エアライン, 解説・コラム, 需要, 需要予測 — 2017年6月6日 06:12 JST

IATA、電子機器の持込規制に代替案 第73回年次総会が開幕

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 メキシコのリゾート地カンクンで現地時間6月5日、IATA(国際航空運送協会)の第73回AGM(年次総会)が開幕した。ロンドンで起きたテロや、地球温暖化対策のパリ協定からの米国の離脱、米国発着便での電子機器の機内持ち込みに対する規制強化といった動きがある中、航空会社の経営課題や安全性確保などについて、2日間にわたり議論が交わされる。

 今回のAGMは、アエロメヒコ航空(AMX/AM)がホストを務め、同社のアンドレス・コネサCEO(最高経営責任者)が議長として議事を進行する。AGMは1966年と1994年にメキシコシティで開かれており、3回目のメキシコ開催となった。IATAによると、航空会社などから約1000人が出席しているという。

カンクンで開幕した年次総会で講演するIATAのジュニアック事務総長=17年6月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
収益性の落ち込み懸念
電子機器の持込規制懸念
需要増に対応出来ない空港インフラ

収益性の落ち込み懸念

カンクンで開幕したIATAの第73回年次総会=17年6月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 IATAでは、世界各国の航空会社の売上高予想について、今年は7430億ドル(約81兆7300億円)と予測。前回2016年12月発表の7360億ドルから70億ドル上方修正した。利益も上振れし、314億ドル(前回予想は298億ドル)を見込む。

 また、乗客1人当たりの純利益は7.69ドルを見込んでおり、2015年の10.08ドル、2016年の9.13ドルから低下。平均純利益率は4.2%で、2016年の4.9%を下回る見通し。

 アレクサンドル・ド・ジュニアック事務総長兼CEOは、「収入は増加しているが、燃料費や人件費、整備費の増加により利益が圧迫されている。航空会社は依然として黒字だが、昨年と比較して、収益性に落ち込みがみられる」と述べた。

 「航空業界は3年連続で、コストを上回るリターンが期待されるが、乗客1人当たり7.69ドルの収入では、バッファーはあまりない。だからこそ、航空会社は税金や人件費、インフラコストなどの上昇に対し、警戒を強めなければならない」と語った。

 今年は上昇が予測される燃料費は、業界の総費用のうち、18.8%を占めるという。

 今年の旅客需要は、7.4%増加すると予想。2016年と同じ成長率で、今年1年間に飛行機を利用する人の総数は、過去最多となる41億人を見込んでいる。一方、貨物需要は7.5%増、総貨物量は5820万トンに達すると予測している。

 地域別で見ると、アジア太平洋地域の航空会社は、74億ドルの純利益を見込む。旅客需要は10.4%増となる見通しで、貨物については航空貨物の約40%をアジア太平洋地域が占めていることと、貨物収入が数年ぶりに伸びていることから、収益拡大に奏功すると見ている。中国については、輸出から国内需要にシフトしているとの見方を示した。

電子機器の持込規制懸念

米英乗り入れ便で機内持込の規制強化検討が進むノートパソコン=17年2月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 航空業界では、国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)の第39回総会で合意された温暖化防止スキーム「CORSIA」を推進しており、2020年以降のカーボンニュートラルな成長と、二酸化炭素(CO2)の総排出量を2050年までに2005年の半分に削減する計画だ。

 ジュニアック事務総長は、「パリ合意から脱退する米国の残念な決定は、CORSIAの後退ではない。CORSIAに代わるものは効果がなく、コストがかかり、管理が難しい対策のパッチワークだ」と述べ、IATAとして引き続きCO2削減に取り組んでいく姿勢を強調した。

 また、今年3月に米英両国の政府が、中東とアフリカからの乗り入れ便に対して、ノートパソコンなど携帯電話を超えるサイズの電子機器の持ち込みを禁止した。

 ジュニアック事務総長は、「航空会社はセキュリティーに関して、決して妥協しない」とした上で、「現在の禁止措置について、IATAでは1億8000万ドルの生産性損失を見込んでいる。EU諸国から米国へのフライトに拡大すると、12億ドルに急増する可能性がある」と懸念を表明した。

 現在、米英両国政府が電子機器の機内持ち込みについて、規制強化の検討を進めていることについて、ジュニアック事務総長は「代替案を示さなければならない。短期的には、ゲートでの検査強化や係員の検査スキル向上、中期的には、爆発物探知技術の進歩だ」と両国政府に対し、現在の禁止措置の代替案を採用するよう求めた。

需要増に対応出来ない空港インフラ

 ジュニアック事務総長は、空港などインフラについても、課題を指摘した。世界各国の空港整備計画について、「20年後に予想される72億人の乗客に対応するのに十分なものではない。欧州の場合、2035年に見込まれる需要の88%にしか対応できないと予測している」と述べた。

 「中国や中東、欧州、米国では、航空路混雑は耐え難いレベルにある」として、空港の整備計画を見直す必要性を指摘した。

 また、CO2排出量削減の実現に向け、各国政府に対してバイオ燃料など持続可能な航空燃料について、展開を加速するため、実証プラントやサプライチェーンの研究開発支援などを求める決議を採択した。

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