客が5716億円、貨物郵便が1630億円となり、非航空系は国内旅客の売上規模に迫りつつある。

JALの2026年3月期通期連結業績予想(同社資料から)

 日本の人口減少やコロナを契機としたオンライン会議の普及といった、国内線の大幅な伸びが今後期待できない中、いかにこれを補完できる事業構造を構築できるかが、旺盛なインバウンド需要で成長が続く国際線の収益だけに依存せずに、国内線のネットワークを維持できるかにかかっていると言っても過言ではない。

 そうした中、非航空系事業のうち、マイル/金融・コマース事業の売上収益は5.5%増の2003億円で、発行マイル数の増加や、2022年3月に子会社化した商社JALUXが増収となったことが奏功した。羽田・成田の国際線JALラウンジで提供する人気メニュー「JAL特製オリジナルビーフカレー」の通販は、2020年8月の販売開始以来、累計100万食を突破する人気商品に育っている。また、海外の航空会社による運航便のグランドハンドリング業務受託など「その他事業」は12.8%増の2522億円となった。

販売累計100万食を突破したJAL特製オリジナルビーフカレー=25年3月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2026年3月期の売上収益予想は1兆9770億円(25年3月期比7.2%増)を見込み、FSCは1兆5250億円(5.0%増)、LCCは1250億円(20.0%増)、非航空系は5160億円(14.0%増)。FSCの内訳は、国際旅客収入が7150億円(2.7%増)、国内旅客は5830億円(2.0%増)、貨物郵便は1890億円(15.9%増)を想定しており、非航空系収入は国内線と遜色のない水準まで成長が期待される。

 斎藤副社長は「LCCもマイル・コマースも両方伸ばす」として、「大事なことは事業構造改革。ボラティリティーの問題だったり、航空事業以外の成長をいかに得ていくかが最重要の戦略だ」と強調する。

LCCでインバウンド獲得強化

 では、売上規模は現時点で非航空系事業を下回るLCCは、どのような位置づけになるのだろうか。「航空事業も成長事業と捉えている」(斎藤副社長)としつつ、JALが出資するジェットスター・ジャパン(JJP/GK)が就航した2012年前後、100%子会社であるZIPAIRの構想を打ち出した2018年当時を振り返る。

JALのLCC事業の中核を担うZIPAIR=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「日本発需要を中心にFSC事業をやっていた時代なので、LCCはコロナ前の当初、日本発需要で我々が取れていない比較的低価格の需要を新たに作ることもイメージしながらスタートしたが、今はインバウンドが非常に強い」と述べ、「インバウンド需要を取っていくためにLCCが大きく寄与している」と説明する。

 ZIPAIRは2025年3月期にEBITが前期比4倍以上の115億円となり、中国路線に特化したスプリング・ジャパン(旧春秋航空日本、SJO/IJ)は黒字転換した。「ZIPAIRは100億円以上というLCC事業の非常に大きな利益の大半を上げている」として、「こういう事業をしっかりやっていくことで、インバウンド需要をさらに取っていくことは十分可能だと思う」と語った。

 「特に距離が短い路線は、LCCのニーズが非常にあるだろうと思っている」と、ZIPAIRとスプリング・ジャパン、ジェットスター・ジャパンのグループLCC 3社を活用して、アジアからの訪日需要を確実に取り込む。

「FSCも伸ばしていく」

 一方で「もちろんFSCも伸ばしていくことに変わりはない」と、売上収益のおよそ8割を占めるFSC事業も強化していく。

今年度は11機体制を目指す国際線の新フラッグシップA350-1000=25年5月1日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 発注済み13機中9機がそろった新たな国際線フラッグシップであるエアバスA350-1000型機は、今年度内に11機体制を目指す。新機材の導入も、2026年度からはボーイング737 MAXを国内線、追加発注したA350-900と787-9を2027年度から今後成長が見込まれる北米・アジア・インドを中心とした国際線に投入し、JAL初導入のA321neoは2028年度から導入を始める。

 国際線ネットワークでは、インド最大の航空会社インディゴ(IGO/6E)とのコードシェア(共同運航)を2024年12月からスタート。今年4月からはガルーダ・インドネシア航空(GIA/GA)との共同事業(JV)が始まった。

 また、鳥取三津子社長は「若い人に海外へ出て行って欲しい」と、海外で夢を実現したり、旅行に出掛ける若者を応援する取り組みを重視しており、需要の世代的な偏りが生じないようにする取り組みも続けていく。

 航空業界は、2001年の米同時多発テロ以降、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、おおよそ8年から10年程度の周期で深刻なイベントリスクに見舞われてきた。2020年以降、コロナの影響で成長したアジアと北米を結ぶ3国間流動の取り込みを強化する一方、今後大きな成長が見込めない国内線を維持するには、LCCや非航空系事業の売上を着実に積み増すことが、JALの事業継続性を高める上で不可欠と言えるだろう。

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