エアバス, エアライン, 機体, 空港, 解説・コラム — 2025年7月27日 19:40 JST

ピーチA321LR搭乗記 関空-シンガポール、足元広めで6時間半

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 2025年も前半が終わり、航空業界はまもなく最繁忙期の8月を迎える。国際線の日本発需要はコロナで大きく落ち込んだが、徐々に回復傾向がみられ、日並びが良かった2024年の年末年始は各社とも堅調な推移がみられた。個人旅行ではLCCの需要回復が進んでおり、円安や現地の物価高が続く中、航空券代を少しでも抑えたいと考える人が増えている。

関西発シンガポール行き初便MM773便の機内で「たこ昌のたこ焼」を提供するピーチの客室乗務員=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 国内LCC元年となった2012年から13年がすぎ、最初に就航したピーチ・アビエーション(APJ/MM)は国内線、近距離国際線の韓国や香港、台湾、中国、中距離国際線のタイやシンガポールと、徐々に就航地を拡大してきた。

 6月に開かれたパリ航空ショーでは、持株会社のANAホールディングス(ANAHD、9202)が機材を大量発注し、ピーチの機材としてはエアバスA321XLRを3機、A321neoを10機発注。このうちA321XLRは単通路機として世界最長の航続距離4700海里(約8704キロ)を誇り、最大11時間飛行できる超長距離型だ。ピーチが就航20周年を迎える2032年度に受領が始まる計画で、アジアやオセアニアなどの中距離国際線への投入を視野に入れている。

 路線網の拡大を計画するピーチだが、中距離国際線は1路線目の関西-バンコク線が2022年12月27日、2路線目の関西-シンガポール線が2024年12月4日に週7往復(1日1往復)のデイリー運航で就航しており、いずれも最新機材で座席間隔を広くしたA321LR(1クラス218席)を投入している。A321XLRを発注したことで、さらなる長距離路線へ就航する可能性も出てきたが、シンガポールまでの片道約6時間半のフライトはどのようなものだろうか。ピーチの関西-シンガポール線に乗ってみた。

ピーチのA321LRの客室=22年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
シンガポールへ座席間隔広いA321LRで
USB充電にも対応
2032年にA321XLR

シンガポールへ座席間隔広いA321LRで

 ピーチの福島志幸執行役員は「A321LRの導入当時からシンガポール線を計画していた。シンガポールは人気のディスティネーションであり、成長の糧になる。A321LRはピーチの機材で座席間隔が一番広く、USB端子による充電もできる。バッテリーの不安なくお過ごしいただける」と、スマートフォンやタブレットが旅の必須アイテムとなる中で、充電用USB端子を用意したことに触れた。

関西空港で出発を待つA321LRによるピーチのシンガポール線初便MM773便=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 A321LRは、ピーチが2012年3月の就航時から使用しているA320ceo(従来型A320)と胴体長を比べると約6.9m長く、航続距離もA320ceoの6200kmより1200km延びて7400kmになった。LRは「Long Range(ロングレンジ)」の略で、シンガポール線のように6-7時間程度の路線にも投入でき、現在は3機運航している。

 シートピッチ(座席間隔)は大手の国内線機材と同等の30-32インチ(約76-81cm)で、従来のA320ceoと比べ最大約10cm広い。私は就航初便のシンガポール行きMM773便と、現地発2日目となる12月6日の関西行きMM774便に搭乗したが、LCCでありがちな窮屈さはなく、国内線で東京から沖縄へ向かうような感じだった。

A321LRによるピーチの関西発シンガポール行き初便MM773便=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関西発シンガポール行き初便MM773便の機内で出発準備をするピーチの客室乗務員=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 10月25日までの夏ダイヤ期間中、シンガポール行きMM773便は午後7時5分に出て、翌日午前0時45分に着き、関西行きMM774便は午前2時15分に出発して、午前9時55分に到着する。つまり往復とも寝ている間に目的地へ着くため、トイレに行くことが多い人であれば通路側、ゆっくり過ごしたい人は窓側と目的ごとに座席を指定すれば、シートピッチが気になることはないだろう。実際、初便の機内でも遅い時間になるとほとんどの人が眠りについていた。

 ピーチの場合、機内食はオプションだ。シンガポール就航に合わせ、コロナで中止していたホットミール(温かい機内食)の販売を再開し、シンガポール名物のチキンライスを新たに用意するとともに、コロナ前の名物メニューだった「たこ昌のたこ焼」が復活した。クレジットカード決済は従来事前登録が必要だったが、その場で決済できるように改善し、現金でも購入できる。7月からは事前購入できるようにし、新メニュー「海のパラダイスカレー」なども登場している。

