MRJ, 機体, 解説・コラム — 2023年2月7日 13:41 JST

三菱重工、スペースジェット開発中止を正式発表 泉澤社長「機体納入できず申し訳ない」

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 三菱重工業(7011)は2月7日、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発中止を正式発表した。本紙既報のとおり、事業の採算性が見込めないことから開発を断念した。

スペースジェットの開発中止を発表する三菱重工の泉澤清次社長(右)=23年2月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 反省点として、高度化した民間航空機の型式認証プロセスへの理解不足、長期にわたる開発を継続して実施するリソースの不足を挙げた。

—記事の概要—
「特定の何かに起因するものではない」
「当たり前のことが欠けていた」

「特定の何かに起因するものではない」

 三菱重工は「一旦立ち止まる」との表現で、スペースジェットの開発を2020年10月30日に事実上凍結。7日に都内で会見した三菱重工の泉澤清次社長は「多くの皆様からご期待、ご支援をいただいたが、開発中止の判断に至ったことは大変残念。開発を再開するに至る事業性を見いだせなかった」と開発中止の判断を下した経緯を説明した。

三菱重工はスペースジェットの開発中止を正式発表。写真はモーゼスレイクで滑走試験を実施する三菱スペースジェットの飛行試験3号機で解体済み=19年12月10日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

スペースジェットの開発中止を発表する三菱重工の泉澤清次社長=23年2月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 泉澤社長は「機体としては一定水準のものを開発できたが時間が経過しており、最新技術と比べて競争力が低下している。数十年にわたる運航を考えると、これから投入する機体にはSAF(持続可能な航空燃料=代替航空燃料)への対応、電動化など脱炭素の選択肢を考慮する必要があるが、設計の見直しが必要」とした。

 また、主な市場となる米国ではリージョナル機に対する「スコープ・クローズ」と呼ばれる座席数や最大離陸重量を制限する労使協定の緩和が進まず、メーカー標準の座席数が88席の標準型「SpaceJet M90」(旧MRJ90)では市場投入が難しいことも影響した。

 2008年の事業化から15年が経過し、開発費は総額1兆円とも言われるが、泉澤社長は「この場では控える」と開発費の明言を避けた。また、補助金などの公的資金がこれまでに少なくとも約500億円投じられた。泉澤社長は「機体の事業化には至らなかったが、培った技術は生かしていきたい」と述べた。

 今後型式証明を取得する作業を続けた場合は「精査したわけではないが、年間1000億円で数年」(泉澤社長)かかるとし、数千億円規模の巨額負担の割に事業としての採算性は厳しいと判断した。スペースジェットの開発で得た知見は、日本と英国、イタリアの3カ国で共同開発する次期戦闘機などに生かす。

県営名古屋空港を離陸するMRJの飛行試験初号機=15年11月11日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 開発子会社の三菱航空機は、三菱重工に資産を移管するなどの準備を経て清算も視野に、ほかの株主とともに今後のあり方を検討する。かつては約1600人の従業員が働いていたが、三菱重工によると現在の人数は非公表なものの、次期戦闘機部門などへ再配置が可能なレベルの人数だという。

 一方で、歴代社長を含む経営陣の責任については、「誰か特定の個人、時期に問題があるのではなく、進捗に従って適正に判断しながらやってきた。特定の何かに起因するものではないと思う」と述べるに留めた。

「当たり前のことが欠けていた」

 泉澤社長の冒頭あいさつでは、航空会社などの顧客に対して、機体が完成せず、1機も納入できないことに対する謝罪の言葉はなかった。泉澤社長にその点を尋ねると、「スペースジェットに期待を持って購入の意思表示をいただき、ローンチカスタマーのANA様には大変ご協力いただいた。機体を納入できなかったことは大変申し訳なかった」と陳謝した。

パリ航空ショーの会場となるル・ブルジェ空港に初めて展示されたANA塗装が施されたMRJの飛行試験3号機=17年6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

MRJ導入に基本合意し握手を交わすJALの植木社長(中央左)と三菱航空機の江川会長(いずれも肩書きは当時)=14年8月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 スペースジェットは、2008年3月27日に持株会社化前の全日本空輸(ANA/NH)から確定15機とオプション(仮発注)10機の最大25機を受注して事業化。2014年8月28日には、日本航空(JAL/JL、9201)から32機すべてを確定で受注した。7日時点の総受注は267機で、このうち確定受注は153機、オプションと購入権は114機だった。

 当初の納期は2013年だったが、その後2014年4-6月期、2015年度の半ば以降、2017年4-6月期、2018年中ごろ、2020年半ばと延期を重ね、2020年2月6日には6度目の延期が発表されて2021年度以降としていたが、ついに未完の航空機となった。

 ANAホールディングス(ANAHD、9202)の芝田浩二社長は「残念だが、苦渋の判断をされたものであり、開発に携わってきた皆様に深く敬意を表する」とコメントした。

 JALは「国産初の先進的なジェット旅客機となるよう、当社も技術者、駐在員を派遣し、開発に協力してきたので、非常に残念に思っている。これまでの開発の中で得られた知見やノウハウが、我が国の航空機産業の発展に役立てられることを強く望んでいる」とコメントした。

県営名古屋空港を離陸し初飛行する三菱スペースジェットの飛行試験10号機JA26MJ=20年3月18日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

 泉澤社長は「一旦立ち止まる」から開発中止を決定するまでに約2年を要したことについて、「立ち止まって、はい、止めます、というプロジェクトではなかった。何か手はないか、どこかに突破口がないかを模索していた。それくらい三菱重工にとっても、みなさんの期待も含めて大きなプロジェクトで、簡単に結論を出せるものではなかった」と語った。

 「初期の段階で開発規模の見積が少し甘かったのではないか。入るべきマーケット、参入しようとしている事業をもっと勉強した上で入っていく、という当たり前のことが欠けていた」と総括した。

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