JAL、大気観測機「CONTRAIL」787に交代 年度内に5機

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 日本航空(JAL/JL、9201)など5者は12月3日、大気中のCO2(二酸化炭素)濃度などを航空機で測定する「CONTRAIL(コントレイル)」プロジェクトの観測体制を、ボーイング787-9型機に4日から移行すると発表した。インドや赤道域での観測再開や、中東での初観測の成果も期待されている。

CONTRAILロゴが描かれたJALの787-9大気観測機器設置初号機JA868J=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 1993年から30年以上続くプロジェクトで、これまでに約2万2000便で3万件以上のデータを取得してきたが、観測装置を搭載した777の退役が進んだことから、国際線機材でも就航都市が多岐にわたる787-9を観測の後継機とした。観測機器を搭載した初号機(登録記号JA868J)は、新しくなった「CONTRAIL」が描かれた特別塗装機となり、あす4日の成田発フランクフルト行きJL407便から観測運航を始める。同機には、今年1月からサメ肌の構造を模して燃費を改善する「リブレット」塗装を施しており、燃費改善効果の検証も続けている。

—記事の概要—
777から787へ
日豪間で南北分布観測「一番大事」
「最低10年続けなければ意味がない」

777から787へ

 コントレイルは、JALが国際線に投入している旅客機に観測装置を搭載し、成層圏に近い高度で飛行中の機体から、温室効果ガスのデータを収集するプロジェクト。1993年にJALと公益財団法人JAL財団(当時日航財団)、気象庁気象研究所が共同で開始し、2005年からは国立環境研究所(NIES)と航空機内装品メーカーのジャムコ(7408)も参画した。現在のプロジェクト名「コントレイル」は2005年の現体制になってから名づけられ、当時の機材は747-400だった。

CONTRAILロゴが描かれたJALの787-9大気観測機器設置初号機JA868J=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

777-200ERの前方貨物室に搭載された「CME」と後方に搭載した「ASE」=12年7月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2005年から使用していた747-400の退役に伴い、2006年からは8機の777-200ERと2機の777-300ERの計10機に順次引き継がれたが、2020年度から777の退役が進んだことで、現在稼働している観測機は777-300ERの3号機(JA733J)のみ。国立環境研究所 地球システム領域 地球環境研究センターの町田敏暢・特命研究員によると「本当にギリギリだった」と、787-9へのバトンタッチが間に合ったことを喜んだ。4日から787-9による観測が始まることで、観測データの連続性は保たれるという。

CONTRAILプロジェクトに投入するJALの787-9の機体改修概要=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

CONTRAILプロジェクトに投入する787-9について説明するJALエンジニアリングの前田素規氏=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JAL機の整備を担うJALエンジニアリング(JALEC)技術部システム技術室の前田素規氏によると、747や777はエンジンの圧縮空気を取り込んで観測装置へ供給していたが、787は外気を直接取り込んでエアコンシステムへ導く「ノーブルード構造」であることから流路を変更。コックピットへ向かう空気のダクトを途中で分岐し、観測装置へ外気を供給するように変更し、貨物室に設置された2種類の観測装置へ供給できるようにした。

 機体の改修期間は約2カ月で、今年度内に4機改修。お披露目された改修初号機のJA868Jと合わせ、5機体制で観測できるようになる。

CONTRAILプロジェクトに投入するJALの787-9の初号機改修=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 観測装置は、CO2を連続測定する「CME(CO2濃度連続測定装)」と、大気を採取して成分分析する「ASE(自動大気サンプリング装置)」で構成され、いずれもジャムコが開発・製造。CMEはラーメンの出前に使う「岡持ち」ほどのサイズで、最大2カ月間にわたりCO2の連続測定を行い、地上でデータを回収する。ASEは1往復あたり12本の試料を採取し、メタンや亜酸化窒素などCO2以外の温室効果ガスも観測できる。

 機材改修ではボーイングとジャムコ・アメリカも協力し、電気配線や配管設計などを担当した。777では、CMEは全10機に搭載できたが、ASEを搭載できるのは5機だった。787-9は全5機がCMEとASEを搭載できる。

