エアライン, 官公庁, 空港, 解説・コラム — 2017年7月3日 22:03 JST

仙台空港、民営化1周年 岩井社長「闇鍋が少し見えるようになる」

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 仙台空港が国管理空港として初めて民営化され、7月1日で1周年を迎えた。従来は滑走路などを国、ターミナルビルを自治体などが出資する第三セクターのビル会社が運営してきたが、仙台空港では管制とCIQ(税関・出入国管理・検疫)を除き民営化。現在は東急グループが54%を出資する、仙台国際空港会社が運営している。

 7月1日には、スカイマーク(SKY/BC)が神戸-仙台線を再就航。約1年8カ月ぶりに、1日2往復で再開した。経営破綻で撤退した路線のうち、初の再開が仙台となった。

 そして2018年4月をめどに高松空港が、2019年4月に福岡空港が、2020年4月には熊本空港も民営化。各空港では業者選定や市場調査などが進んでいる。

 1周年を翌日に控えた6月30日、仙台空港会社の岩井卓也社長は、仙台市内で説明会を開いた。民営化によって生じた変化や、航空会社や社員との関係性、今夏に着工を予定しているLCC就航を視野に入れた「ピア棟(旅客搭乗施設)」新設をはじめ、今後目指していく姿などを語った。

仙台空港民営化1周年について説明する仙台空港会社の岩井社長=17年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
「今年度は大変重要な意味持つ」
「コツコツ積み上げていくことが大事」
「エアラインはビジネスパートナー」
3セク「ろくに人材育成してこなかった」
旅客増「闇鍋が少し見えるようになる」

「今年度は大変重要な意味持つ」

仙台空港で開かれたジェイエアのE190就航記念式典で祝辞を述べる仙台空港会社の岩井社長。この日が民営化初日となった=16年7月1日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

 仙台空港は、2013年7月に民活空港運営法が施行されたことを機に、民営化に向けた動きが始まった。2015年12月に仙台空港会社が国と30年間の契約を結び、2016年7月1日から運営がスタートした。

 仙台空港会社には、議決権比率で東急電鉄(9005)が42%、前田建設工業(1824)が30%、豊田通商(8015)が16%、東急不動産が9%、東急エージェンシーと東急建設、東急コミュニティーの3社が各1%ずつ出資。東急グループが、半数を超える54%を占める。

 岩井社長は「(運営権獲得に向けた)コンペの中で議論し、東急の連結にしようとなったが、(株主間で)まったくもめずに話がまとまった。交通インフラを運営していく上で大事だろう。これはコンペに勝つだけではなく、30年間運営する上でも大事。1年たっても正解だった」と述べ、東急主導で運営できることで、スピーディーに意思決定できているとした。

 旅客数は、民営化前の2015年度が311万人(国内線295万人、国際線16万人)で、2016年度は2015年度比1.6%増の316万人(294万人、22万人)と微増。2017年度は同9.6%増の341万人(314万人、26万人)を見込み、民営化から5年後の2020年度は410万人(362万人、48万人)、30年後の2044年度は550万人(435万人、115万人)を計画している。

 岩井社長は、「今年度が首尾良く着地すれば、5年後の410万人が現実味を帯びてくると言うのが実感。今年度は大変重要な意味を持っている」と語った。

 仙台空港会社が国と契約後に実現した新規就航は、2016年6月29日に就航したタイガーエア台湾(TTW/IT)と、7月1日に再就航したスカイマークの2社。タイガーは週4往復、スカイマークは1日2往復(週14往復)となる。

 既存航空会社の新路線開設は、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)が9月24日から札幌(新千歳)線を1日2往復、翌25日から台北(桃園)線を週4往復で開設する。

 増便は、2016年6月28日にアシアナ航空(AAR/OZ)が、週4往復から週7往復のデイリー運航とした。

 これらの新規就航や増便により、ピーチで年間25万人、スカイマークで20万人の旅客増を予想。すでに1年が経過したタイガーは年間5万人、アシアナは4万人の上積みとなった。岩井社長は「タイガーは、世界の航空商談会である『Routes Asia』への参加で実現した。会議から3カ月強で就航した」と、民営化によりセールス活動した成果だと説明した。

