エアライン, 解説・コラム — 2024年1月10日 23:44 JST

ペット同伴フライト、国際線は苦情で消滅 ビジネスジェットが解決策か

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 海上保安庁の職員5人が亡くなった羽田空港C滑走路の衝突事故。1月2日夜の事故発生から6日後の8日午前0時にC滑走路の運用が再開され、事故後の大規模な遅延対応や事故処理が収束した日本航空(JAL/JL、9201)は、10日から全便を運航している。

国内で唯一定期便のペット同伴サービスを提供するスターフライヤー=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2日の事故では、海保機MA722(ボンバルディアDHC-8-Q300、登録記号JA722A)とJALのA350-900(札幌発羽田行きJL516便、JA13XJ)がC滑走路で衝突し炎上。JL516便は乗客367人(幼児8人含む)と乗員12人(パイロット3人、客室乗務員9人)の計379人が搭乗していたが、3カ所の出口から全員が緊急脱出し、乗客のうち2人が打撲などのけが、13人が体調不良により病院で診察を受けたが、乗客乗員が全員生還した。

 貨物と郵便は積んでいなかったものの、乗客の手荷物が約200個あり、ペットの預かりが2件あった。乗客乗員の人命が最優先であるため、ペットの救出には至らなかったが、このことから海保側に5人もの死者が出ているにもかかわらず、ペットの扱いがSNSを中心に議論となった。

 論点は大きく分けると2点で、1)貨物室に預けることの是非、2)客室にいるペットも緊急脱出時には一緒に脱出できないこと、だ。ペットと一緒に過ごせるフライトの要望は以前からあり、8年前からはチャーターフライトが実施されてきた。

 今回はこの10年ほどの国内での航空会社によるペットに対する取り組み、公共交通機関の特性などをまとめた。

—記事の概要—
国際線は苦情でサービス中止
スターフライヤーはペット同伴可だが
「90秒ルール」はFAA
公共交通機関とビジネスジェット

国際線は苦情でサービス中止

 日本の航空会社では、原則として飼い主とペットは一緒に客室で過ごすことはできず、温度管理された客室下の貨物室に搭載される。ペット同伴のチャーターフライトは、全日本空輸(ANA/NH)が2016年5月に国内で初めて実施し、JALは2017年1月、2018年3月、2019年4月に行ったが、両社とも定期便で同伴するサービスは現在提供していない。

ANAが2016年に実施した国内線初のペット同伴チャーター。乗客全員がペットと乗るため準備や運航後の清掃などハードルが高い=16年5月 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

 ANAが2016年5月に実施したペット同伴ツアーは、成田-釧路間を獣医が同行するチャーター便で往復移動し、釧路到着後は犬も一緒に乗れるレンタカーで宿泊先までツアー参加者が各自で移動。宿泊するホテルは全館貸し切りで、阿寒湖に面した部屋や庭のドッグラン、愛犬用の足湯などを用意した。旅行代金は1組22万2000円だったが、発売から2日間で完売した。

 JALは2017年1月から2019年まで毎年実施し、2020年も企画していたがコロナで中止。ANAは2016年のみの実施であることから、運航後の清掃など、航空会社にも相応の負担がかかる企画のようだ。ANAによると、国内各社の国際線定期便では、2000年代中ごろまでペットを客室に入れるサービスを実施していたが、においや泣き声に対する苦情が増えてサービス中止になった。一方、国内線は客室にペットを入れるサービスそのものが、2016年のチャーターまではなかったという。

 米国のように国土が広く移動が長距離となる国や、欧州のように国境を越えた移動が多いところでは、ペットと飼い主が客室で過ごすことが可能な航空会社もある。一方で、動物に対するアレルギーがある人、アレルギーはなくてもにおいが苦手な人など、公共交通機関である以上、航空会社の定期便はさまざまな人が利用する。

 日本では、過去に国際線でペットを客室に入れるサービスが中止に追い込まれた“歴史的経緯”を踏まえると、海外で事例があるとはいえ、現時点で広く一般的なサービスとして定着するのはハードルが高そうだ。

