残りの737はA320neo?特集・JALが考える中小型機の更新計画

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 日本航空(JAL/JL、9201)がボーイング737 MAXを2026年から導入する。現行機737-800(2クラス165席)の後継機で、標準型の737-8(737 MAX 8)を21機確定発注した。国内の航空会社で737 MAXを導入するのはANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下の全日本空輸(ANA/NH)、スカイマーク(SKY/BC、9204)に続き3社目となり、JALがボーイングの新機材を発注するのは18年ぶりだ。

737 MAX導入を発表するJALの赤坂社長と737-8の模型=23年3月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方で、JALの737-800は43機あり、グループ会社も含めると62機にのぼる。那覇空港を拠点とする日本トランスオーシャン航空(JTA/NU)が13機、成田拠点のLCC(低コスト航空会社)であるスプリング・ジャパン(旧春秋航空日本、SJO/IJ)は6機を運航しており、一大勢力を誇る。

 今回JALが確定発注した21機の737-8が、737-800の運航機数に占める割合は、JAL本体としては48.8%、グループ全体では33.9%と、客室の通路が1本の単通路機(シングルアイル、ナローボディ)をすべて737 MAXに置き換える、というものではない。

 では、残りの737-800はリスクヘッジで別機種となるエアバスA320neoに決まるのかというと、そう単純な話ではない。JALは残りの737-800をどのように更新していくのだろうか。

—記事の概要—
“ほかの機材”は767
現有機数=更新機数ではない
売れる”大きな小型機”
「20機単位が目安」

“ほかの機材”は767

 「小型機なので、A320neoも候補だった。いま737-800を使っているので、737 MAXは私どもとしてはファミリアな機種だ。これまでの実績など総合的に勘案して737-8を選定した」。JALの赤坂祐二社長は、都内の本社で3月23日に開いた会見で、737-8を選定した理由をこう説明した。

JALの737 MAX 8(イメージ、同社Facebookから)

シアトルのレントン空港を離陸する737 MAX 8初号機=16年1月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALの737-800が就航したのは2007年3月で、すでに16年が過ぎた。その2年前の2005年2月4日に、JALは737-800を含む737NG(Next-Generation、次世代737)の導入を発表。2006年11月14日に初号機(登録記号JA301J)を受領し、2007年3月1日に羽田-山口宇部、宮崎の2路線に就航させた。現在の座席数は国内線機材が2クラス165席(クラスJ 20席、普通席145席)、国際線は2クラス144席(ビジネス12席、エコノミー132席)だ。

 737-800発注当時の内訳は確定が30機、オプションが10機。ボーイングの受注履歴によると、JALへ引き渡されたのは46機で、リース機も含めると50機を超える機数を運航してきた。JALが2005年に737NGの導入を表明した際、運航中の小型機は65機で、内訳は737-400が23機、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)MD-81型機が18機、MD-87が8機、MD-90が16機だった。このうち、マクドネル・ダグラスの機体は2004年に統合した旧日本エアシステム(JAS)が導入し、JALが引き継いだものだ。

省燃費・低騒音機材のA350と787の導入が進むJAL=22年2月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 現在JALは省燃費・低騒音機材への更新を進めており、大型機は777からA350への更新を進め、国内線は標準型のA350-900へほぼ置き換えを終えた。冬ダイヤ以降は、フラッグシップとなる長距離国際線機材777-300ERを長胴型のA350-1000への更新が始まる。737 MAXもこのテーマで選定されたものだ。737 MAXは燃費とCO2(二酸化炭素)排出量をCFMインターナショナルの新型エンジン「LEAP-1B」で12%、翼端のウイングレットで2%、胴体後部の形状見直しで1%改善し、合計約15%削減する。

 残りの737-800の更新について、赤坂社長は「ほかの機材も残っているので、こういったものを今後リプレースしていくことも検討している。進捗という点ではこれからだ」と述べるにとどめたが、この「ほかの機材」とは中型機の767-300ERを指す。JALが2021年8月に発表したパイロットの採用計画によると、767の後継機は2030年までに導入が始まる見通しだ。

現有機数=更新機数ではない

 JALは3月27日時点で767-300ERを27機保有。このため、737と767を合わせた省燃費・低騒音機材への置き換え対象は、JALグループ全体で89機となる。この89機のうち、737-8への置き換えが決まったのが21機で、残り68機が今後の機材選定の対象になっていく。

767-300ERも更新が迫っている=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 このうちJAL本体の機体は小型機の737-800が43機、中型機の767-300ERが27機の計70機。737-8の導入が始まる2026年までには、さらに退役が進む見込みだが、おおむねJAL本体で70機規模、グループとしては90機規模の更新があると考えられる。

 ポイントは、現有の機材数が、そのまま更新対象の機数になるとは限らないことだ。つまり、JAL本体の機材更新は、737クラスが43機になると決まったわけではなく、あくまでも70機規模で更新対象の機材がある、というだけなのだ。