「コツコツ積み上げていくことが大事」

4月にリニューアルした仙台空港1階到着口付近に設けられた「みちのくラウンジ」=17年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 航空会社が新規就航する際、課題として挙げるのが鉄道やバスなど、空港と都市部を結ぶ二次交通だ。2016年11月14日から福島の東山温泉、今年1月25日から岩手の平泉、4月1日から山形の酒田、21日からは山形と仙台空港を結ぶバスの運行が始まった。

 仙台市内とのアクセスとして、仙台空港アクセス線のダイヤが3月4日改正。1日40往復が43往復となり、早朝増発で空港の早朝便の利便性が向上した。

 「増発の効果が明らかに出ており、成田乗り継ぎで海外に向かう方が乗っている」と岩井社長は述べ、「ダイヤ改正をお願いして、1年で変わるのは鉄道会社では極めて異例」と、仙台アクセス線の運行に関わる仙台空港鉄道やJR東日本に謝意を示した。

 ターミナルについてもリニューアルを進めており、4月に到着口がある1階が新装開業。観光案内所を中心に、サービス機能を拡充した。「民営化したのに何も変わらないというクレームを頂戴したので、手を付けられる1階からリニューアルした」と述べ、今後出発口のある2階やレストランのある3階も改修していく。

 また、ターミナル屋上の展望デッキは無料化し、ターミナル内には充電コーナーなどを新設した。

 駐車場も従来の1367台から1594台に拡充。「今夏にはさらに200台ほど増やす」(岩井社長)と述べた。「7月1日分から事前予約サービスを始めた。開始1時間で何台かの予約を頂戴した。待っていただいていたんだな、と感じた。こうしたことを、コツコツ積み上げていくことが大事だ」と語った。

「エアラインはビジネスパートナー」

仙台空港の消防車による放水アーチの歓迎を受けるスカイマークの神戸発初便BC152便=17年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 空港使用料も4月1日に改定した。旅客数が減少したときには、航空会社の負担を軽減する旅客数連動料金を採用し、新規就航などへの割引施策も用意した。

 2016年7月の便数や旅客数を条件として試算した場合、これまでは旅客数に関係なく航空会社が固定で支払う料金が全体の69%、旅客数連動が31%だった。これを連動料金が61%、固定を39%に改めた。

 岩井社長は「エアラインのビジネスは、季節や曜日で旅客数の変動がある。固定比率を下げるお手伝いをしたい。エアラインに寄り添うことで、我々もある程度変動リスクを受け取ろうということだ。エアラインが飛びやすくして、空港の旅客数の成長を狙いたかった」と説明した。

 また、これまでの路線誘致の問題点も指摘した。「これまで路線誘致は、自治体や経済界がやっていた。ほかの空港もそうだが、どうしても陳情型の路線誘致、補助金型の利用促進に偏っていた。これも必要だが、これだけだとうまくいかない」(岩井社長)。

 岩井社長は、「陳情のほかに、商談もないといけない。エアラインをビジネスパートナーと捉え、お互いに商売になるようにしようと、挑戦している」と語った。

 また、国土交通省が掲げる「安全、一律な基本施設の運営管理」にも切り込んだ。「安全は一番重要。安全の名のもとに過重なことは起きていなかったのか、コストコントロールがきちんとできていたのか、現場に即した安全管理や仙台空港の特徴に合わせものができていたのか、こうした点を模索し、小さい点から変えている」と説明した。

3セク「ろくに人材育成してこなかった」

仙台空港に乗り入れるピーチとスカイマーク。仙台空港会社は航空会社とWIN-WINの関係を目指す=17年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 岩井社長によると、仙台空港会社のスタッフは、70人から1年で140人に増えたという。このうち約110人が東北出身者だ。一方で、各社員の出身母体は3社あった空港ビル会社やその株主企業、国交省、プロパーなどとさまざま。雇用形態も、社員もいればアルバイトもいる。