スターフライヤーはペット同伴可だが

 北九州空港に拠点を置くスターフライヤー(SFJ/7G、9206)は、日本初となるペットと飼い主が定期便の客室で一緒に過ごせるサービス「FLY WITH PET!」を2022年3月にスタート。実証フライトを2021年10月から始め、獣医やモニター参加した社員などからの意見を反映し、段階的に対象路線や便を増やしてきた。今月15日からは、同社が運航する国内線全路線全便に拡大し、サービスが本格化する。

北九州空港でペット同伴検証フライトの搭乗手続きをするスターフライヤーの社員=21年10月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ペット同伴サービスは、白水政治(しろうず・まさはる)前社長や社員たちが「コロナ後を見据えて何か新しい客層をとかではなく、純粋にペットと一緒に旅行できないか」(白水氏)と始めた。

 客室に持ち込めるペットは、指定サイズに収まる小型のイヌとネコで、ケージの大きさは50センチ×40センチ×40センチ。スターフライヤーが用意するほか、規定サイズ内であれば飼い主のものを持ち込める。

 座席は指定されており、ペットは最後尾となる27列目の窓側(A席かF席)を利用し、ケージをシートベルトで座席に固定する。飼い主は隣のB席かE席に座り、飛行中はケージからペットを出すことはできない。

「90秒ルール」はFAA

 スターフライヤーのサービスは、確かに客室で飼い主とペットが一緒に過ごせる。しかし、今回の事故後に議論となった緊急脱出時には、ケージごと置いていく必要がある。ケージはほかの手荷物と同じ扱いであり、ほかの乗客の安全を妨げてはならないからだ。

777のモックアップからシューターで脱出するJALの教官ら=14年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

737モックアップの翼上から脱出する教官=14年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 緊急脱出の手順は、国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)、機体製造国の航空当局であるFAA(米国連邦航空局)、EASA(欧州航空安全庁)、運航する航空会社などの規程で定められている。スターフライヤーのペット同伴サービスも、利用時には同意書へのサインが求められる。

 今回の事故で注目された「90秒ルール」は、FAAが定めているものだ。機体の安全性をFAAが認める「型式証明(TC)」の取得要件で、緊急脱出時は90秒以内に脱出できることを機体メーカーは証明しなければならない。90秒ルールをクリアし、機体の安全性が証明されていても、緊急時に乗客が客室乗務員やパイロットの指示に従わず、同意書も無視した行動に出れば、助かる人も助からなくなる。

 緊急脱出時の姿勢を見れば、ケージを持って脱出することは極めて困難だとわかるだろう。仮にケージを持って飼い主が緊急脱出ができたとしても、機外に脱出するシューターが破損して後続の乗客や乗員が逃げられなくなる可能性がある。ほかの出口のシューターを使うのは、緊急時には現実的ではない。

 今回の事故でも、JALのA350-900には左右4カ所、計8カ所の非常口があったが、炎が見えたことなどで脱出には適さないとして、結果的に3カ所を使用した。乗客の身勝手で1カ所が使えなくなることは、致命傷になりかねない。

JALのA350-900。左右4カ所ずつ非常口があるが事故で使えたのは3カ所だった=24年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

公共交通機関とビジネスジェット

 こうした中、お金で解決できそうなのが、ビジネスジェットやプライベートジェットと呼ばれる小型機のチャーターだ。航空会社の定期便のように不特定多数の乗客が乗り合わせるわけではなく、多くても4人程度で自分たちだけ。緊急時も手際よく脱出すれば、ペットも助かるだろう。緊急脱出まで考えると、金額はさておき現実的な解決策と言えるが、飼い主の中には自動車やフェリーによる旅を勧める人や、ペットにストレスがかかる長距離移動そのものを避けるべきという人もおり、考え方は人それぞれだ。

ペット同伴のモニターフライトを実施するマイクロジェット。不特定多数の乗客が乗る定期便では難しいフライトもビジネスジェットは実現できる(同社提供)

 航空会社のフライトは、不特定多数の乗客が乗り合わせるもの。今回の事故でも、JALの客室乗務員の避難誘導が適切だったことに加え、乗客が勝手な行動をとらず、協力的な人が多かったことが400人近い乗客乗員の命を守ることにつながった。

 家族であるペットのことになると、感情的な議論になりがちな人もいるが、公共交通機関でできること、できないことを、改めて考えることも必要ではないだろうか。

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