エアライン, 業績, 需要, 需要予測 — 2022年6月20日 23:33 JST

IATA、航空業界の損失97億ドル 第78回総会開幕、23年黒字化視野

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 IATA(国際航空運送協会)は現地時間6月20日、今年の航空業界の損失は97億ドル(約1兆3096億円)になるとの見通しを示した。2021年10月発表の116億ドルの損失予想から19億ドル上方修正した。北米では88億ドルの黒字が見込まれており、2023年の業界全体の黒字化は手の届くところにあるとした。

 2020年の損失1377億ドル、2021年の421億ドルから大きく改善する見通しで、世界の航空会社は人件費と燃油価格の上昇にもかかわらず、効率化と利回り向上で損失幅を縮小できる見込み。

ドーハで開幕したIATAの第78回年次総会で業界の業績予想を発表するウィリー・ウォルシュ事務総長=22年6月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
旅客需要回復もコストに課題
ウクライナ問題

旅客需要回復もコストに課題

 カタールのドーハで20日から開かれている第78回AGM(年次総会)で、IATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は、「燃料費をはじめコスト面の課題が残っており、一部の主要市場では規制が残っているとはいえ、楽観視できる時期だ」と述べ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の規制緩和により、旅客需要が回復していくとの見方を示した。一方、燃油価格の高騰がしばらく続くとみられることから、業界全体でコストコントロールに注力する必要があるとした。

ドーハで開幕したIATAの第78回年次総会=22年6月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 航空業界の収益は、2019年の93.3%にあたる7820億ドル(21年比54.5%増)に達すると予想。今年の運航便数は3380万便となり、2019年の水準(3890万便)の86.9%となる見込み。

 旅客収入は、航空業界収入のうち4980億ドルを占め、2021年の2390億ドルの2倍以上になると予想。予定旅客数は38億人に達し、RPK(有償旅客キロ)は2021年比97.6%増、2019年の82.4%に達すると予想した。

 貨物収入は、業界収入のうち1910億ドルを占めると予想。2021年に記録した2040億ドルからは若干減少するものの、2019年に達成した1000億ドルのほぼ2倍となる見込み。今年の業界全体の貨物輸送量は6800万トンを超え、過去最高を記録すると予測した。

 航空業界のコストは2021年比44%増の7960億ドルと予想。このうち燃料費は1920億ドルでコスト全体の24%と2021年の19%から5ポイント上昇する見通し。ブレント原油の平均価格は1バレル101.2ドル、ジェットケロシンは同125.5ドルと予測している。

 燃料費に次ぐコストとなる人件費は、2021年比7.9%増の1730億ドルに達し、総雇用数の4.3%増とは不釣り合いになると予想した。

 航空業界の直接雇用は、2020年の大幅な業績悪化からの回復に伴い、2021年比4.3%増の270万人に達すると予想。しかし雇用は2019年の293万人をやや下回っており、しばらくはコロナ前の水準を下回ると予想している。雇用後に戦力となるまでには訓練などが必要であることから、雇用の遅れが航空会社の旅客需要への対応能力の制約となる可能性も指摘した。

ウクライナ問題

 また、ロシアによるウクライナ侵攻の影響については、航空業界が受ける影響は人道的な悲劇に比べれば微々たるものとしながらも、紛争がエスカレートしない前提でコスト増をリスク要因として挙げた。

 旅客需要では、ロシアの国際線市場とウクライナ、ベラルーシ、モルドバを合わせると、2021年の世界の交通量の2.3%を占める。また、RPKの約7%は通常ロシア領空を通過する(21年データ)が、現在多くの航空会社がこのルートを回避しており、影響を受けた航空会社はルート変更の影響でコストが大幅に増加するとした。

 貨物需要では、世界の貨物輸送量の1%弱がロシアとウクライナを発地または経由している。より大きな影響を受けるのは、ロシアとウクライナが市場をリードしている重量貨物という特殊な分野で、キャパシティーの損失は代替が困難だとした。

23年はイスタンブール開催

 AGMは年に1回開催され、世界各国の航空会社や機体メーカーなどの首脳陣が一堂に会し、航空業界の重要な指針が示される。2023年はトルコのイスタンブールでの開催が発表され、同国のペガサス航空(PGT/PC)がホストを務める。

 IATAはサステナビリティ(持続可能性)やダイバーシティ(多様性)、規制、インフラコストの管理といった航空業界の重要な優先課題に取り組みながら、世界的な航空路の再構築を進めていく。

 今回のAGMは、2019年にソウルで開かれた第75回以来の完全現地開催で実施。2020年の第76回はオンライン開催、2021年の第77回はボストン現地とオンラインの併催だった。また、今回は当初、中国東方航空(CES/MU)がホストを務め、上海で開かれる予定だったが、感染拡大の影響でカタールに変更された。カタールでのAGM開催は、2014年以来8年ぶりだった。

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IATA

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