米NTSB(国家運輸安全委員会)は、中国で2022年3月に起きた中国東方航空(CES/MU)の昆明発広州行きMU5735便(ボーイング737-800型機、登録記号B-1791)墜落事故をめぐり、CVR(コックピットボイスレコーダー)とFDR(フライトデータレコーダー)の復旧報告書など2000ページ近い資料を、米国の情報自由法(FOIA)に基づき開示した。乗客乗員132人全員が死亡した事故で、FDRに残された最後の約12分間のデータでは、巡航中の高度約2万9000フィート(約8800メートル)で、両エンジンの燃料スイッチが「CUTOFF(遮断)」位置に切り替わっていた。事故原因に関わる可能性がある記録だが、中国民用航空局(CAAC)が調査を主導するため、NTSBの報告書は原因判断を示していない。

MU5735便のFDR(NTSBの資料から)
—記事の概要—
・CUTOFF位置記録
・中国当局「国家安全」で非公開
・3分で7900m急降下
CUTOFF位置記録
MU5735便墜落事故の報告書は現地時間5月1日に開示された。報告書によると、FDRは高度約2万6000フィート(約7900メートル)を降下中に記録が途切れており、墜落の瞬間までは記録していなかった。燃料スイッチがCUTOFF位置に切り替わり、両エンジンの高圧軸回転数(N2)は、発電機の作動し続けられる水準を下回った。FDRにはCVRのような予備バッテリーがなく、機体側からの電力供給が止まった時点で記録が終了した。

墜落したMU5735便の残骸(NTSBの資料から)
FDRは墜落時の衝撃で激しく損傷していた。6個あるフラッシュメモリーチップのうち、「U2」チップは内部のシリコンダイにまで亀裂が達しており、NTSBは復元不能と判断した。U2の代わりにダミーデータを挿入し、FDRに残された最後の約12分間について、データのギャップと同期ずれを手作業で補正した。
CVRも激しく損傷していたが、NTSBはコネクター部のピンや基板の損傷を修復し、4チャンネルすべての音声抽出に成功した。音声品質は、NTSBの評価基準で全チャンネルが最高ランクの「Excellent」とされた。復旧したCVR音声データは中国民用航空局(CAAC)に提供され、NTSBはFOIA請求に該当するCVRデータを「保持していない」としている。
同事故の調査はCAACが主導し、NTSBは航空機の設計・製造国である米国側の代表として、CVR/FDRの復旧を支援した。FOIAに基づく請求への回答書によると、NTSBは請求対象として2818ページを特定し、このうち1959ページ、Excelファイル2点、FDRファイル3点の計13ファイルを開示した。商業機密や審議過程、個人情報などは、FOIAの免除条項に基づき黒塗りまたは非開示とされた。

MU5735便のFDRに記録が残る最終90秒間の基本飛行パラメーター(NTSBの資料から)

MU5735便のFDRに記録が残る最終90秒間の基本飛行パラメーターのうち両エンジンの燃料スイッチの記録部分を拡大(NTSBの資料から)
中国当局「国家安全」で非公開
MU5735便の墜落事故は、広西チワン族自治区梧州付近で2022年3月21日に発生。乗客123人と乗員9人の計132人が死亡した。CAACが公表した調査進捗報告としては、2024年3月20日付が現時点でもっとも新しい。事故当日の機体や乗員、管制、燃料などに問題は確認されておらず、引き続き原因分析を進めるとしていた。
CAACは事故に関する情報公開の要請に対し、2025年5月19日付で公表を拒否する書面を出した。書面では、調査情報を公開すると「国家安全や社会安定に危害を及ぼす可能性がある」として、関連法規に基づき非公開とすることを決定したとしている。
3分で7900m急降下
航空機の位置情報を提供するウェブサイト「フライトレーダー24(Flightradar24)」によると、MU5735便は梧州上空で高度2万9100フィート(約8870メートル)を記録後、3分後には高度3225フィート(約983メートル)まで急降下しており、山中に墜落した。機体は2015年6月に引き渡された。座席数は2クラス162席(ビジネス12席、エコノミー150席)、エンジンはCFMインターナショナル製CFM56を搭載していた。
中国本土では、1994年6月6日に中国西北航空機の墜落事故で160人(乗客146人、乗員14人)全員が死亡して以来、28年ぶりの大惨事となった。

墜落したMU5735便の残骸(NTSBの資料から)

MU5735便の墜落事故現場(NTSBの資料から)
関連リンク
中国東方航空
・中国東方航空MU5735便墜落事故、中国当局が「国家安全」で公表拒否(25年6月30日)
・中国東方航空MU5735便墜落、操縦室で意図的操作か WSJ報道(22年5月18日)
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・中国東方航空MU5735便墜落、FAAやボーイングなども調査参加(22年3月22日)
・中国東方航空の737墜落 132人搭乗、昆明発広州行きMU5735便(22年3月21日)