CONTRAILプロジェクトに投入されたJALの777-200ERと-300ER=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

CONTRAILプロジェクトに投入されるJALの787-9=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

日豪間で南北分布観測「一番大事」

 町田氏によると、航空機による観測は「連続測定・高頻度観測・広範囲観測・鉛直分布の取得」が大きな特徴だという。「地球の空気は東西方向には結構混ざっている。地球の姿を知るには、南北分布を知ることが大事で、僕らの観測の中ではシドニー線が一番大事」と、日豪間路線の重要性に言及。787-9では、シドニーよりも南に位置するメルボルンとの往復を観測できるようになる。

777によるCONTRAILプロジェクトの成果を説明する国立環境研究所の町田敏暢特命研究員=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 CMEは離陸から着陸まで観測を続けるため、上昇・降下時のCO2濃度を記録することで高度別の分布(鉛直分布)を把握できる。これは地上や衛星観測では得られない貴重なデータだという。

 成田で1万件、バンコクで1700件、シドニーで1500件を超える観測実績があり、日本はCO2の上空観測で世界最大のデータ保有国とされる。取得データはNIESのサーバーを通じて無償公開されている。

787-9の飛行ルート=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 787-9による観測開始で、観測空域も拡大する。特に南半球のメルボルンは、従来観測を行っていたシドニーよりも南緯に位置し、地球規模のCO2南北分布の解析に貢献する。また、フランクフルト線は、従来のシカゴ線よりも北極に近いルートを通るため、極域のデータ取得が可能になる。中東では初の観測となるドーハや、インドのデリーなども注目されている。

 デリーでは、小麦の二毛作が行われていることから、農作物の収穫といった農業が及ぼすCO2排出量の変動が観測された。また、2015年にインドネシアで起きた森林火災では、シンガポールでCO2排出量の変動が観測され、日本の年間排出量に匹敵する量が観測されたという。

デリー上空のCO2観測結果を説明する国立環境研究所の町田敏暢特命研究員=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

「最低10年続けなければ意味がない」

 CONTRAIL創設時に当時の日航財団(現JAL財団)でプロジェクトを立ち上げた、JAL広報部アーカイブズグループの伊藤勝久氏(77)によると、当時協力を仰いだ気象研究所からは約20件の提案を受けたが、民間機で協力することが難しいものが多く、最終的に実現可能性が高い大気観測に絞られたという。

13年前に777-200ERの前方貨物室でCMEを説明する国立環境研究所の町田氏=12年7月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

CONTRAILプロジェクトの歴史を語るJALの伊藤勝久氏=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 当時の観測機器は大きく、民間機へそのまま搭載することは困難だったが、半民半官だったJALが民営化後に設立された技術研究所で大幅な小型化と、タイマーによる自動制御を実現。747-200による国際線の飛行ルートが変わり、北極圏を飛ばなくなったことから「ポーラーキット」と呼ばれる緊急対応用の装備品の搭載が不要になり、その収納スペースに観測装置を搭載することから始まった。

 当時気象研究所の松枝秀和氏から「こういう観測は最低でも10年は続けないと意味がないですよ、と言われた。たまたまやったものでは意味がなく、長い期間コツコツ続けて初めて意味がある」と、30年以上続き、新たな機材の就航を喜んでいた。

 787による大気観測初日の4日は、JA868Jは成田へのフェリーフライト(回航便)として羽田を午前6時30分に出発。フランクフルト行きJL407便として成田を午前10時45分に出発する見通し。

CONTRAILロゴが描かれたJALの787-9大気観測機器設置初号機JA868J=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

CONTRAILロゴが描かれたJALの787-9大気観測機器設置初号機JA868J=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

CONTRAILロゴが描かれたJALの787-9大気観測機器設置初号機JA868J=25年12月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
日本航空
JAL財団
気象庁気象研究所
国立環境研究所
ジャムコ

JAL、リブレット塗装の787-9公開 サメ肌で国際線の燃費改善検証(25年1月10日)
日航、大気観測プロジェクトの特別塗装機を公開(12年7月24日)

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