エアライン — 2020年9月28日 05:50 JST

海外のJAL整備士、iPhoneとPremiereで”動画de航空教室”制作 メルボルン空港・川井さんに聞く

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で外出が大幅に規制された今春、日本航空(JAL/JL、9201)ではさまざまな部署の社員たちが自ら動画を制作し、オンラインの航空教室などを4月から開いてきた。この中で、5月から配信が始まった「JAL 動画de航空教室」は、海外の空港で働く整備士が企画し、制作したものだ。

JAL動画de航空教室の第1弾に出演するメルボルン空港所整備副長の田原俊太郎さん。第1弾と第2弾の編集も担当した

 飛行機が飛ぶ仕組みなどを解説しているもので、休校中の子供たちを主なターゲットとしつつ、大人も一緒に楽しめるものを目指して10本構成で作られ、現在第9弾まで公開されている。飛行機のエアコンの仕組みを紹介する第8弾は、整備士出身の赤坂祐二社長も自ら出演。子供たちに機内の空気の流れを説明している。8月には、ホテル日航成田と共催で同ホテルの宿泊者を対象にした「オンラインde航空教室」も開いた。

 しかし、動画の撮影や編集となると、誰もが簡単にできるものではない。動画de航空教室を企画したメルボルン空港所の先任整備長、川井武志さんにZoomによるオンライン会議形式で話を聞いた。

—記事の概要—
撮影はiPhone、編集はPremiere
支店の特色と子供向けのバランス

撮影はiPhone、編集はPremiere

 海外の空港では羽田や成田と違い、ごく限られた自社の整備士を中心に、現地航空会社の整備士とともに到着した飛行機を整備するケースが多い。川井さんが3年前の路線開設時から赴任しているメルボルンの場合、JALの整備士は整備副長の田原俊太郎さんとの2人体制で、カンタス航空(QFA/QF)の整備士とともに作業している。暮しやすい街として評価の高いメルボルンは親切な人が多く、川井さんたちが困っていると、カンタスの整備士たちから声を掛けてくれるといい、彼らが1個しか手持ちがない部品でも貸してくれるという。

メルボルン空港を出発する成田行き初便JL774便。川井さんはメルボルン線就航時から赴任している=17年9月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

Zoomによる取材に応じるJAL動画de航空教室を企画したメルボルン空港所先任整備長の川井武志さん

 海外の委託先にJALの作業手順などを理解してもらう際、言葉による説明だけではなく、動画も活用した方が理解が深まるとして、川井さんたちは委託先向けの教育動画を現地で準備していた。

 各地の空港で整備士たちはiPhoneで動画を撮影。編集はプロ用定番編集ソフトである米Adobe(アドビ)の「Premiere(プレミア)」を使った。川井さんも過去に使用経験があるソフトで、今回は自らは制作の進行管理にまわり、1回目と2回目は田原さん、3回目以降は各地の整備士が編集していったという。また、整備士の家族に動画編集の知識がある人がいたことから、助言を得たそうだ。

 JALのメルボルン支店では、新型コロナの感染拡大前は日本人学校で航空教室を開いていた。整備士や地上係員が交代で受け持ち、川井さんは2年前に担当した。以前赴任していた韓国の釜山でも、息子さんが通う学校で開催したこともあったそうだ。今回の動画では、過去の航空教室で子供たちが疑問に感じたことや、プロジェクトメンバーの子供とプライベートで話をした時にぶつけられた疑問などを基に、取り上げるテーマを決めていった。

 「思い出に残っているのは、トイレの排泄物がエンジンで燃やされると思っている子供がいたことです。面白い発想だなと思いましたが、本当のシステムをわかりやすく知ってもらおうとしました」と、素朴な疑問に答えながら、飛行機を通じて夢を与えていけるものを目指した。

支店の特色と子供向けのバランス

 動画の内容について、川井さんは「基本的に統一性は持たせたくなく、支店の色を出すようにしました。1カ月で撮影、編集、確認というスケジュールを考えていたのですが、支店により状況が異なるため、1本に2カ月かかったこともありました」と話す。本業の合間に制作していくため、思うように進まない時期もあったようだ。旅客便は運休していても、旅客機に乗客を乗せない貨物専用便は飛んでいたりと、海外の空港も新型コロナの影響で状況が日々変わっていたことも影響している。

