エアバス, エアライン, 機体, 解説・コラム — 2022年4月19日 19:54 JST

ピーチとジェットスター、新機材A321LR客室はどう違うのか

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による旅客需要の落ち込みが一服し、航空会社では新造機の受領が世界的に進んでいる。日本でもANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下のLCCであるピーチ・アビエーション(APJ/MM)が、エアバスA321LRを日本で初導入し、2021年12月28日に就航させた。コロナ後の旅客需要は観光から回復が見込まれており、運賃の安いLCCは世界的にも搭乗率が回復傾向にある。

 国内のLCCでは、日本航空(JAL/JL、9201)が半数を出資するジェットスター・ジャパン(JJP/GK)もA321LRを7月1日に就航させる。A321LRは、新型エンジンの採用で燃費を向上させたA321neoの長距離型。両社とも中距離国際線に参入するため、コロナ前に発注した機材だ。しかし、各国の入国規制などもあり需要回復は国内線が先行することから、当面両社は国内線の高需要路線を中心に投入する。

ピーチのA321LR(同社提供)

ジェットスター・ジャパンのA321LR(同社YouTubeから)

 ピーチとジェットスターのA321LRは、ともに「エアバス・キャビン・フレックス(ACF)」と呼ばれるエアバスの新客室レイアウトを採用。座席数を増やしたり、従来と同じ席数でもシートピッチ(座席間隔)を広げやすくした機体だ。外観をよく見ると非常口の数に違いがあり、座席数も異なる。両社のA321LRの客室は何が違うのか。

—記事の概要—
異なるシートピッチ
非常口も異なるA321LR

異なるシートピッチ

 A321LRのベースとなるA321neoは、A320ファミリーの標準型であるA320neoの胴体を約6.9メートル伸ばした長胴型で、A321ceo(従来型A321)の後継機。このA321neoの航続距離を伸ばしたのが長距離型のA321LRで、2018年1月31日に初飛行した。航続距離はA321neoの約6760キロ(3650海里)から約7408キロ(4000海里)に延び、2019年6月には約8704キロ(4700海里)に延長した超長距離型のA321XLRがローンチした。3機種のうち、日本の航空会社が導入しているのはA321neoとA321LRだ。

ピーチのA321LRの客室(同社提供)

リクライニングする新シートを採用したピーチのA321LRの客室。写真は手前のみ背もたれを倒した状態(同社提供)

 A321LRの座席数は最大1クラス240席。追加燃料タンクを使うと航続距離が4000海里に延びるが、206席に減少する。

 ピーチのA321LRは座席数が1クラス218席。シートはレカロ製BL3710で、シートピッチは30-31インチ(約76-78センチ)と従来の28インチ(71.12センチ)よりも広くなり、LCC(低コスト航空会社)の機材だが全日本空輸(ANA/NH)などフルサービス航空会社(FSC)の国内線機材と同等になった。また、各席に充電用USB端子を備えている。

ジェットスター・ジャパンのA321LRの機内(同社サイトから)

ジェットスター・ジャパンのA321LRの機内(同社サイトから)

 ジェットスターのA321LRは1クラス238席。シートは同じくBL3710で充電用USB端子付きだが、シートピッチは従来のA320(1クラス180席)とほぼ同じ28インチとした。

 ピーチによると、座席レイアウトを変更する予定はないといい、中距離国際線向けのシートピッチで国内線を飛ぶ。ジェットスターの場合、コロナ前の計画通りに5時間を超える国際線を開設した際は、快適性が気になるところだ。

非常口も異なるA321LR

 ピーチとジェットスターのA321LRは、外観も若干違いがある。従来のA321は片側4カ所にドアがあり、両端が乗降用、主翼の前後は非常口だ。キャビン・フレックスでは、主翼前にある左右の非常口をなくし、翼上席にA320と同様のやや小型の非常口を新設することで、緊急脱出に使う非常口の数を維持しつつ、座席数を確保できるようにした。

ANAのA321neo。非常口は主翼前後に設けられている=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAのA321neoの主翼前方非常口付近=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 この翼上の非常口はピーチとジェットスターで扱いが異なる。座席数が少ないピーチのA321LRは片側1カ所、最大座席数に近いジェットスター機は2カ所となっているが、ピーチ機もよく見ると非常口の扉は片側に2つあり、後方のみ非常口としている。客室に入ると前方の非常口は通常の内壁で、窓のシェードのみ非常口と同じ下から持ち上げるタイプになっており、非常口用の窓として作られていることがわかる。

ピーチのA321LRの翼上非常口は後方のみで前方は扉があるものの非常口ではない(同社提供)

ピーチのA321LRの左側18列目の翼上非常口。ピーチの場合17列目は通常席になる(同社提供)

ジェットスター・ジャパンのA321LRの翼上非常口は片側2カ所(同社YouTubeから)

 シートマップを見ると、ピーチのA321LRは前方ドアから翼上非常口までが17列、主翼後ろの非常口までが9列、後方ドアまでが11列で計37列。ジェットスターのA321LRは前方ドアから翼上前方の非常口までは17列で同じだが、翼上前方と後方の非常口の間に1列、主翼後ろの非常口までが10列、後方ドアまでが12列で計40列と、ピーチより3列多い。

ピーチのA321LRのシートマップ(同社サイトから)

ジェットスター・ジャパンのA321LRのシートマップ(同社サイトから)

 エアバスによると、2020年ごろからA321LRと同じ非常口配置がA321neoの標準仕様になったという。これにより、複数クラス仕様から高密度仕様まで、より多様な客室仕様に対応できるようになった。ピーチによると、同社が発注時は翼上の非常口は後方が標準装備、前方がオプションだったため、同社の座席数で必要な後方のみになったそうだ。

 A321LRが真価を発揮する中距離国際線への投入時期は両社とも見えていない。当面は1便当たりの座席数が増えることで、旅客需要の回復期を支えることになりそうだ。

関連リンク
Airbus
ピーチ・アビエーション
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