 「従業員のダイバーシティ(多様性)を生かしたい。女性の登用、多言語人材の登用、特殊スキルを持った人材の登用をどんどんやっていきたい。そのためには、一体感を醸成することに腐心している。このことに私自身、相当な時間を割いている」と、現状に触れた。

 一方で、これまでの空港ビルが第三セクターであったことから、人材育成に問題があったと指摘。岩井社長は「こんなに専門用語、英語、経験が必要なのに、ろくに人材育成してこなかった。せっかく30年ないし60年の期間をいただいているので、立派な会社にしてお返ししたい」と、人材育成に注力する姿勢を示した。

 「経験主義、年功序列から、マネジメントを意識してやってほしい。集中改革期間は3年間。一番時間が掛かりそうなことだが、やり終えた時には一番大きな花が咲くのではないか」と、社員の意識改革に期待を寄せた。

旅客増「闇鍋が少し見えるようになる」

東北の中核空港となる仙台。空港民営化という闇鍋は、少しは先が見えるようになるのだろうか=17年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、空港運営に参入した事を改めて振り返った岩井社長は、「航空需要予測は右肩上がり。GDP(国内総生産)に連動し、アジアの成長をダイレクトに取り込める。海外の経済成長を受け、未来は明るい」と、空港運営の成功に自身を示した。

 LCCの就航などを想定したピア棟については、「コンペでは平屋だったが、(トーイングカーなど)GSE(地上支援機材)がスムーズに走れることが大事なので、ピロティ状に変える。関空の(LCC専用ターミナルである)第2ターミナルがイメージに近い」と語った。

 その関空を運営する関西エアポートの中核をなすのは、オリックス(8591)とフランスの空港運営会社ヴァンシ・エアポート。両社が40%ずつ、残り20%を関西企業が出資している。一方、仙台空港会社には、空港運営会社が参画していない。

 岩井社長は、「国内空港でベンチマークがなく、海外で直接勉強して、どう実現するのかという“お題”だと理解し、そういう前提でものごとを考えた」と語り、東北地方や仙台空港のニーズに合ったものを自ら見つけ出していくことの重要性に触れた。

 今年度の旅客数の伸びを重視する岩井社長は、「闇鍋を食べているようだった新規事業が、少し見えるようになってくるのでは」と述べ、7月1日に再就航したスカイマークや、9月に第3拠点化するピーチ、海外から誘致する航空会社勢に期待がかかる。

 就航するエアラインは“パートナー”と呼び、WIN-WINの関係を目指す岩井社長。一方、社内に目を向けると、旧空ビル会社出身の社員を前にしても、「3セクはろくに人材育成してこなかった」と明言できるのは、それだけ社風に変化があったからだと、社員にも信頼を寄せる。

 スカイマーク再就航で好調なスタートを切った、仙台空港民営化2年目。空港からの地方創生の先頭に立ち続けてほしいものだ。

仙台空港
スカイマーク、仙台復活 神戸へ1日2往復、撤退路線初の再開(17年7月1日)
ピーチ、9月に仙台拠点化 札幌・台北に新路線(17年5月17日)
ジェイエア、仙台にE190就航 全便導入へ(16年7月2日)

関西空港
関空、18年通期見通し非公表 山谷社長「国と民間考え方違う」(17年6月1日)
関空、新路線アジア重視へ 山谷社長「欧米も力抜いてない」(17年5月31日)
関空、新LCCターミナル開業 ピーチの国際線就航、3月から春秋も(17年1月28日)
関空と伊丹民営化 関西エアポート始動「特徴違う空港2つある」(16年4月4日)
オリックス・ヴァンシ連合、新関空会社と運営権契約 関空・伊丹民営化(15年12月15日)

福岡・高松・熊本も空港民営化へ
熊本空港、20年4月民営化へ 復興の象徴、市場調査開始(17年7月3日)
福岡空港、民営化の募集要項策定 運営会社、18年5月選定(17年5月17日)
高松空港、民営化の募集要項策定 15日に説明会(16年9月7日)