整備士出身の赤坂社長も登場するJAL 動画de航空教室第8弾「飛行機のエアコンのひみつ」。大人も楽しめる内容だが、あくまでも子供目線を大切にしたという

メルボルン空港で787を点検する川井さん(JAL提供)

 プロジェクトに参加する整備士たちの奮闘で、動画のクオリティは回を重ねるごとに向上していったと川井さんは喜ぶ。「自分が考えていた以上の仕上がりですね。正直ここまで反響が大きくなるとは思っていませんでした」と振り返る。

 しかし、各地の特色を打ち出しつつも、悩ましい問題があったそうだ。今回の動画はあくまでも航空教室なので、メインは子供たちに飛行機について知ってもらい、学校に行けない状況下で元気になってもらうことだ。

 ところが、撮影が終わった動画をチェックしてみると、「どうしても担当者の思いが強くなってしまい、できれば支店のメンバーを全員登場させたいといった流れになり、支店の紹介ビデオのようになってしまったこともありました」と振り返る。撮影が終わった動画は社内で共有し、川井さんは“最初の視聴者”としてレビューする。時に厳しい指摘をしたことで、「川井さんのチェックはあまりにも厳しい」と言われてしまったこともあったようだ。

 それでも川井さんは、「一番の目的は子供たちのためです。支店紹介だと大人目線になりがちなので、そこは貫いて欲しいと伝えました」と、各担当者の思いは尊重しつつも、シリーズものの企画としてテーマから外れないようにかじ取りをしていった。時には再編集や撮り直しも依頼したという。今回の動画では支店の現地スタッフも登場するが、あくまでも航空教室というテーマに沿った形で出演している。

ホテル日航成田で開かれたJALの「オンラインde航空教室」。この日はホーチミン空港とホテルを結んで開かれた=20年8月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メルボルン空港で787を整備する川井さん(JAL提供)

 各空港の特色を出しながらも、子供たちにわかりやすい構成にすることを重視した動画de航空教室。JALのSNSを運営する広報部Webコミュニケーショングループの波多野絵里さんは、「子供と一緒に見たという大人の方からコメントがありました」と、手応えを感じている。JALは他社とコラボして先端技術を使った動画配信なども行っているが、社員自ら制作した動画は「社員の思いや熱さを伝える手段として、良かったと思います」(波多野さん)と話す。

 新型コロナは子供たちだけでなく、就職活動中の学生たちにも影響が出た。JALを含め、航空会社では軒並み来年度入社の採用は見送っている。しかし、いずれ採用を再開しなければならないことも、また事実だ。小学生の時に家族旅行で初めて飛行機に乗り、浮き上がった時に感じた気持ちから整備士の道に進んだという川井さんは、「航空会社全員の力で1便を飛ばしています。飛んでいった時の達成感は何物にも代えがたいもので、運休になって初めてわかりました」と、乗客の命を預かる重責が仕事のやりがいにつながっているという。

 川井さんらJALの整備士たちは、新型コロナを機に地上係員が着用するフェイスガードや、空港のカウンターなどに設置する透明なパーティションなど、普段とは違った形で安全を守ってきた。今回の動画も、将来安全を担う子供たちに、何かをもたらしてくれるだろう。

JALの整備士による動画de航空教室(YouTube)
第9弾~ボーイング787の窓の秘密~
第8弾~飛行機のエアコンのひみつ どうして高い空の上でも飛行機の中にたくさんの空気があるの?~
第7弾~飛行機にとって大事な燃料を解説!~
第6弾~トイレでうんちをするとどこへ行くか?トイレの仕組みを解説!~
第5弾~B787でご紹介!飛行機のスピードはどのように測っている?~
第4弾~飛行機のタイヤを深堀り!~
第3弾~飛行機の材料は?~
第2弾~ジェットエンジンの秘密~
第1弾~飛行機はなぜ飛ぶことができるのか?~

関連リンク
日本航空

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