エアライン, 解説・コラム — 2022年5月2日 22:00 JST

JAL、自社農園のイチゴ狩り好評 芋焼酎は英国で評価、アグリポート新社長に聞くJALと農業

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 成田空港周辺で観光農園などを手掛ける日本航空(JAL/JL、9201)傘下のJAL Agriport(JALアグリポート、成田市)は、運営するイチゴ農園「STRAWBERRY PORT ICHIGONOMI(ストロベリーポート イチゴノミ)」で5月末までイチゴ狩りを開催している。

イチゴとカップを手にするJALアグリポートの花桝健一社長=22年4月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 同園は2020年2月29日にオープンしたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による行動制限で、これまで1年間フルに営業することができずにいた。今年は3年ぶりに制限のないゴールデンウイークとなり、各地ではコロナ前のにぎわいが戻りつつある。

 3月30日付で新社長に就任した花桝健一さんに、イチゴ農園の現状やJALが取り組む農業の今後を聞いた。

—記事の概要—
イチゴ狩りは1人2.5パック分
焼酎は英国で銀賞獲得

イチゴ狩りは1人2.5パック分

 JALアグリポートは、2018年にJALと和郷(千葉県香取市)の共同出資会社として設立。成田市内の休農地を活用した体験型農園施設を開園し、2020年3月6日には地元農家から借りた古民家をリノベーションし、成田市周辺9市町の農産品を使った料理を提供する地産地消のレストラン「御料鶴(ごりょうかく)」をオープンした。農園は当初訪日客の来園を念頭に置いていたが、コロナの影響で家族連れなどが主な客層となり、サツマイモ掘りやブドウ狩りなども開いている。

JALアグリポートのイチゴ農園「ストロベリーポート イチゴノミ」で栽培されているイチゴ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 初代社長は、成田空港に隣接する香取市出身のJALの鎌形晶夫氏が務めた。2代目となる花桝新社長は、農業は未経験。JALでは今年で就航10周年を迎えたボーイング787型機を導入する際、運航本部で訓練スケジュールの調整などに関わった後、羽田空港で「スマートエアポート」導入に携わり、成田空港での勤務を経て社長に就任した。

 花桝社長は昨年11月からアグリポートの業務に携わってきたものの、「順調に育っても、病気にかかる可能性もあります。生き物が相手なので大変です」と話す。イチゴ狩りも、一度にたくさんの人が来ると翌週以降に影響する場合もあるため、多くの人に楽しんでもらいたい反面、イチゴの生育状況とバランスを取る必要がある。

JALアグリポートのイチゴ農園「ストロベリーポート イチゴノミ」の通路は滑走路をイメージ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALアグリポートのイチゴ農園「ストロベリーポート イチゴノミ」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 約5000平方メートルあるビニールハウス内には滑走路を模した通路があり、両脇にとちおとめ、おいCベリー、やよいひめ、紅ほっぺ、かおり野の計5品種のイチゴ刈りが楽しめる。「コロナ対策のため、通路に置いたテーブルでイチゴを食べていただくのですが、30分1本勝負なので皆さん通路側のイチゴを摘んでいますね」(花桝社長)と、来場者は貴重な時間内にイチゴ狩りを楽しもうとしているといい、通路から離れた場所が穴場だという。

 「だいた2.5パック分ぐらいは食べられていますね。今は1パック250グラムくらいなので、700グラム前後くらいではないでしょうか」と、訪れた人は相応の量を食べているようだ。

JALアグリポートのイチゴ農園「ストロベリーポート イチゴノミ」で栽培されているイチゴ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

焼酎は英国で銀賞獲得

 イチゴ狩りに加え、JALアグリポートは隣接するレストランの御料鶴で「大きないちごのみパフェ」など収穫したイチゴを使ったスイーツを提供したり、冷凍イチゴなどの加工品も販売している。イチゴ狩りとは別に出荷用のビニールハウスで育てているが、将来的な販路拡大を考えると、千葉県内の農家との連携が不可欠だと花桝社長は話す。

JALアグリポートが出荷用のイチゴなどを栽培するビニールハウス=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALアグリポートが運営するレストラン御料鶴で提供している「大きないちごのみパフェ」は農園のイチゴを使用=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALは農業を通じた地域活性化を進めており、農産品の高付加価値化に力を入れている。JALアグリポートの取り組みも、自ら生産者となることで課題を洗い出したり、地域内での連携を深めていく狙いがある。「仮に輸出するとなると、かなりの量が必要です。千葉県内のイチゴ農家と連携するといった取り組みが不可欠になります」と、花桝社長は地元の農家と連携する仕組みを自治体などとともに探っている。

 イチゴを使った新商品として、「空飛ぶコンフィチュール(ストロベリー)」を国際線ファーストクラスの機内食用に提供。現在はイチゴ農園や御料鶴でも販売しており、3月には羽田空港でも販売した。花桝社長は「イチゴをパックで売る場合は、パック詰めする人も必要になります」と、イチゴをそのまま販売した方が良いか、加工品を増やした方が良いかは難しいところだという。

JALアグリポートが自社農園やレストランで直売しているイチゴ。加工せずに販売する場合はパック詰めのスタッフも必要になる=21年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

芋焼酎「鶴空」はトゥールーズで開かれたJALのA350納入式典でも振る舞われた=19年6月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALアグリポートの農園では、サツマイモなども栽培している。このサツマイモと千葉県産のものを使ったオリジナル商品として「いもちっぷ」、千葉県産の紅あずまを使った「いもけんぴ」を販売。また、2019年から販売しているオリジナル芋焼酎「鶴空」は、英国で開催される世界のワインやスピリッツ、ウイスキーなどの品評会「IWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション)」で、今年のシルバーメダルを獲得した。

 農業は生産設備などへの大型投資が不可欠なため、後継者不足に悩む農家が多い中で簡単には輸出に向けて投資するのは難しい。このため、地域で連携して生産体制を構築したり、ブランディングにより付加価値を高めるといった取り組みが重要になる。

 花桝社長を取材した日は、奇しくも導入に携わった787が就航10周年を迎えた日だった。「不思議な縁を感じますね。農業は毎日発見があり、日々勉強です。しっかり軌道に乗せたいです」と決意を新たにした。

セントレアに着陸するGEnxを搭載したボーイングの787飛行試験5号機。花桝さんは当時787の乗員訓練の調整に携わっていた=12年2月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
JAL Agriport
DINING PORT 御料鶴
日本航空

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