エアライン, ボーイング, 官公庁, 機体 — 2025年12月17日 22:54 JST

ANAとJAXA、737の窓越しに大気自動観測 CO2やメタン測定

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 ANAホールディングス(ANAHD、9202)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は12月16日、全日本空輸(ANA/NH)の国内線定期便の機内に設置した観測装置を使い、窓越しに大気成分を自動観測する世界初の実証を始めたと発表した。衛星リモートセンシング技術を活用した取り組みで、航空機と人工衛星による観測データを組み合わせることで、より高精度な大気観測網の構築を目指す。

737の窓越しに大気の自動観測を始めたANAHDの松本紋子氏(右)とJAXAの須藤洋志ミッションマネージャ=25年12月16日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAHDとJAXAは、自動観測装置を共同開発。ANAのボーイング737-800型機の客室を一部改修して設置し、窓越しに地表を観測する方式を採用した。グループのANAウイングス(AKX/EH)が運航する737-800は、国内線を北から南まで日本各地を網羅しており、装置を常設可能にすることで大気成分などを自動測定できる。

 初号機は11月に改修を終えており、2号機は2026年3月の導入を予定。今年度中に2機体制での運用開始を目指す。1日あたり4便程度の観測を実施でき、今後は需要に応じて機体の追加も検討する。これまでは、JAXAが開発した観測装置をANAの旅客機にその都度持ち込んでいたという。

JAXAの人工衛星とANA機による大気観測のイメージ(ANA提供)

 両者は2020年9月から、JAXAが2009年に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測技術を応用し、旅客機の客室内から都市域の大気成分を観測する技術開発を進めてきた。この取り組みは「GOBLEU(ゴーブルー)プロジェクト」として進めており、観測対象はCO2(二酸化炭素)に加え、メタンや酸素、NO2(二酸化窒素)、植物の光合成に伴って発せられる蛍光など、多様な成分に広がる。人間が発生させたCO2が排出量の7-8割を占めるとされる中、都市域での排出削減や効果検証に役立つデータを提供し、パリ協定への貢献も視野に入れる。

 737を選定した理由について、ANAHDのグループ経営戦略室事業推進部 宇宙事業チームの松本紋子氏は「国内線を北から南まで網羅しているのが、737を選んだ一番のポイント。お客さまの快適性に影響を与えない改修を考えた際、複数ある国内線機材の中でも737が最適だった」と話す。

 観測装置は、窓から地表面の斜め下方向約50キロ幅を観測。従来の外気を取り込んで直接観測する「線」のデータ取得とは異なり、「面」の把握が可能になる点が特徴で、観測方法を多角化することで、これまで捉えられなかった変化の観測を目指す。また、JAXAの衛星による広域観測と、ANA機による高頻度観測を組み合わせることで、より精度の高い観測網の構築を目指す。

 分光技術にはGOSAT衛星で実績のある回折格子方式を用いた装置を搭載。太陽光の吸収波長の変化からCO2などの成分を分析していく。

 今回の観測手法や機体改修技術は、特許取得を目指す。JAXA 第一宇宙技術部門 衛星利用運用センターの須藤洋志ミッションマネージャは「安全性やお客様の快適性を損なわずに、科学的な観測を両立させるという意味で、これまでにない新しい取り組み。ANAとの今後の展開を含め、新規性・特許性の観点を重視して共同で進めてきた」と、特許を出願した狙いを語った。

 ANAHDとJAXAは、共同研究を通じて脱炭素社会に資する社会的価値の創出と、新たな経済的価値の創造を目指す。今後は観測データの種類を拡充し、国際機関や政府機関、民間企業、地方自治体などのニーズに応じたデータ利活用事業を構築するとともに、科学的エビデンスの提供によって温室効果ガス削減につなげる。

20年10月26日の羽田発福岡行きで観測されたNO2のデータ=25年12月16日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAXAの人工衛星とANA機によるNO2観測の例(ANA提供)

SIF観測の例(ANA提供)

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