ピーチが機内で販売する「たこ昌のたこ焼」とコーラ=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関西発シンガポール行き初便MM773便の機内で記念品「むか新のバターケーキ」を用意するピーチの客室乗務員=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関西発シンガポール行き初便MM773便の機内で記念品「むか新のバターケーキ」を手にするピーチの客室乗務員=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 客室乗務員は5人が通常編成で、前に2人、中央に1人、後ろに2人となるが、初便は1人多く乗務しており、後方のギャレー(厨房設備値)では3人の客室乗務員が手際よく機内食や機内販売を準備していた。関空を12月4日午後6時56分に出発した初便は、現地時間翌日午前1時7分にシンガポールのチャンギ国際空港へ到着。深夜のひっそりしたターミナル2に降り立った。

 深夜に着いてシンガポール市内へ向かう場合、ライドシェアサービスやタクシーを使うことになり、MRT(地下鉄)を利用する場合は午前5時31分発(日曜は同59分発)の始発まで待つ必要がある。

 私の場合、可能であれば折り返し便で帰国したかったが、入出国の審査などの関係で間に合わないため、到着から約24時間後の便で帰国することにした。ターミナル内のトランジットホテルで仕事を再開し、翌朝から帰国便に搭乗するまでは空港内を転々として仕事を続けた。観光で利用するのであれば、シンガポールに到着した日の早朝から夜まで過ごせるので、短期滞在でもフルに現地で過ごせる。

ピーチのA321LRの安全のしおり、機内誌「MOMOMAG」、機内食販売のメニュー=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関西発シンガポール行き初便MM773便の機内で機内販売の準備をするピーチの客室乗務員=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関西発シンガポール行き初便MM773便の機内で機内販売の準備をするピーチの客室乗務員=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

USB充電にも対応

 ピーチのA321LRは、シートピッチが大手の国内線機材と同等の30-32インチ(約76-81cm)で、A320ceoの28インチ(約71cm)と比べ約5-10cm広い。そして、座席のエリアごとにピッチが異なる点が特徴だ。

USBケーブルを挿したピーチのA321LRの充電用USB端子=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 1列目から8列目までは31インチ(約78cm)、8列目から17列目までが30インチ(約76cm)、非常口を挟んで進行方向左側の18列目から左最後尾37列目までが31インチ(約78cm)、右側は18列目から26列目までがもっとも広い32インチ(約81cm)、非常口を挟んで27列目から右最後尾36列目までは31インチ(約78cm)となる。

 つまり、8列目から17列目までは30インチとやや狭いが、前方と非常口より後ろは32インチとなり、標準的な体形の人であればシートピッチに不満を感じることはないだろう。

ピーチのA321LRのシートマップ(同社提供)

シートピッチにゆとりがあるピーチのA321LR=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シートピッチにゆとりがあるピーチのA321LR=24年12月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 スマートフォンなどの充電に使えるUSB端子の形状は、Type-A(メス)を採用。ちなみにType-Cのケーブル端をType-Aの充電用端子に接続できるようにする「Type-C(メス)→Type-A(オス)」の変換アダプターは、USB規格を策定する非営利団体「USB-IF(USB Implementers Forum)」が規格違反として禁止しており、使用できない。スマートフォンなどのUSB端子がType-C(メス)で、充電用USB端子がType-A(メス)の場合、「Type-C(オス)-Type-A(オス)」のケーブルを使用する。

 近年、粗悪なモバイルバッテリーが原因の航空機火災が発生しているが、充電器やケーブル、アダプター、バッテリーなど通電するものは、安全性を考慮せず安価な粗悪品を購入すると、人命にかかわる問題になりかねない。

閑散とした深夜のチャンギ空港ターミナル2=24年12月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

チャンギ空港内の商業施設ジュエル=24年12月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

2032年にA321XLR

 関西-シンガポール線の片道運賃を見ると、8月の関空発はお盆期間に突入する9日土曜と10日日曜は3万9920円からとなるが、14日以降は半値以下の1万3690円に設定されている日が多い。出発日を工夫すれば東南アジアへの旅行であっても、国内線並みの片道運賃で移動できる。空の旅に対する考え方は人それぞれだが、深夜便で寝ているうちに目的地に着くのであれば、運賃の安さを優先したい、という人も多いのではないだろうか。

シンガポールに到着したピーチの関西発初便に乗務した客室乗務員たち=24年12月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ピーチのA321XLR(イメージ、同社提供)

 就航10周年の2022年に中距離国際線へ進出したピーチ。バンコクに続くシンガポール就航で、日本と東南アジアを結ぶ高需要の2路線がそろった。就航20周年を迎える2032年には、A321XLRが就航することでより長距離の路線も余裕を持って開設できるようになる。

 旺盛な訪日需要の取り込みだけでなく、日本から海外へ旅立つ人の足として育ってほしいものだ。



【足もと広々】ピーチA321LRの機内【4K】


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動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
【足もと広々】ピーチA321LRの機内【4K】

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