エアライン, 解説・コラム — 2019年9月25日 11:45 JST

地に足着いたベタなイノベーションを 特集・ JALさん、シリコンバレーで何やってるんですか?(後編)

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 前編からの続き。米国のシリコンバレーに拠点を置く日本航空(JAL/JL、9201)は、新サービスや業務改善につながるベンチャー企業との連携など、シリコンバレー駐在所所長の籔本祐介さんやマネジャーの加田雄大さんが中心となり、現地での活動を進めている。同所や本社のイノベーション推進本部事業創造戦略部が手掛ける取り組みの中で、すでに具体化しているものの一つが、超音速旅客機を開発中の米Boom Technology(ブーム・テクノロジー、本社デンバー)との協業だ。

 東京から米国西海岸のサンフランシスコまでは約11時間かかる。Boomの計画はこれを5時間半ほどにするもの。アマゾンやグルーポンで要職を務め、Boomを設立した創業者兼CEO(最高経営責任者)のブレイク・ショール氏は、「フライトは1950年代と同じくらいの時間がかかっている。2倍の速さで飛べるようになれば、遠く離れた地に住む人を身近な隣人に変える」と、プロジェクトの意義を語る。

 今年6月に開かれたパリ航空ショーには、Boomも出展していた。記者説明会には多くのメディアが詰めかけ、関心の高さがうかがい知れた。説明会では、JALでBoomを担当する事業創造戦略部の森田健士グループ長も登壇。2017年12月にBoomと提携して1000万ドルを出資したことや、将来の優先発注権を20機分持つことなどを説明した。JALは航空会社の視点で、客室をはじめとする仕様策定、安全性などのアドバイスやサポート、プロモーションに協力する。

 森田さんは「航空会社として、時間価値を提供することがBoomを支援する目的の一つです」と説明する。籔本さんと加田さんは、米国でのJAL側の窓口としてBoomとのやり取りも担当している。シリコンバレーとBoomの本社があるデンバーであれば、日本から会議に出向くよりは身軽にフェイス・トゥ・フェイスでプロジェクトを進められるメリットがあるからだ。

シリコンバレーで撮影に応じるJALの西畑常務(右)と事業創造戦略部の大森部長。地に足が着いたイノベーションを重視する=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 シリコンバレーに社員を常駐させる利点が出てくる中、イノベーション推進本部長を務める西畑智博常務と、事業創造戦略部の大森康史部長に、シリコンバレー駐在所を開設した経緯などを聞いた。

—記事の概要—
人を置くだけではダメ
3カ月を1年と考える

人を置くだけではダメ

 2015年6月にシリコンバレー駐在所を開設した当時は、所長ひとりのスモールスタートだった。そして2018年12月に現在の2人体制になる。西畑常務は「早く2人体制にしたかったんです。これまでは前任者がひとりでがんばってきたのですが、本格化させる環境が整いました。1カ所だけのイノベーションではなく、いろんな社員を巻き込んでいきたいですね」と語った。

サンフランシスコの街中にあるAmazon Go=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

スマートフォンで手配できるレンタル自転車サービス「JUMP」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 シリコンバレーから近いサンフランシスコの街中には、アマゾンが展開する無人コンビニ「Amazon Go」や、スマートフォンで手配できるレンタル自転車サービス「JUMP」など、ここ数年テック系企業を中心にスタートさせたサービスがあふれている。こうした現状をシリコンバレー駐在所の2人だけではなく、出張してくる社員に自分の目で実際に見てもらうことで、新しい視点で考えるきっかけにしていく狙いがある。

 大森部長は、「単に人を置いているだけではだめですね。シリコンバレーに駐在所を開いたころは一部の部署の話という状況でしたが、多くの社員を巻き込むことで空港のスマート化やドローンの活用など、いろんなアイデアが出るようになってきました」と、徐々に変化が現れてきたと話す。西畑常務は東京・天王洲にある本社近くに「JALイノベーションラボ(JAL Innovation Lab)」を2018年4月に開設したことも、社員の意識変革につながっているとみる。

 「われわれだけでは絶対に続きません。そしてラボができたことで、社外に発信する機会が増えてきました。社外の方と連携できるプラットフォームができたことで、ひとつ一つは失敗したとしても、知を蓄積していけます」(西畑常務)と語り、日本と米国それぞれの拠点で、社員が新しい発想でサービスを開発できる環境が整ったと言えるようだ。

3カ月を1年と考える

 前編で取り上げたように、シリコンバレーで扱う案件で現在もっとも多いのは空港関連だ。

シリコンバレーに拠点を置く意義を語るJALの西畑常務(右)と事業創造戦略部の大森部長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 その理由を西畑常務は「今のテクノロジーで変えられるところもあるし、空港業務は社員みんながイメージしやすいんですよ。今はスマート空港など、変わり目のタイミングでもあります」と説明する。大森部長も、「2020年の東京オリンピック・パラリンピックもありますし、一つのターゲットとしてもわかりやすいですね」と、オリパラ開催を目前に控え、空港全体にイノベーションが求められている点を挙げた。

 東京のラボでも、シリコンバレーのようなスピード感を重視している。「ラボのメンバーに言っているのは、3カ月を1年と思おう、ということです。3カ月で何かやろうと。4カ月、5カ月になってもいい。開設から1年でだいぶ早くなってきました」と、西畑常務は短期集中をメンバーに心掛けさせている。

 スピード感と同様に重視しているのが、さまざまな部署間の連携だ。「いろんな本部と関係を築くことが大事。将来につながると思ってやってもらっています。そして、自分から足を運ぶという、ベタなことが大切。地に足が着いたイノベーションです。現場だけではなく、最終的にはお客様に受け入れてもらえるものでなければなりません」(西畑常務)。

 シリコンバレーにただ人を送り込むだけではなく、いかに多くの社員を巻き込めるかを重視するJAL。現場の仕事をしながらでは難しい“地に足が着いたイノベーション”が、シリコンバレーとラボで生まれはじめている。

(おわり)

シリコンバレー駐在所で撮影に応じる(左列右から)JALの西畑常務と大森部長、森田グループ長、(右列左から)籔本所長と加田マネジャー=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
日本航空

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