エアライン, 空港, 解説・コラム — 2013年9月30日 07:00 JST

スマホ導入でチームワークも向上 特集・ANA空港係員はスマホで業務改善(前編)

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 空港でよく見かける風景に、小型無線機を手に奔走する航空会社の空港係員(グランドスタッフ、GS)の姿がある。この無線機は、出発時刻が近づく便の乗客誘導やスタッフ間の連絡などで使用するものだ。乗客から欠航便などの問い合わせがある場合は、無線機と搭乗ゲートにある端末を駆使して応じている。

 こうしたGSの業務を改善するツールとして、全日本空輸(ANA)は2月26日から、NTTドコモ(9437)のスマートフォン300台を羽田空港に導入した。国内線200台と国際線100台で、業務効率の改善や顧客サービスの品質を向上するほか、運営コスト削減にもつなげる。従来の無線機(MCA無線機)も、ドコモの回線に障害が発生した際のバックアップとして併用している。

 スマートフォン導入により、最大200人の同時通話が行えるドコモのサービス「ボイスミーティング」を活用して複数スタッフが同時通話できるようになるほか、業務用端末から得ていた運航情報なども文字や画像で送受信が行えるようになる。スマートフォン上のアプリケーションを利用すれば、乗客から到着地の交通情報や空港内の情報などを尋ねられた際も、搭乗ゲートの端末を使わずに、その場で情報提供が可能だ。

 スマートフォンの導入はGSたちからの発案で始まった。空港がもっとも混雑する8月のお盆休みを経て、新システムはどのような活躍をしたのだろうか、羽田空港のGS、ANAエアポートサービスの大上ひろ子さんに話を聞いた。

スマートフォンを手にするANAエアポートサービスの大上さん=13年9月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

携帯しやすさでスマートフォン

羽田空港に所属するANAのGSが使用するスマートフォン=13年9月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 お盆休みが過ぎ、今度は台風シーズンを迎える。「自社便で欠航や遅延が発生すると、他社便の状況をお客様から尋ねられることが多いです」と大上さんは話す。問い合わせを受けると、GSたちは搭乗ゲートの端末で調べて回答する。

 しかし、これでは乗客から尋ねられたその場では対応できない。「欠航などのイレギュラーが起きた際、その場で答えられるのが空港係員のあるべき姿だと思っていたので、対応できるようにしたいと思っていました」。

 大上さんが普段受ける問い合わせでは、こうした他社便の運航状況のほか、羽田空港へ乗り入れる京急電鉄や東京モノレール、バスなど、他の交通機関の運行情報を尋ねられることが多いという。そして、スマートフォンやタブレット端末が普及した今、現場で対応に追われ続けるGSよりも、問い合わせる乗客側が最新の情報を持っている場合すらある。

 そこでANA社内の業務改善を提案する場で、GS側からスマートフォン導入を提案。2月からの導入となった。

 ANAでは、すでに客室乗務員や運航乗務員、整備士がアップル社のタブレット端末「iPad」を導入している。「携帯しやすいことが重要。スマートフォンが機能と大きさの点でベストなものだと思います」と大上さん。常に動き回る彼女たちには、これまで主力だったMCA無線機と同程度の大きさであることも、スマートフォン導入の決め手となったようだ。

会話に譲り合い

コントローラーとして現場に指示を出す大上さん=13年9月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 無線機での交信は、送信側と受信側が1対1で話すため、すでに行われている交信が終わるまで、待たなければならない場面もあったという。これがスマートフォン導入により、多人数が同時会話できるようになったため、より迅速に連絡を取り合えるようになった。「スマートフォンを導入してからは、“現在の交信はスタンバイをお願いします。この情報を飛ばさせてください”ということができるようになりました」と大上さんは説明する。

 1対1ではなく多人数が同時に話せるというのは、便利なように見えて各自が自分の言いたいことを話し始めることはないのだろうか。大上さんは現場の空港係員へ指示を出す「コントローラー」と呼ばれる役割も担当しており、「以前の会話より内容が精査されていますね。係員同士も常に交信を聞いているので、譲り合って交信を控えたりしています」と変化を感じている。起きている事象に対しては、優先順位を付けて対応しているそうだ。

 スマートフォンではショートメール機能も利用している。列車遅延や駐車場が満車になったことで、乗客の乗り遅れが生じる可能性があるなど、これまで係員用モニターに出していた情報を、ショートメールでも流している。手もとで確認でき、便利になった反面、スマートフォンが共有端末であるがゆえ、自分の前に使用したGSがメッセージを既読にしたかなど、端末の利用状態によっては最新情報を見つけにくいのが、現時点では課題だと大上さんは指摘する。こうした要望や日々の問題点は、備品を取りまとめる担当者とのミーティングで共有している。

 また、スマートフォン上のウェブブラウザを使って、乗客に案内することもある。「台風が迫っている時は、台風の位置情報などを画像や文字でお見せすると、口頭で説明するよりも安心していただけます」と、スマートフォンの画面を見せることで、乗客に状況を説明しやすくなっているようだ。

「海外ではあり得ない」

 大上さんがスマートフォンが導入されて役立った例を挙げてくれた。天候が悪いある日、乗客が多い上に運航が乱れていた。ANA便からJAL便への乗り継ぎ客がいたが、ANA便の到着が遅れ、徒歩では間に合わないので空港内をバスで移動した。

 バスの車内で大上さんは、乗り継ぐJAL便のスポットや機体番号が間違いないかを確認。従来、無線機を使用していた時は、無線でコントローラーに連絡を取り、コントローラーがJALへ電話で連絡していた。乗り継ぎ時間が迫る中、大上さんはJALへ直接電話し、無事乗り継ぎを間に合わせることができた。

 乗り継ぎの際、ある乗客から「海外ではあり得ないことだ」と、大上さんは声を掛けられた。その乗客は、海外でよく飛行機を利用する人だったという。

チームワークも向上

 ショートメール機能の表示など、現場として改善を望む点は、導入から半年程度とあって、まだまだある。

 空港係員に変化はあったのだろうか。「個人個人の会話を聞き取るモニター力が向上しました。より良く、早く仕事をするためには、どうすれば良いかを考える力がついたと感じます。チームワークも良くなりましたね」。スマートフォンの満足度について大上さんに尋ねると、80点くらいと評した。

 スマートフォン導入は、現場で使える機能が増えるといった業務改善だけではなく、空港係員のスキル向上にも寄与した。

 しかし、無線とは異なり、スマートフォンは電話だ。通話料などはどうしているのだろうか。次回は、導入までの経緯や運用面の工夫などを、ANAの業務プロセス改革室と、GSを支援するオペレーションサポートセンターの担当者の話を取り上げる。(後編はこちら

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