 JALの737は座席数が前述の通り国内線機材が2クラス165席、国際線が2クラス144席と、150席前後。767は国内線が3クラス252席(ファースト5席、クラスJ 42席、普通席205席)と2クラス261席(クラスJ 42席、普通席219席)の2種類、国際線が2クラス199席(ビジネス24席、エコノミー175席)と2クラス227席(ビジネス30席エコノミー197線)の2種類で計4種類となり、200-250席程度となる。

 767は通路が2本あり、後継機となると、ボーイングなら787の標準型787-8(標準座席数2クラス248席)、エアバスA330neoの短胴型A330-800(同3クラス220-260席、最大406席)や標準型A330-900(同3クラス260-300席、最大460席)などが考えられる。

 JALが小型機の後継機を選ぶのであれば、737 MAXかA320neo、中型機ならば787やA330neoが有力な選択肢といえる。しかし、最近は両者の間に位置する機体サイズも注目を集めており、ボーイングとエアバスともに200席を超える737 MAXとA320neoの派生型を売り込んでいる。

売れる”大きな小型機”

 ボーイングは、737 MAXのラインナップに737-900/-900ERの後継となる737-9(737 MAX 9、標準座席数220席)と、胴体長がもっとも長い「最大の737 MAX」となる737-10(737 MAX 10、同1クラス230席)をそろえる。

ファンボロー航空ショーで飛行展示を披露する737-10=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 対するエアバスは、A320neoの長胴型A321neo(同2クラス180-220席)や、その長距離型A321LR、超長距離型のA321XLRを用意しており、単通路機ながらA321XLRは最長11時間の路線にも投入できる。

 中長距離路線に特化したA321LRやA321XLRは少し毛色が違うが、737-10やA321neoは販売機数を増やしており、JALにとっても検討に値する機種と言えそうだ。

エアバスの売れ筋となったA321neo=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 エアバスの2月の受注実績を見ると、A320neoのこれまでの受注3991機に対し、A321neoは4672機と681機多い。1世代前のA320ceo(従来型A320)ファミリーの場合、A320の受注が4763機に対してA321は1791機と、A320のほうが2972機も多く、3000機近い差があった。

 737 MAXファミリーで最大の機体となる737-10はまだ開発中だが、737-8と比べて1便あたりの乗客数を2割から3割程度増やせる。737-10について、赤坂社長は「まだ型式証明を取得していないので、今どうこう言える時期ではないが、非常にポテンシャルの高い機体なので、検討を進めたい」と述べるに留めた。

「20機単位が目安」

 かつてJALの社長、会長を歴任した大西賢氏は、2018年の本紙インタビューで「基本的に機材計画は20機単位が目安になる。20機になるとフルフライトシミュレーターや格納庫があったほうが効率良く運航できる」(関連記事)と述べ、1機種あたり20-30機の規模になれば、別の機種を選定しても投資が無駄にならないという。

21機が737-8に置き換えられる737-800と、A350-900に更新される777-200ER=22年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 奇しくも、今回JALが選定した737-8は21機と、この法則に当てはまる。2026年から導入予定の今回の発注分は、737-800の初期導入機が置き換え対象になる。残りの737-800が、737-8の追加発注になるのか、はたまた737-10も組み込まれるのかは、737-10が型式証明を取得し、一定の運航実績を示さないとJALも本格的な検討には入らないだろう。

 ボーイングはコロナ前に、737 MAXと787の間に位置する中型機「NMA(New Middlesize Airplane)」の計画を示唆していた。2019年の時点では、座席数は220-270席クラスでローンチ(開発着手)が2020年内、就航は2025年前後になる見通しだったが、737 MAXと787がともにトラブルに見舞われたことに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による航空需要の減退や、737 MAXと787の製造工程の問題発生などで、事実上凍結している。

 今後NMAが再スタートすると、JALの機材選定で議論の俎上(そじょう)に載る可能性はあるものの、737-10と同じく運航実績を検証できる段階に入らないと、JALが検討を本格化する可能性は低そうだ。

  ◆ ◆ ◆

 後継機選定というと、どうしても現有の機材数を基に、当紙を含む外野は話題にしがちだ。しかし、JALの場合は省燃費・低騒音機材へ移行するタイミングで、現有機の座席数や航続距離を見直し、より最適な機材を選定しつつ、極度に特定機種に偏ることを避ける判断を下しそうだ。

JALの737-8の模型=23年3月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALの737-800は、最後に受領した機体が2013年で、今回置き換え対象にならなかった機体の多くが退役するのは2030年代に入ってからとなる可能性が高い。特に737 MAXは2度の墜落事故が起きたこともあり、2026年の導入前から慎重に準備し、追加発注となれば相応の実績を見ての判断になるだろう。

 グループとして見れば、現在は6機の737-800を運航するスプリング・ジャパンが、JALとヤマトホールディングス(9064)による貨物プロジェクトで、A321ceo P2F型貨物機を2024年4月から運航することから、A320neoをJALグループが導入する可能性は残っていると言える。

 特に小型機と中型機をセットで発注すれば、1機種ごとの機数は20機程度でも、全体では40-50機の発注となり、機体メーカーとの取引をより有利に進められる可能性がある。

 このように767-300ERと737-800の後継機選びは不確定な要素がまだ多く、さまざまな結末が考えられると言えるだろう。

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