エアライン, 機体 — 2019年5月11日 11:23 JST

IHIが再発防止策提出 航空機エンジン整備不正、納期優先や強い同調圧力

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 旅客機用エンジンの整備で検査方法などの不正が行われていたIHI(7013)は5月10日、監督する国土交通省に改善措置を提出した。不正が行われた背景として、事業が拡大する中で適切な検査員の育成や増員がなされないまま、納期が優先されたことなどを挙げ、再発防止策として安全管理体制の見直しなどを報告した。

 検査の不正が行われていたのは、IHIの瑞穂工場。同社によると、国内外の航空会社から2017年1月1日から今年1月31日までの2年間に整備した民間機用エンジン213基を調査したところ、全体の98.1%にあたる209基に対し、不正が行われていたことがわかった。経済産業省も3月29日に、航空機製造事業法に基づき、経産省の認可を受けた修理方法で修理するよう命令している。

 瑞穂工場は国交省の認定を受けた「認定事業場」で、「確認主任者」と呼ばれる有資格者が検査するなど、法律や国の通達に従って作業することにより、国の検査などを一部省略できる。そうした制度に基づく安全管理の根幹を揺るがす不正が行われていた。

—記事の概要—
納期優先で過去の勧告生かされず
第三者委「強い同調圧力」「押しつけられたルール」
該当エンジンや部品を自主回収

納期優先で過去の勧告生かされず

航空機エンジン整備で不正が発覚し再発防止策を国交省に提出したIHI(資料写真)=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 IHIは報告書で、不正が行われた背景に言及。事業規模が拡大する中、検査員の育成や増員が計画されないまま、納期が優先されたことや、現場で安全意識やコンプライアンス意識が働かなかったこと、検査スタンプの管理が不十分だったこと、検査記録の電算システムで記録の入力が煩雑だったこと、作業記録書の記述方法が不明確だったこと、検査する現場で実施されたOJT(実地訓練)による指導についてルールがわかりづらく、解釈に幅が生じていたこと、同じ職場内に検査員と作業員が所属しており、両者間の独立性が不十分だったことを挙げた。

 また、過去に改善する機会があったにもかかわらず、必要な措置が取られずに至った背景にもふれた。過去に受けた厳重注意や業務改善勧告が生かされず、経営層に情報が共有されていなかったほか、検査員と中間管理職のコミュニケーション不足、経営層や管理職が現状を直視せず、過度な期待を現場に求めていたことにあったと分析した。

 再発防止策としては、コンプライアンス教育の実施や、対話集会の定期開催など安全管理体制の見直し、最高責任者を広範囲な経営判断を下せる副事業領域長(民間航空機エンジン整備事業担当)に変更し、製造部門に属していた検査員を品質管理部門に集約して上司からの納期に対するプレッシャーをなくすなどの措置を報告した。

第三者委「強い同調圧力」「押しつけられたルール」

 また、外部の専門家による「第三者検証委員会」(委員長:梅津光弘慶応大学商学部准教授・日本経営倫理学会会長)の調査結果も公表。技術面や安全面で問題がないという正当化により、今回の問題の関与者が罪悪感を抱きにくい状況だったことや、瑞穂工場内で強い同調圧力があり「おかしなことをおかしいと指摘する」「できないことをできないと言う」のが困難だったこと、ルールを変える際に説明が不十分で「押しつけられたルール」の印象がまん延していたことを挙げた。

 中間管理職についても現場志向の欠如がみられ、管理部門のリスク感度の鈍さと事実の矮小化傾向にあり、トレーサビリティーの確保など、航空事業に従事する者が身につけるべき基本的な考え方が正しく理解されていなかったことなどを指摘した。

 第三者委員会の指摘事項に対する再発防止策としては、ルール新設や変更時に、周知にとどまらず意義や趣旨に立ち返った説明をすることや、検査部門の独立性担保、瑞穂工場内の職場風土改善、外部機関との折衝時に十分かつ健全なコミュニケーションを尽くす、IHIの技術者としての健全な責任感を定義し直すことを求めた。

該当エンジンや部品を自主回収

 IHIによると、不正検査が行われた航空機エンジンや部品を検証した結果、安全性に直ちに影響がないことが確認できたという。しかし、長期にわたり使用されることから、エンジン2基と部品58個を自主回収することを決定。部品56個は対応済みで、残り2個とエンジン2基も5月末までに対処する。

関連リンク
IHI
国土交通省

IHIに業務改善命令 国交省、航空機エンジン不正検査で(19年4月10日)
国土交通省

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