今年3月30日で開業6周年を迎えた沖縄の下地島空港。富裕層向けのビジネスジェット専用ターミナルも昨年4月に開業し、この6月には香港エクスプレス航空(HKE/UO)が香港線を約4年ぶりに再開する。

下地島エアポートマネジメントの鶴見社長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
三菱地所(8802)が空港運営を手掛ける中で、もっともリゾート色が強いのが下地島空港だ。同社などが出資する空港運営会社、下地島エアポートマネジメント(SAMCO)の鶴見弘一社長に、島の魅力を空港からどう発信するか、地域と一体となった空港運営の在り方などを聞いた。
—記事の概要—
・「空港からリゾートが始まる」
・ビジネスジェット専用ターミナルで富裕層狙う
・空港をまちづくりの起点に
「空港からリゾートが始まる」
下地島空港は1979年7月5日に開港。地方管理空港で、滑走路は3000メートル×60メートル(RWY17/35)が1本、スポット(駐機場)は大型機用が5つ、中型機用が1つ。島全体が空港用地となっており、かつては国内唯一の民間ジェット機の訓練空港として利用されていた。2019年3月30日に旅客ターミナルが開業し、三菱地所はリゾート空港としての特性を生かし、地域との共生を軸に運営を進めてきた。

下地島空港着陸時に見える宮古ブルーの海=24年9月12日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire
「最初はまったく知らない土地で、空港の運営も初めて。正直、着任当初は戸惑いの連続でした」。2023年4月に社長に就任した鶴見氏は、着任当初をそう振り返る。不動産事業で長年キャリアを積んできたが、航空業界とは無縁だった。「ベースとなる知識がなかった分、まずは勉強するしかなかったです」と話す。
三菱地所は丸の内ビルディング(丸ビル)をはじめ、商業施設の開発実績も豊富だ。「空港には、立地に左右されずに人が集まってくる特性があります。そこをどう生かすかが、商業施設を手掛けてきたデベロッパーの視点で考えられるところ」と鶴見社長。空港単体ではなく、周辺地域や観光資源との一体運用を念頭に、地元との連携を重視してきた。

リゾートを意識した下地島空港のターミナル=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

下地島空港にほど近い伊良部島の渡口の浜=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
「行政や観光協会、商工会議所など、地域の関係者との信頼関係がなければ、空港運営は成り立たないと思いました。最初は不安もありましたが、みなさん本当に温かく迎えてくれて、感謝しかありません」。「お酒が人と人をつなげてくれる。お付き合いの中で、いざというときに頼れる関係が築けるんです」と、その背景には、宮古島ならではの“お酒の文化”もあるという。
空港の到着口を出た瞬間に目の前に広がる非日常空間。下地島に降り立った最初の印象を大切にする考え方は、ターミナル設計にも反映された。「空港からリゾートが始まる」というコンセプトのもと、観光客が旅の始まりと終わりを快適に過ごせるよう、出発ロビーにはラウンジも設けた。「観光客にとって、旅の最初と最後の印象はとても大事。次の訪問につながるような体験を提供したいと思っています」
ビジネスジェット専用ターミナルで富裕層狙う
2024年4月には、富裕層向けのビジネスジェット専用ターミナルが開業した。プライバシーを重視した設計で、乗客の滞在時間を最小限に抑えるとともに、乗務員向けの仮眠室やシャワー室なども完備。専用CIQ(税関・出入国管理・検疫)も備えるなど、国内外からの富裕層受け入れに向けた環境整備が進んでいる。

下地島空港のビジネスジェットターミナルのラウンジ=24年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
鶴見社長のもとには、友人たちから「鶴見がいるなら宮古に集まろうか」という声も届くという。「人を惹きつける力、癒やす力がこの島にはあると思います」と語る。
今年6月27日からは、香港エクスプレスが香港線を約4年ぶりに再開する計画だ。「インバウンドの玄関口として、島の魅力をどう発信できるかが問われています。空港だけではできないことも多く、地域一体となった取り組みが不可欠です」と鶴見社長は強調する。

スカイマークの累計搭乗者数が100万人を突破した下地島空港=24年9月12日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

スカイマークの下地島空港便100万人達成記念セレモニーで挨拶する下地島エアポートマネジメントの鶴見弘一社長=24年9月12日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire
一方、スカイマーク(SKY/BC、9204)は、2020年10月25日に羽田・神戸・那覇の3路線を同時開設し、2023年からは福岡線も季節運航を実施。就航から約3年11カ月後の2024年9月12日には、下地島発着の累計搭乗者数が100万人を突破した。
鶴見社長は「新型コロナの逆風の中でのスタートだったが、それを逆手に取るように、リピーターも増えている」とあいさつし、地域の支えがあったからこそ、空港の成長につながったという。
空港をまちづくりの起点に
三菱地所では、空港を“まちづくり”の延長線上にある存在と捉え、商業施設やホテルなど、グループ全体の知見を生かした運営を進めている。

スカイマーク機から見た下地島空港=24年9月12日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

「地域と共に歩んでいく存在でありたい」と話す鶴見社長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
「空港を通じて、地域の価値をどう引き出すか。私たちは空港の運営を通して、地域と共に歩んでいく存在でありたいと思っています」と鶴見社長は語る。
2019年の開業から6年。着実に実績を積み上げてきた下地島空港は、今後も三菱地所グループのネットワークを生かし、リゾート空港としての可能性を広げていく。
(おわり)
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